11-9.光
「気に入らないわ、あの子。うちにいる騎士たちも気に入らないけれど、あの子が一番。だって私と彼の運命を歪ませる元凶だもの……」
目の前の小さな赤い唇が、低い声音と共に歪に動く。
「……あの子は何もしていないだろう」
君があの子を苦しませているだけだ。とても勝手な思いで。
「あなたまで、あの子を庇うの?」
君は気付いているのだろうか、今の君の表情が持つ意味に。
「本当に嫌な子ね。何もかも持っているんだわ。皆あの子のことばかり気にしているの。私が一番ではないの。そうでなくてはいけないはずなのに。そうなるはずなのに」
可愛らしい桜色の爪が、艶のある、妖艶な唇に咥えられるのをじっと眺める。
「アレックスも昔のようには私に接してくれないのよ……」
それから少しだけ悲しそうに、美しく整えられた眉根を寄せた。
「気持ちは、」
前に一度街中で出会ったことがあるあの子は、街の人に話しかけられて快活に笑っていた。
「気持ちはとてもよくわかるよ」
太陽のような印象だった。側にいると温かくなって、どこか気分が軽くなる。
アレックスだけじゃない。あの子の表情が陰るのを見たくないと言う人間は、きっと他にもたくさんいるだろう。まるっきり僕とは、僕らとは対照的だ。
深い碧玉の瞳が見開かれ、彫像のような顔全体が醜く歪んだ。
「許さないわ、絶対に……」
君の顔が可愛らしい天使の顔へと戻る。
「ねえ、協力してくれるでしょう?」
思考の鈍る眠りにゆるゆると引きずり込まれるような甘美な声と共に。
どうしてだろう。
彼は痛みすら感じさせるような光に心奪われたのに、僕が捕らえられたのは甘い、先の見えない深い闇だ。
淫靡さを感じさせる作り上げられた声に、媚びを含んでこちらを見上げる潤んだ目、毒々しい言葉を発する愛らしい唇――そのすべてに魅了される。
伸ばした手に触れる華奢な手首。
「……すべては貴女の思し召しのままに」
引き寄せたその手の甲に口づけると、君は満足そうに小さく笑った。その一瞬だけ、昔のままの表情で、本当に幸せそうに。
「……」
そうしてまた全身が軋み始める。
(……もういい、もう疲れた)
君がそれを運命だと思うのなら、そう望むならそれに従ってあげよう。
けれど最後はすべて僕の望むままに。
君が闇に染まるつもりならば、僕はそれすらのみ込む暗黒となろう。
それゆえに誰を傷つけることになっても構わない。
それゆえに君以外の誰を失っても構わない。
それがどこまでも堕ちることを意味していたとしても、もう厭うこともできない。
それでも……もし残りわずかとなった良心で祈ることが許されるのなら。もし愚にもつかないそんな祈りが許容される余地があるのなら。
――どうか、彼だけでも。
闇の淵で彼を罠に引き擦り込む算段を巡らしながら、一方でそんな未来を見たいと願っているのも本当なんだ。




