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そして君は前を向く  作者: ユキノト
第11章 咫尺天涯
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11-1.闇

「彼女のことは気にしないのかい?」

「関係ないわ。彼の運命の相手は彼女ではないのだから」

 妖艶さが滲むようになった笑みには、傲慢なまでの自信が漲っている。


「本当に? 君は彼を変えられなかったのに、彼女は彼を変えたよ……?」

 美しい形の目が、眉が、口が、屈辱に歪み、その碧玉の瞳に影が宿る。

 だが、それすら僕の目には美しいと映る。


「そんなこと、運命の前ではなんの役にも立たないわ。神によってそう定められているのだもの」

「だが、『運命』で想いが変わるようには思えない」

 僕の言葉に、整った顔に不機嫌が浮かんだ。


「おいで」

 完全美に傷をつけた――屈折した悦楽を覚えると、感情のままその華奢な身を抱き寄せる。

 そして、儚い抵抗を全て無視して、無理やり胸の中へと収めた。

 柔らかい感触、回した腕に絡みつく艶やかな黒髪、胸に感じる吐息の熱、そのすべてに体の全細胞が反応する。


「ではきっとこれから変わるのよ」

 胸の内から僕を見上げてきた瞳に、苛烈な激情が宿る。

 その暗い色にぞくりと背筋が震えた。

「そう」

 そうして、愚かにもさらなる泥濘に嵌っていく。


「望んで手に入らなかったものなんて私にはないの。だから彼は……彼も私のものよ」

 あどけない桃色の唇が、その色に似合わない残酷な形に弧を描く。

「欲しい物は絶対に手に入れる。私はそれを神に許されているの」

「……そう」

 僕の唇に伸びる白くて長い指をじっと見つめて、それが触れた瞬間に微笑みを返した。

 奇遇だね。僕もそうなんだ。君が何をしようと何を望もうと、君を手放す気なんて欠片もない――。


 だから好きにしたらいい。

 好きにさせてあげるから。


 僕には彼すら陥れることができるだけのものが備わっている。

 君が望むのならば、そのすべてを使ってなんだって叶えてあげよう。


 そうして僕はどこまでも堕ちていく――。


 けれど、君も道連れだ。

 甘やかして、その享楽でもって、四肢と思考をすべて絡め取って、そうと気付けないほど溺れさせて、そうしてどこまでも堕としてあげよう。


 その先に待つのが、光の一切届かない深遠な闇だろうとかまわない。

 そこに共にいるのが君であるのならば、むしろ僕はそれで満たされるのだから。


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