表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

那乃と夕食を

 ヒロが帰った後、ちょっと遅くなってしまったけれど、夕食を取った。しかし、私も那乃も無言。

 なんで機嫌が悪いのかなー? 那乃ちゃん。

 彼女は、黙々と唐揚げを口に運び咀嚼する。

 油物は太るから食べたくないと、自粛してたんじゃないのかな?

 こんなこと、流石に言葉には出来なかったが。


「お水飲みたい」

「うん」


 机の端にあった水差しを手にとり、彼女の前に置いてあげた。那乃は、空になったコップに水を注ぎ、一気飲みをする。

 粗暴な動作に、やはり荒立っていることを感じる。


「私はいいんだよ! でもね、絶対に幸せにはなれないと思うんだよね」


 いきなり、まくし立てるようにして話し始めてきた那乃に動揺する。


「な、なの……?」


 どうしたんだろう。

 那乃は感情の起伏が激しいところはあるが、ここまでのものは珍しい。


「おねーちゃんの話だよ。だいたい、あの男のどっこがいいのか分かんないんだよね」


 あの男と言われて、頭に浮かぶのは彼だけだ。


「えーと、ヒロのこと? ヒロなんて、モテる理由を挙げたら星の数ほど有るんじゃない?」


 私だけではない。決して、私だけではないのだ。

 彼は綺麗で、完璧。

 彼を求める人はとても多い。

 そんな私に、那乃はキッと睨みつける。


「性格破綻者ってだけで、減点二億。あとは周りへの影響力でさらに二憶追加。あの笑ってるか分かんない顔もマイナスだね」


 どう答えたらいいんだろう。

 那乃もヒロとは付き合いが長い。

 だから、一概に間違いとは言えないし、かといって偏見も混じっている気がする。

 少し冷たくなってしまった味噌汁をすすり、唸る。


「うーん。那乃はヒロのこと、嫌い?」


 すると、彼女は顔を赤く染めた。


「好きとか嫌いとかの次元じゃないよ! あの悪魔、むかしからおねーちゃんにすり寄るためにあーくそっ、ムカつく!」


 那乃。女の子なんだから、その言葉遣いはよろしくないよ。

 だんだんヒートアップしていく語り口に、苦笑いをするしかない。

 そういえば、昔からこんな感じだったなあ。

 懐かしい二人の言い合いを思い出し、笑みが漏れる。二人こそ本当の兄妹のように、毎日じゃれあっていた。


「にやけてないで、ちゃんと考えた方がいいよ! 百害あって一利なしって、こういうことだよね。もうっ! 一つ良いことがあるとしたら、まだおねーちゃんが清いままってことだけだよ」

「清い?」


 おねーちゃんはなんて答えたらいいんですか?

 私なんて、彼のことを考えるだけで黒い想いに取り付かれるのに。その色は、清いなんて言葉を与えられていいものではない。

 私は綺麗なんかじゃない。


「なんか勘違いしてるみたいだけど……まあ、いいか」


 どうやらここからが本題みたいだ。

 一息つく彼女に、やはり苦笑を漏らす。

 心配してくれているのだろう。

 それは、とても嬉しい。


「おねーちゃん。あの悪魔にヤりたい放題させちゃダメだよ! ちゃんと「ダメ」って上目遣いで言うんだよ。そのすぐ後、軽く涙でも浮かべれば、バッチリ。ヤる気満々だけど、大切な磨夜ちゃんのために何も出来ないヒロくんの出来上がり! ちゃんと小悪魔っぽくね!」

「え、いや……あの」


 どんな悪女なのか。

 だいたい、それを私がやることになる場面なんてくるんだろうか。

 もし、やったとしても、効果があるとは思えないんだけど。


「ふふふ。苦しむがいい。おねーちゃんを苦しめてきたんだ。その報いを受けるがいい」

「那乃?」

「本当は投げ出しても良かったんだよ? 多分、私だったら上手くやれるし。でも、ダメなんだよね」

「う……うん」


 それは、ダメだ。

 今だって、逃げ腰だが、那乃にお願いする気にはなれなかった。


「妹であろうと、好きな人には近づいて欲しくないよねー。あー、ムカつく」


 なんて、答えるべき? 認めてしまえばいいの?

 それとも、否定の言葉が必要なのだろうか。

 迷っている私に、那乃は何も聞かずにただ味噌汁の心配をしてくれた。

 冷め切ったそれを流し込む。


「美味しい」

「だよね」


 冷えた夕食を腹に入れ、なんとか笑みを浮かべたまま部屋に戻れた。

 溜め息を吐きながら、ベットに腰掛ける。

 嫌な予感がむくむくと広がり、気分が悪くなる。

 明日が来なければいいのに。

 そのまま、仰向けに寝転がり、目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ