表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/42

非日常の予兆 1

「もうすぐ、冬休みだね」

「うん」


 まだ、大分暖かいとはいえ、もう秋も中頃で、半袖ではいられないくらいの気候だ。

 周りは日常となんら変わりない。ただ、隣りを歩く彼だけが非日常だった。

 もともと、ヒロは普通ではない。

 卑下するわけではなく、それが彼の事実であったし、彼と共にいる私自身も普通という枠には当てはまらないだろう。


「ねえ、磨夜ちゃん」


 ズボンのポケットに手を突っ込んでいるところを見るに、少し緊張しているらしい。

 昔、幼稚園のお遊戯会の本番前の時間にも、ポケットに手を突っ込んでいたなあ。

 あの時は確か、ヒロは王子様役で私は魔女役だったはずだ。なかなか二人とも、ハマり役だったな……。


「冬休み、何か予定入ってる?」


 大層な事を聞かれるのかと思ったけど……拍子抜けだ。


「うん、バイトする予定」

「宅配ピザのやつ?」

「そうだよ」


 宅配だけではなかったが、わざわざ訂正する必要もないだろう。首を縦に振る。

 私のバイト先での主な仕事はピザのメイク中心で、電話で注文を伺ったりもしている。


「クリスマスも悲しいことにバイトです。まあ、独り者だし、ちょうど良いんだけどね」


 私は、クリスマスにシフトに入るから、ある程度の無茶も許してもらってる。最近、あまりバイトに顔を出していないけど、特に何か言われることも無い。しかし、よくよく考えると、やはりクリスマス関連がバイトだけなんて寂しい。


「ヒロは予定あるの?」


 私にそういう事を聞いてきたって事は、彼の中でクリスマスが特別であるのは間違いない。


「な、ないよっ!」

「そんな力いっぱい否定しなくてもいいのに。ヒロも寂しいね」


 ヒロは誰がどう見ても美形にしか見えないから、かなりモテるんだけど、なんだか寂しい日々を 送っているらしい。

 でも、私は彼の現在なんて、よく知るわけ無かった。ずっと離れていたから……。


「僕、暇なんだ……よ?」

「うん」

「だから、出来るだけ磨夜ちゃんと一緒に居たい! 寂しいし。磨夜ちゃん、お願い」


 彼は瞳をうるうるさせながら、私に上目遣いでお願いしてきた。きっと、角度まで計算されているに違いない! このお願いに、私は弱い。

 ヒロは誰がどう見ても美形だ。しかし、私にとってはただの美形ではない。

 昔から、ヒロは加護対象なのだ。お願いを反故にする事など、出来るはずがなかった。


「うん。じゃあ、休みに入ってからで暇なと」

「24日の夜! バイト、終わった後でいいから」


 言葉の途中で割り込まなくてもいいのに。

 いきなりテンションの上がってきたヒロに、僅かに眉を寄せながら、クリスマスの一日を思い描く。


「え。でも、クリスマスだし、いつもより長引くから、11時過ぎるんだけど……。それに、くたくただし、会っても寝ちゃうかもしれないよ?」

「会って、寝る!?」


 それは、もうしょうがないと言える。

 あの日はハードだ。何が起こるか分からないし、さらに時間が延びるかもしれない。

 そんなの、ヒロもやっぱり嫌だよね。


「ヒロ、あのさ。やっぱりやめ」

「いい! それでいいよ。絶対、ね。絶対だから、約束守ってね。磨夜ちゃん」


 また、言葉を途中で切られた。さっき以上に楽しそうにしているのが見てとれる。疲れてぐったりしている人と過ごすののどこがいいんだろう? ヒロは良く分からない。

 うーん。これは、逆らわない方がいいな。

 少し動揺しているのか分からないが、彼の周囲の空気がおかしくなってきている。


「はいはい。分かりました」


 自分の我が儘だと、ヒロは思うかもしれない。でも、私だってヒロに会いたい。

 悲しい予定になるはずだった日に、彼と会えるなんて素敵じゃないか。たいしたことは出来ないかもしれないけど、一緒に居られるだけで、私には十分だった。


「イブに……磨夜ちゃんと……絶対……」


 何ぶつぶつ言ってるんだろう。首を傾げるものの、自分の世界に入りきっているヒロに同声をかけたらいいのか分からなかった。

 目が血走っているというか、これは……一体!?

 しばらく、そのまま2人で歩き続ける。


「……」

「……」


 困ったな。ヒロがどこかに行ってしまおうとしている。


「ヒロ?」

「あ、はいいっ!?」

「もう、駅前なんだけど。通り過ぎちゃうよ?」


 私の言葉に、キョロキョロと周りを見回すヒロは、やはり同い年のようには感じられなかった。

 こんなことを言うのは失礼かもしれないけれど、やっぱりヒロは可愛い。


「ヒロ、ほら定期出して」

「あ、うん。ありがとう」


 隠すように笑顔を浮かべるヒロと、そのまま改札を通った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ