対決?
作戦会議にて、結局のところ何も解決してないんだけど、それはそれ。これはこれですよね。
私が話をしなくちゃいけないんだ。
それに、みんな待機してくれるって言ってたし。
それが分かっただけでも、心強い!
「嫌なことは早めに終わらせないとね」
自分に無理やり言い訳して、出来るだけ先延ばしをしないように。
「磨夜ちゃん、怖くなったら僕の名前を読んでね」
「うん……」
そんな事を言われたら、余計にヒロの名前は呼べないなって思う。
どうしたら、君を守れるんだろう。
暗い闇は、どうして君を覆うんだろう。
心配そうに私を見つめるヒロを見て、心を奮い立たせる。
決戦は、夕方。
私は彼のためだったら、本当に何でも出来てしまうような気がした。
**
私はとりあえず、人の多いところで彼女に声をかけようと思い、美園情報から彼女の受ける講義の教室へと足を運んだ。
みんなには、ついてきてもらっていない。講義があるし、少し正気を失っているかもしれないけど、みんなが見てくれた原ちゃんの話を聞くに、まだ話を出来るレベルだと思ったのだ。人の多いところだったら、物を振り回したりしても、誰かきっと止めてくれるだろうと思うし。
百人規模の教室なので、どこにいるかなかなか見つけられないかもしれない。
きょろきょろと周りを窺うと、教室の左端の方。そこには目に隈を作り、一人でぽつんと座っている彼女が居た。
「原ちゃん」
多くの人に見られ、話題になってしまった私と彼女だから、視線を多く感じるのは仕方のないことなのかもしれない。
こちらを見ていることを隠そうとしない不躾な視線が怖く、悲しくなってくる。
「何? 自慢でもしに来たの? それとも、復讐?」
刺々しい声に胸を痛めながら、私は頑張って笑顔を作った。
彼女は被害者。彼女は被害者。
何度もその言葉を頭の中で反芻する。この事実すら、彼女には失礼なことなのかもしれないけど、私は私の事情があるのだ。
原ちゃんは、やはりどこかおかしかった。
私を見た瞬間から、爪を歯でカリカリと噛み始め、じろりとこちらを睨み付ける。
化粧は前より濃くなっているし、服の色も少し派手になっていた。
「違うよ。この前のことで話があるから、今日の夕方にでも会えないかなって思って」
「ふうん。まあ、いいよ。独り者だから、午後は暇だし? 場所は?」
「芝葉馬公園に五時……」
しゃべっている内容は、嫉妬している女の子そのもの。
案外まともで安心した。
今までの経験上、もっと……もっと?
なんだろう、この違和感は。私、こんなこと前にも合ったよね……?
それで、どうやって解決したんだっけ? あれ? おかしい。
私の思考を中断させたのは、彼女の妙に明るい声だった。
「分かりましたー」
ひらひらと手を振る彼女を見て、私は歩き出した。
とりあえず、第一段階は突破したみたい。そうだ、私は集中しなくちゃいけないんだ。
彼女から、目を離さないようにしなければ!
さて、次に……。
「磨夜ちゃん、早く行こう」
静かに向こう側から歩いてきたのは、瞑子だった。
彼女はここに来るなんて、そんな話をしてないのに、きっと心配してきてくれたんだろう。労わる様に、手を握ってもらうと、やっと笑みを返すことに成功した。
「うん、そうだね」
私、こんなにショックを受けていたんだ……。
全身から、力が抜けていくような気がして、でも心が軽くなる。
大人しい彼女が、私のためにここまで来てくれた。
そのことがとても嬉しくて、良い友達を持てたことに感謝した。
瞑子と連れ立って、カフェへ向かう。きっと何か飲んだら落ち着くだろうということで。
その気遣いが有難い。
「あれ? 麻生さん」
「藤沢君!?」
何故か今回、協力してくれることになった藤沢君だった。
「これから、二人でお茶でも?」
「うん」
「じゃあ、俺も参加させてもらおう。まさか、駄目なんて言わないよな?」
にやり、と笑う彼に断る言葉を持ち合わせていなかった私たちは、そのままカフェへと向かった。
私たち学生がカフェと呼んでいるこの食堂は、酷く古臭い。
あまり綺麗でもないし、広くもない。
しかし、コーヒーや紅茶、トーストやケーキなど、軽食系しか扱っていないので、安くて量の多いものを食べる学生はほとんど訪れない。また、タバコも禁止で、店内はみょうに落ち着いた雰囲気を纏っている。
「……水でいい」
「いや、それ注文じゃないから」
「だって、俺はコーヒーはここ! って決めている店があるんだ」
「あー、そー」
そんな我侭を言っているのは、藤沢君だった。
こんな人だったかなあ……?
曖昧な記憶を手繰り寄せて彼の情報を思い出そうとするが、うまくいかない。あまり、親しくしたことなかったよね。
「まったく。麻生さんは冷たすぎる。じゃあ、紅茶にするかな。冷たい冷たいアイスで」
「はいはい。私はホットココアにしよー」
こんな寒いのに、よくそんな物を飲めるな……。
そんな風に思いつつ、生返事を返した。
「私はピーチティーにしようかな」
瞑子は可愛いものを頼むなあ、と和みつつ、注文を伝えるために立ち上がった。
このお店。小さくてお店の人が少ないせいなのか、一応学食の範囲にあるせいなのか、セルフサービスのような感じで、注文も品物も自分で奥まで行って取ってこなくてはいけないのだ。
「アイスティーとホットココアとピーチティーお願いします」
「はい」
お姉さんが笑顔で返事を返してくれ、そのままコップに飲み物を注いでくれた。
お金を払い、席までの短い道のりをドリンクをこぼさない様に歩く。
あと少し。
ふと、思い空気を感じた。
「え?」
一瞬のことで、なんだか分からなかったが、もう消えてしまったし……。
いいかな、と思った瞬間に、目の前を黒いもので覆われる。
「ひ、ひろ……?」
「ねえ、磨夜チャン」
「は、はい……」
「僕より、あの二人と一緒に居るのは何で?」
「いや、それは……その……」
これはまずいなあ。
どうしたものか。