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文献 2

 崩れ落ちそうなほど古い文献を捲る。

 筆跡が崩れていないのが、その人の性格を表していた。


**


 今日も、いつものように食事を運んでいた。

 出来るだけ、かのお方が温かいものを腹に流し込めるようにと、静かに動きつつも急ぐ。

 片手でノックをすれば、僅かながら嬉しそうな声が返ってきた。


「どうぞ、ノース」

「入ります」


 かの人の目の前に、食器を並べていく。次に、料理を。

 いつものように、ありがとうと述べるお姿に、心が温かくなるのを感じた。


 もうすぐ、全てが整う。この方の望みを叶えることが出来る。

 ずっと待たせてしまったが、今度こそ成し遂げる所存だった。


「どうしたの? ノース」

「いえ。少しだけ嬉しいことがありまして」


 ほとんど表情に出ていないだろう、喜びを目の前の方は察知してくださった。

 私のような可愛げの無いものを、どうしてこうも気にかけてくださるのだろうか。

 目の前の細くてか弱げで、とてもお強い我が主は、覚えたばかりの笑顔を私に下さった。


「僕、早く大きくなりたい」

「すぐに、大きくなれると思いますよ」


 幼いものは成長も早い。私のように成年を迎えた人間は決してこれ以上大きくはならないだろうが。


「だって……ノースの方が、筋肉あるし」


 かのお方は、自分の右手を左手で持ち、腕までなぞる。そして、その硬さを確かめた。

 柔らかくは無いだろうが、硬くも無いだろう。

 ひどく細いその腕に、力強さというものはない。


「私が強ければ、なんら問題はありません」


 決して巨漢には力で敵いそうも無かったが、私にはそれ以上の技量がある。

 我が主が言ってくださったように、筋肉だってそこそこはついているのだ。

 だから、平気だ。成功するに決まっている。

 目の前の儚げなお姿を、元気で日の光の溢れるお方へと導きたいと思った。

 私はかのお方の導き手なのだ。


「ねえ、ノース」

「はい」

「ノースは、僕が王様になったら嬉しい?」


 それは、どんな王だろう。

 暗黒で地上を埋め尽くすおつもりなのか、それともこの馬鹿げた呪縛を壊し、光を溢れさせるおつもりなのか。

 このような浅ましい考え、捨てるべきだ。

 私はかのお方の望むままに存在する傀儡であれば良い。


「貴方様の望むままに」


 ああ、どうして。

 どうして本当に欲しいものは手に入らないのだろう。

 傷つけるだけだと分かっているのに、我が主のお傍を離れるなど、考えたくも無かった。

 こうやって、この場所に居れば、私しか見ることが出来ない。


「ノース、それじゃダメだよ!」

「申し訳ありません」

「もっと、求めて。僕だって、ノースのこと大切にした」

「申し訳ありません」


 私には、勇気が無いのだ。

 かのお方に付き纏うものを払いのけるだけの勇気が。

 ただ、この場所から逃げ出させることなら、私にだって出来る。だから、それだけは全うしようと思うのだ。


「私の心は貴方様のためだけに」


【サクラム歴七年 サラの月の12】

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