作戦会議 2
「……麻生さん、みんな君のために集まってるんだから。もちろん、分かってると思うけど。なあ、離れろよ?」
にっこりと笑う藤沢くんはめちゃくちゃ怖かった。
っていうか、確かにもう良い年だし、幼なじみとはいえ頭を撫でるのは良くないよね。それにこうした些細なことが、他人の嫉妬を煽るのだ。気をつけなければいけない。
そう思って手を離せば、ヒロは苦笑して私を見た。どこか昔より大人びた表情に少し寂しくなる。
「ヒロ……?」
「この世界が、君と僕だけのものになればって、よく思うよ」
「……」
その思考は危険だ。魔王業に興味のないヒロを、誘惑しかねない願望に愕然とする。
同時に、彼に想われているのだと気づき、喜びとざわめきを感じた。
他のメンバーはみんな黙りこんでいた。私たちの関係は、周りからみたら、どう見えるんだろう。ふと、そんな事を思う。
「美園。何唸ってるの?」
「うん、そうだねえ……」
美園が、ヒロと藤沢くんを交互に見た。なんか、爆弾発言を投下しそうな予感がする。
彼女を止めるべきか、一瞬迷ったのが悪かった。
「あれだね。むしろ、ヒロ君には磨夜じゃなくて、実は彼氏が居るとか言っちゃえば?」
一様に、顔が青ざめたのは言うまでも無い。
れ、冷気が痛いよう!
依莉は頭を抱え、瞑子も目を広げて固まってしまっている。
「つまり、こいつと僕が恋人同士ってことかな?」
隣を指差すヒロ。決して笑っていない彼に恐怖で動けない。
加えて、藤沢君の機嫌も異常に悪い。その気持ちは海よりも深く分かりますが、周りを考慮してやってください。
私、泣きそうです。
「嫌に決まってるだろ」
ヒロと藤沢くんの嫌そうな顔はなかなか見ものだった。なまじ、二人とも顔が整っているだけに、迫力も半端ない。
「だって、ヒロ君だったら、有りだと思う」
なにがだ!?
色々な物を噴出しそうになりながら、どうも声にならなかった。
さすが美園……。想像力だけは半端無い。
「むしろ、麻生さんに彼氏がいるってことにすればいいだろ? それだったら、いくらでも協力してやるよ。な、麻生さん」
うっ……。どうしよう。それで解決するんなら、それでも良い気もしてきた。
「う、うん……?」
「ダメだ」
冷気が空間を支配し、昼なのに暗くなってきた。
「ダメだよ、磨夜ちゃん」
かつてない程の緊張感に包まれる。
ヒロが私というおもちゃを取られて、怒っているのだ。
いきなり、しんとした室内に誰も声を出すことができなくなる。音という音が無くなり、耳が痛い。
みんなヒロを見ている。駄目だと思うのに、全く動けない。
――怒ら……はいけない。
なんで? どうして、貴方の声が今聴こえるの? 何が原因で、この痛みは起こるの?
頭を抑え、頭から発せられる音と痛みに耐える。
いつもよりはっきりと聴こえた声は女の人のものだった。
――かのお……を…いす……のは
割れるように痛む音が、また内から響いた。
――害するものは排除せよ
彼女は私なのかもしれない。こんなに思考が似ているのだから。
この声は、私にどうしてこんなことを伝えてくるんだろう?
おかしい。痛い。やだ……!
「磨夜ちゃん!?」
気が遠くなっていくのを感じる。
泣かせたくない。笑っていて欲しい。でも、これ以上近づきたくない。
傷つけてしまうのが怖い。
「ごめん、大丈夫だよ。ちょっとストレスで頭が痛くなっただけ。それより、話を進めよう」
いつの間にかすっと消えた痛みに、ほっとする。ただでさえ心配をかけているのだ。それにヒロだって他人事ではないし……。
守らなきゃ。守りきって、平穏無事に生活するのだ。
そう思ったすぐ後に、声がした。
「とりあえず、ちゃんと話を聞くべきだと思う」
これは、瞑子の声だ。
普段、積極的に意見を言おうとはしない彼女の発言に、心が温まる。
「気に入らないところをちゃんと聞いて、全てそれからでしょう?」
「う、うん……」
確かに頭の中では、ヒロと仲良くしていたからだと思い込んでいたが、別の理由が存在するかもしれない。
「何かしちゃったんなら謝って、違うんならまた考えようよ」
「そうだな。私たちもいるし、藤沢たちも待機させておけば、乱闘になってもなんとかなるだろ」
確かに依莉は、乱闘とか強そう。
「ありがとう。瞑子、依莉」
「私は?」
「美園も一生懸命考えてくれて、ありがとう!」
「まあね」
得意げな美園に、依莉が苦笑した。
「おかしな発言ではあったがな……」
二名ほどため息を吐き、それ以外はみんな吹き出した。
ありがとう、本当に。