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記憶の消失

「おねーちゃん、もうそろそろ起きなよ」


 一瞬で頭が覚醒し、見慣れた顔が視界に入ってきた。


「おはよう、那乃」

「うん。おはよう。っと、それより、大学遅刻しちゃうかもしれないんじゃない?」

「うへ?」


 なんで那乃がそんなこと知っているんだろう。

 私が家を出る時間なんて、まちまちなんだけどな。

 居心地のよい布団に、思考を奪われながら、やはり会話を続ける。


「那乃、私の時間割り把握してるの?」

「いや、まさか。ストーカー紛いの奴が、わざわざ朝食を食べに来たの。で、我が麗しの姉君と一緒に登校したいんだってさ。あの変態め……」

 うん? 今、非常に聞いてはいけない言葉を聞いちゃったような気がするんだけど。

 深く追求したくないけど、スルーすると、後々面倒が起こりそうだ。

 那乃に視線で訴えると、彼女は可愛らしく笑った。


「で、その変態なんだけれども」

「待って、那乃。その変態さんって、どなたなの? 私、ストーカー紛いのことなんて、された覚えがないんだけど」

「……さすが、おねーちゃん」


 唖然とした様子に、ムッとした。


「那乃、なんか馬鹿にしてるでしょ?」

「してません。むしろ、尊敬かな? 博愛精神もそこまでいくか、と」

「やっぱり馬鹿にしてる……」

 しかし、本当に誰なんだろう?

 知らない間に、変態さん(?)につけられていたんだろうか。

 ぞっとする考えに鳥肌が立った。

 そんな私を見て、那乃が困ったように笑った。


「お隣さんが来てるんだよ」

「え!? ヒロが?」


 何で、彼がここにきているんだろう。

 だって、最近は疎遠になっていたし……。

 いきなりにも程があるように思う。

 それとも、何か用でもあるのだろうか。


「ヒロと話をするのも、久々だなあ……」


 寝起きでぽやぽやしていたのを、那乃は凄い形相で諫めてきた。


「何、言ってるの……?」

「何って、ヒロと会うのが久々だってことを呟いただけだよ。同じ大学なのにね」


 那乃はこの世の終わりみたいな顔をして、「またか……」と呟いた。

 そして、その顔のまま、出口へ向かった。

 数歩進んで、一度だけ振り返る。


「もう、止めなよ……」


 何を言っているんだろう。

 那乃は、たまに分からないことを言う。

 でも、多分心配してくれているんだろう。

 私は大丈夫だと、笑ってみせた。


「おねーちゃんがいいなら、私は何も言えないからね」


 那乃はドアを開けて、リビングへと向かった。

 そういえば、ヒロを待たせてるんだ。

 早く着替えて行かないと!



**



 身支度を済ませ、リビングに到着する。

 すると、ヒロが手を上げて、「おはよう、磨夜ちゃん」と言ってくれた。


「おはよう」


 にこりと笑うと、ヒロは顔を赤くした。

 風邪でも引いているんだろうか。


「昨日は、その……ごめんね」

「……昨日?」

「……えっと、だから……磨夜ちゃんも恥ずかしがったとは思うんだけどっ! 僕も止まれなかったわけで……」


 しどろもどろで言葉を述べるヒロに、何が何だか分からず、救いを求める様に那乃を見た。

 那乃は渋面を隠そうともせず、私の前にトーストを置いた。

 インスタントではあるが、珈琲も付いてきて、まさに至れり尽くせりだ。

 さすが、那乃! 素晴らしい妹!(機嫌が良いときのみ)

 トーストを一口かじると、香ばしい匂いと、バターの風味が口いっぱいに広がった。 お、美味しい!


「っと、そんなことより。那乃、何か知ってるでしょ?」

「うら若き女の子に、あんな内容を話せと……?」


 え、ちょっと。

 私、何しちゃったの!?

 今度はヒロに向き直ると、彼は花が咲くかのように満開の笑顔をくれた。


「磨夜ちゃん」

「は、はい……?」


 耐性がついているとはいえ、ヒロの笑顔には弱い。


「磨夜ちゃんは僕のこと、好きだよね」


 爆弾発言に、トーストを吐きそうになる。


「いやっ、ま、まあ……好きだけどっ?」

「……」


 何をいきなり!?

 軽く顔が赤くなっている気がする。

 ヒロはヒロで反応を返してくれないし。

 ボソボソ、寝室がどうとか、朝だからとか、言っているのが聞こえる。

 まだ眠いんだろうか。


「おい、変態」

「うるさい、黙れ」


 相変わらず、仲の良い二人に苦笑する。

 本当に久々だ。

 何だか、嬉しいな。


「おねーちゃん、覚えてないから」

「はっ?」

「多分、また……」


 私の話をしているらしいが、内容がさっぱりだ。


「何?」


 首を傾げた私に、ヒロが駆け寄る。


「覚えて、ないの……? 昨日のこと……」


 ヒロはまさにこの世の終わりと言わんばかり。

 こちらまで、悲しくなってしまうような必死さで、私に詰め寄る。


「私、ヒロに何かしちゃったの?」

 ヒロは、一筋だけ涙を零した。


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