迷走 ヒロside
引き続きR15です。
「離れちゃやだ」
僕だって離れたくない。
でも、磨夜ちゃんに嫌われたくもない。
「磨夜ちゃん……」
君が大切なんだよ。
泣かせたくないんだ。
磨夜ちゃんは動かない僕に焦れたのか、左手でヒロの服の裾を掴んだ。
頭が真っ白になる。
か、か、か……可愛すぎだろ。
磨夜ちゃん、僕を殺す気なの!?
僕の下で不安げに見上げてくる君。
「磨夜ちゃん。嫌だったら、はっきり言わないとダメだよ。中途半端が一番危ないんだからね」
もう、理性とか道徳とか、存在しなければいいのに。
ぽかんと見上げてくる磨夜ちゃんに、抑えきれない感情が沸いてくる。
「ごっ、ごめ……」
「あ。いや、責めてるんじゃないよ! びっくりさせて、ごめんね」
何か、勘違いさせてしまったらしい。
それだけ、余裕がなかったとも言える。
僕の瞳に合わさる君の瞳が、ひどく扇情的だなんて、考えもしないんだろうね。
なんか悲しくなってきたよ、磨夜ちゃん。
それと同時に沸々と怒りの感情も。
こんなに、我慢しなくちゃいけないのは君のせいだ。
君がこんなに可愛いくて、無垢なせいだ。
右手を頬まで伸ばし、優しく一撫でする。
触れたくてたまらない。
目を瞬かせた彼女に、僕は苦く笑った。
「僕、意外と我慢強い人間だったんだね……。知らなかったよ」
本当、知らなかった。
特異な能力を持った危うい存在であることを自覚してからは、あまり溜め込まないようにしている。
爆発するのが、怖いから。
君はいつも僕の隣にいてくれたよね。
僕がどれだけ君の存在に助けられたことか。
あの時だって、そうだ……。
悲しい感情を誤魔化すように、僕はおでこを合わせた。
「好きだよ、磨夜ちゃん」
目が合い、唇が触れる。
何度も、触れるだけのキスを降らせる。
好きなんだ。
君に嫌われたくない。
そんな思いのまま、何度も何度も口づけを交わした。
……磨夜ちゃん。
僕とキスするの、そんなに嫌なの?
泣いてしまった彼女に、僕が泣きたくなった。
キスを止め、ギュッと抱きしめる。
君のそんな顔、見てたくない。
知りたくない。
僕のこと、どう想ってるかなんて。
強く、優しく力が込める。
「泣かないで、磨夜ちゃん」
彼女の耳元で囁いた。
壊さないように、優しくしなければ。
離れていかないように。
ただの加護欲だっていい。
磨夜ちゃんが傍にいてくれるなら。
彼女はどうやら目を閉じているみたいだ。
「怖い?」
「……」
僕の疑問に、彼女は真剣に答えてくれようとする。
そんな様が好き。
僕は、ふと思いつく。
「うん。そうだね。こんな風に、上に乗っかられたら、怖いよね」
そう、この体勢がよくないんだ。
「はい、磨夜ちゃん。体起こして」
体を起こして、お互いに見合う。
言われるがままに、動く磨夜ちゃんにドキッとする。
お願いしたら、あんなこととかそんなこととか、してくれる……わけはけないと思いつつ。
もちろん、そんな下心は顔に出さないようにしたさ!
まあ、でもバレてるかもしれないけど。
僕は胡座をかき、磨夜ちゃんをその上に乗せた。
「ひ、ひろ!?」
「僕と、目線が一緒。これで怖くないよね?」
この体勢、非常に厭らしくてイイよね。
足を開いて僕の上に乗っている磨夜ちゃん。
恥ずかしがっているようで、顔が微妙に赤い。
戸惑って、ちらちら目線を合わせたり反らせたり。
「磨夜ちゃん。大丈夫?」
彼女は首を縦に振ってくれた。
その答えに僕は満足した。
「うん。こっちも悪くないね。むしろ、こっちの方が膨らみが分かって、イイかも」
「え!?」
磨夜ちゃんの胸に目をやる。
一瞬で赤くなった彼女に、僕がヤられてる。
くっ、可愛い。
僕はちょっと意地悪な気持ちがむくむくと沸いてきた。
「触ってもイイ?」
耳元でキスをするかのように告げる。
嫌、という言葉は一向に聞こえてこない。
これがどんなに嬉しいことなのか、磨夜ちゃんにはきっと分からないよね。
「磨夜ちゃん、大好き」
そう言うと、僕は小さく笑った。
つられてか、彼女も微笑んでくれた。
何か考えこんでしまったらしい磨夜ちゃんにちょっとムッとしつつ。
こんなことしてるのに、他のことなんて考えないで!
刺激を与えるべく、また揉み始める。
すると、磨夜ちゃんはぎゅっと目を瞑った。
堪える顔が、気持ちいいと言っている。
磨夜ちゃんが良い顔しているということは、もちろん僕も良いということだ。
彼女の声を出さない様にしているのは可愛いけど、あまりにぎゅっと閉じているから、唇傷つきそうで怖い。
「……っ!」
「息、詰めないの」
唇を指先でツンツンつつく。
彼女から荒い息が吐き出された。
不安の中に見つけた期待に、僕は焼き切れそうなほど、胸が熱くなった。
――君以上に興奮し続けてる。
何度も触れたかった君に触れる。
揉んで、キスして。
「好き……好きだよ……」
――切ない。
君に近づきたくてたまらない。
腐りきった果実のような、酸っぱくて危ない感情を僕は持っていた。
それに気づかるたのか、磨夜ちゃんによって、手が止められた。
やっぱり、嫌だった?
それとも、まだ早いだけ?
僕はやんわり与えられた根絶を、酷く怯えながら受け止めていた。
仕方ない。
分かってる。
でも、苦しくて、壊したくて。
磨夜ちゃんは僕の手をとったのが見えた。
彼女はそのまま指先にキスをした。
「……」
え?
あ?
いや……。
何今の行動は?
期待、しちゃうよ?
「ヒロ、あの……」
顔を再び染めながら、彼女は必死に僕に話しかけてきてくれた。
「何? 磨夜ちゃん」
「あの、私……」
「おふたりさん、その辺で止めてくれないかな?」
勘弁してくれよ。
「な、那乃!?」
「ちっ」
「ちょっと、目が真っ赤なんですけど! あんまり、大事なアネサマを泣かせないでくれる? 変態サン」
「……邪魔」
突然現れて、僕の邪魔をした娘は、僕を叱りつける。
……僕の磨夜ちゃんの可愛い声を聞いたのか!?
「まったく。ほんっと最低な奴だよね。男として、どうなの?」
確かに、泣かせてしまったのは僕だ。他にやりようもあったかましれない。
すごく、すごく名残惜しいけれど。
磨夜ちゃんを僕の上から下ろした。
「何? 覗きが趣味なの?」
磨夜ちゃんの妹とはいえ、1つ屋根の下ってやつだ。
長い付き合いではあるが、変態だったなんてことはないよな?
「そんなわけ無いでしょ! あと数分でお母さんが帰ってくるから言いにきてやったのよ。声丸聞こえだし、揉めてる声が聞こえたら、踏みこまれちゃうよ」
磨夜ちゃんは、ほっと息を吐いた後、真っ赤になった。
磨夜ちゃんを染めていいのは、僕だけなんだよ!
「空気読めよ……」
はあ、と息を吐く。
全く、ひどいな。
ささくれた気持ちを収めるために、僕の癒やしを見る。
「もう、逃がさないから」
磨夜ちゃん、分かってるよね?
僕は本気、だよ?