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迷走 磨夜side

引き続きR15です。

「離れちゃやだ」


 私は言ってはいけない言葉を口にした。


「磨夜ちゃん……」


 ヒロが動揺して、瞳が揺れている。

 迷っているのかもしれない。

 さっきから、我が儘ばかりな私に呆れているのかもしれない。


 離れていくのが寂しくて、左手でヒロの服の裾を掴んだ。

 やはり、彼は動かなかった。


「磨夜ちゃん。嫌だったら、はっきり言わないとダメだよ。中途半端が一番危ないんだからね」


 危ないって、何?

 中途半端?

 ヒロの言葉が、ヒロが離れてしまうのが怖くて、とっさに謝ってしまった。


「ごっ、ごめ……」

「あ。いや、責めてるんじゃないよ! びっくりさせて、ごめんね」


 ヒロは宥めるように笑う。

 それでも、やっぱり気になる。

 揺れている瞳から、少しでも情報を集めようとする。

 だって、もう私自身、正常な判断ができなくなってる。

 ねえ、ヒロ。どうすればいい?


 ヒロは目を細めた。

 右手が頬まで伸び、優しく一撫でされた。

 目をパチクリと動かせば、彼は苦く笑う。


「僕、意外と我慢強い人間だったんだね……。知らなかったよ」


 そのまま、ヒロはおでこを合わせてきた。


「好きだよ、磨夜ちゃん」


 目が合い、唇が触れる。

 何度も、触れるだけのキスが降る。

 すごく、嬉しい。

 でも、認めたくない。

 だって、これはいつまで続くことなのか、分からないから。

 ねえ、ヒロ。

 なんでそんなに優しくしてくれるの?

 なんでキスしてくれるの?


 嬉しい気持ちと怖い気持ちが混ぜこぜになって、涙に変わる。

 普通に喜べれば、良かったのに。

 そうするには、彼は綺麗過ぎて、私は普通過ぎた。


 キスが止み、ギュッと抱きしめられる。

 強く、でも優しく力が込められた。


「泣かないで、磨夜ちゃん」


 耳元で、声がした。

 触れるか触れないかくらいの力で頭を撫でられ、壊れ物を扱うかのようだと、感じた。

 私は、何も答えられず、ただ目を閉じているだけ。

 なんて卑怯な人間だろう。

 ヒロの優しさに甘えて、こんな風に扱ってもらってるのに。


「怖い?」

「……」


 嘘とか、冗談を求められているわけではないんだ。

 だから、余計に答えられなかった。


「うん。そうだね。こんな風に、上に乗っかられたら、怖いよね」


 なんかヒロの目が、またギラギラしてきた気がするんだけど。


「はい、磨夜ちゃん。体起こして」


 言われるがままに、私は動く。

 体を起こして、お互いに見合う。

 ヒロは胡座をかき、私をその上に乗せた。


「ひ、ひろ!?」

「僕と、目線が一緒。これで怖くないよね?」


 いや、それはどうだろう。

 っていうか、足を開いてヒロの上に乗っている、この状態の方がむしろ恥ずかしいような……。


「磨夜ちゃん。大丈夫?」


 とりあえず、頭を縦に振った。

 大丈夫じゃないかもだけど。

 その答えにヒロが微笑んだ。


「うん。こっちも悪くないね。むしろ、こっちの方が膨らみが分かって、イイかも」

「え!?」


 ヒロは私の顔の下の方に目をやっている。

 どこ見てんのお!?

 一気に赤くなる私。

 それを見て、ヒロは意地悪く、口の端を上げた。


「触ってもイイ?」


 いちいち、ヤらしい聞き方をしてくれる。

 でも、拒否することができない。

 私は、ヒロに「魅了」されているのだろうか。

 否、とは言えなかった。

 いや、ずっと前から、魅了されていたのだ。

 だから、ヒロのことがこんなに気になるし、守りたいと思うんだ。


「磨夜ちゃん、大好き」


 無邪気な彼は、変わらない。

 昔、本当に小さい頃、ヒロは私に何度も同じ言葉を言った。

 嬉しくて、私も何度も同じ言葉を言い続けて……。

 変わってしまったのは、私だけ?


 ヒロだって、変わった。

 小さくて可愛かった手は、大きくゴツくなった。

 その手が伸びてきて、やはり揉まれる。

 ぎゅっと目を瞑ったのは、刺激が強すぎたからで。

 声が出そうだったからで。


「……っ!」

「息、詰めないの」


 優しい声が、卑猥に聞こえてしまうくらい、おかしくなってた。

 何度も揉まれて、唇にはキスをされ、体はぐにゃぐにゃだ。


「好き……好きだよ……」


 苦しげに吐き出される言葉に、切なくなる。

 このままじゃダメだ。

 ヒロの腕を掴んで、止める。

 彼の顔が絶望に歪むのが見えて、とっさに止めた手にキスをした。


「……」


 あ、固まった。

 ただ、さっきみたいな顔はしてなかったから、良かった。


「ヒロ、あの……」


 言わなきゃいけないことは、一つだ。


「何? 磨夜ちゃん」


 表情を一転させたヒロは、目をキラキラさせて覗きこんできた。

 本当に綺麗。

 って、見惚れてる場合じゃないから!


「あの、私……」

「おふたりさん、その辺で止めてくれないかな?」


 溜め息混じりで吐き出された言葉は、見知ったもので。


「な、那乃!?」

「ちっ」


 ヒロ、今舌打ちしなかった!?


「ちょっと、目が真っ赤なんですけど! あんまり、大事なアネサマを泣かせないでくれる? 変態サン」

「……邪魔」

「まったく。ほんっと最低な奴だよね。男として、どうなの?」


 ヒロは苦虫を噛み潰したような顔をして、私を降ろした。


「何? 覗きが趣味なの?」

「そんなわけ無いでしょ! あと数分でお母さんが帰ってくるから言いにきてやったのよ。声丸聞こえだし、揉めてる声が聞こえたら、踏みこまれちゃうよ」


 そ、それは危なかった……。

 っていうか、聞かれてたの!?

 もう、これでもかというくらい、顔が赤くなった。

 今日1日で、寿命が何年か減った気がする。


「空気読めよ……」


 はあ、と息を吐くと、ヒロが苦笑した。

 その後すぐ、こっちを見た。


「もう、逃がさないから」


 獰猛な肉食獣のようだ。

 綺麗すぎて怖い。


 で、でも……結局のところは何も進んではいない、よね?


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