暴走 磨夜side
R15です。注意!
「で、な……なんなのかな?」
不可解だ。
頭が混乱して、上手く動作してくれない。
「なんだろうね」
答える気があるのかないのか。
妙に形の良い唇の、右端が上がっているのが見える。
「ひ、ひろっ! ちかいってば」
それにやっぱりきちんと言葉を返してくれる気がないらしいヒロは、口の端を上げたまま、目をギラギラさせていた。
いつもとは違う、暴走したらしい雰囲気に呑まれ、動けない。
いや、動けない理由はそれだけではなかった。
腕を掴まれ、ソファーに体を縫い付けられていた。
なんでこんなことに……?
喫茶店から帰宅すると、ヒロが温かい物を飲みたいと言って……家に通した。
男相手に油断し過ぎだと思うけど、幼なじみなのだ。むしろ、請われて家に通さない方が不自然にすら感じる。
さっきまでだったら。
後悔先に立たず。
どうしたらいいのかだけ、必死に考え続ける。
「磨夜ちゃん、僕だって我慢してるんだよ? 磨夜ちゃんが嫌だっていうことをしないようにしているし、考えてる。君のことだけ、考えてる」
鋭かった目が、切なげに細められる。
胸の奥が締め付けられて、ずきりと痛みを感じた。
私はヒロのことを考えないようにしていた。自分が傷つかないように逃げていた。
でも、だって……。
言い訳めいた言葉が浮かび、自己嫌悪に陥る。
そんな私を見ながら、ヒロはふと力を抜いて、笑んだ。
「だけど我慢してると、何も進まないって、理解したよ」
「何を!? どう!?」
不吉な言葉が頭を余計に混乱させる。
「気持ちよくしてしまえば、溺れさせちゃえばいいんだよね」
「ちょ、ひ、ひろ……」
ヒロの冷めている手が私の唇へ伸びる。親指が下唇を撫で、次に上。
左手が解放されていたのに、私は全く動けなかった。
「磨夜ちゃんは柔らかいね」
涙が出そうになる。何でだろう。
嫌ではないが、混乱して、よく分からない。
「冗談とかじゃ……?」
「ないよ」
即答され、逃げ道を失う。
背筋に冷たいものを感じ、手にはじわりと汗を掻いている。
逃げたい。
でも、それだけではない。
ヒロはこちらを探るように見ている。数度、まばたきを行い、一瞬だけ嬉しそうに笑った。
……見透かされてる?
「磨夜ちゃん、可愛い」
ぞくっとする艶めいた声が耳に響き、思考を奪う。
そのすぐ後に、「ちゅ」と可愛らしい音と柔らかい感触がした。
耳にキスされた!?
瞬間的に全身の温度が上がる。きっと顔は真っ赤だろう。
「次はどこかな? 全部美味しそうだから……困ったね?」
「ううう……」
こんな時、どうするのが正しいんだろう。
天井を見上げながら、必死に頭からヒロを追い出そうと努力する。
「やらかい」
右手が服の中に滑りこむ。
左の脇腹を上へ撫で上げ、胸の膨らみに到達する。
「う、え、あ……」
ヒロの長くて冷たい手が、肌に食い込むように触れている。
ふにふにと優しく揉まれ、色気のない声が出た。それに対し、優しげに笑うヒロ。
「えっちいね」
いや、それはどうだろう?
えっちいのは、ヒロだ。この色気は私には出ない。
熱い息を吐く彼に、私も体中がおかしくなってく。
「磨夜ちゃん」
声を呼ばれて。
目を合わたら、ヒロは目を細めてすぐにそれを閉じた。
あ、キスされる。
そう思った瞬間に、柔らかい感触が唇に灯る。
触れるだけの優しいキスに、体の力が抜けていくのを感じた。
「もっと触りたいな」
右手を揉んでいた手が私の服の下から出てきた。
この手が触れていたのか……。
そう思った瞬間、体の奥がきゅんとした。
「やっ、やだっ!」
何これ!?
なんか怖い。
全身をよく分からない恐怖が駆けていく。
自分の睫毛が軽く湿っているのを感じた。
「磨夜ちゃん……」
私とヒロの体に隙間ができる。
心の差だ、そんなことを思った。




