表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/42

苦行の喫茶店 1

「しかし、なんでっ、こんなところをっ選んだ、のっ?」


 全身が悲鳴を上げ、息が切れる。右足、左足と進めていくが、だんだん上がらなくなってくる。終いには、手をひざの上くらいについて、足を支えながら上るしかなくなった。

 もう、嫌だ。

 つらそうな顔を隠しもせず、前を歩く彼を睨みつける。そんな様子を見て、彼は楽しそうに笑った。全く疲れた様子を見せないのが悔しい。


「もう駄目なのかよ? だらしないな」

「そっちは、かなり元気っ、そだね」


 今度は嬉しそうに笑った。


「まあ、鍛えているから」


 そこまで、がっしりとした体系には見えないが、ヒロのように綺麗な細身にも見えない。きっと、結構筋肉はあるんだろう。この長い階段を上りきった後に、こんなに余裕なのだから。

 「ふう」と一息ついて、後ろに振り返る。今いる場所から見下ろすと、何段あるのか数えたくないほど、長い階段があった。

 本当に営業する気があるのか、疑問に思うくらい交通の便が悪い。

 見晴らしはいいんだけどなあ。この階段、次回一人で来ようとは思えないくらいの、苦行。なんでこんなところに店を構えているのか、謎。


「喫茶店、ここでいいだろ?」


 彼が指差す先にあったのは、「長谷川」の看板が掛かった小さなカフェだった。


「まあ、入ってみれば?」

「もう、何でそんなに偉そうなの!?」


 息が整ってきたところに、からかい口調の彼の声が届く。

 彼は、そのまま店のドアを開け、中へと歩いていった。このまま立ち尽くしていてもしょうがないので、磨夜もそれに続く。

 店内は全体的にアットホームな雰囲気を醸し出し、可愛らしい感じ。


「いらっしゃいませ」


 エプロンをつけた店員さんが挨拶をしてくれ、慣れたように藤沢くんが「久しぶり」と告げていた。


「あれー、理人くん。久しぶり」


 私たちより、少し年下の、可愛らしい女の子だった。親しげな様子を見るに、藤沢くんとは仲がいいのだろう。

 四人席に案内され、お絞りと水を用意してくれた。

 お店の中は静かで、話しをするには悪くない。こういう隠れ家的な場所は好きだった。


「俺、コーヒー」

「え、あ、私は……」


 テーブルの上にあったメニューをすぐに開くと、大人っぽい文字で商品名が並んでいた。飲み物の数が半端無い。っていうか、藤沢くん。コーヒーだって、いろいろな種類があるんだけど……?


「うーん……」


 いつもだったら、すぐには決めらるのだが、この不思議な雰囲気にのまれて頭がきちんと働いてくれない。

 困ったようにメニューを見ていたら、店員さんが「カフェオレがオススメです」とこれまた可愛い笑顔つきで教えてくれた。


「それって、フミちゃんが好きなものだろ」

「いいんです! マスターだってオススメだって言ってたから!」


 そんな風に言い訳している彼女の後ろから、ぬっと人が現れた。身長が高い。東洋人のように綺麗な白い肌をしている、不思議な雰囲気を持った人だった。


「あれ、フミちゃん。マスターなんていつも呼んでくれないのに、珍しいね」

「う、ま、まあ……」


 視線をこっちに向けないでください。っていうか、マスターって呼ばれた人、なんか恐いんですけど……。関わりあいになりたくないタイプだ。


「っていうか、この子も珍しいね。りーくんの彼女かな?」


 やはりというか、なんというか……マスターさんは爆弾発言を投下してくれた。


「まあね」

「りーくんって呼び名!? っていうか、彼女って何!? 否定してよ!」

「キャー! 理人君おめでとうございますー!」


 え、ちょっと、まて。ここにいる人たち、かなりマイペース過ぎて付いて行けないんだけど。とりあえず、落ち着かないと!

 手元にあった水を一気飲みすると、頭がキーンと冷えて、全身がすっと覚めていくようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ