フレンズ 2
「あれ……? あそこに居るのって、原ちゃんじゃない?」
キョロキョロしていた美園が見つけたのは、昨日から気にし続けていた彼女だった。
「ああ、ほんとだ」
そう言いながらも、薄ら寒いものを感じる。女の友人に感じるものではないだろうと、言われても。
今日はヒロと会話をした。その事実は非常に大きい。ヒロの「魅了」は、人をおかしくさせる。それは、彼のせいでありながら、彼のせいではない。
「原ちゃん、教室間違えたのかな?」
「そうかもね」
瞑子の言葉に、それは有り得ないだろうと思いながら、心中とは反対の答えを返す。
うう、怖い……。
教科書を借りたから知っているのだが、確かに教室は近い。しかし、しっかり者の彼女に限って、教室間違いなど有り得ないことだ。
それに、もう後期に入ってから、1ヶ月以上経過している。
「はあ……」
こんなことを考えてしまう時点で、私は最低だ。
「あんまり悩むと禿げるよ」
悩みのなさそうな美園に言われて、それもそうかと思う。
「先生、来ちゃったねー」
次は昼休みだ。それまで、ぐだぐだ頑張ろう……。
**
午後の講義もすべて終わり、肩の力を抜く。
久々に1日緊張しっぱなしだったな。今日は特に何もなく終わってくれて嬉しいや。
そんなことを考えながら、ひと息ついた。
放課後になり、今日はヒロが現れることもなく、藤沢くんに出会うこともなく。原ちゃんにも、会わなかった。しかし、違和感は拭えない。何かとてつもない面倒事が動き出しているのだと思う。どす黒い、何かが。
ヒロの傍に居ると、そういう物に敏感にならざるを得ない。そうしないと生きていけない。
「ふう……」
「また、ハゲに一歩近づいてるー」
慰めてくれているのかも分からない反応が返ってきた。美園のこういうところは、癒やされるんだけどね。
「いや、禿げないし」
まったく、失礼な子!
ちょっと元気になった私は、美園との他愛のない話に興じる気になった。
「えー? でも、よく聞くじゃん。ストレスで、って」
あまり頭を使わない会話って、やっぱり必要だよね。気分が変わる。
それは、一緒に居てくれるメンバーのお陰なんだろうけど。
「まあね。じゃあ、美園は禿げないね。羨ましい」
仲の良い友だち同士でしか返さない言葉を返しながら、口の端を上げる。
「もう……」
私たちのやり取りを微笑ましそうに見つめる瞑子は、苦笑いをしている。
馬鹿な話でスミマセン。見捨てないで下さい。
「衣莉は彼氏くんと一緒かー! 青春だねえ」
「そうだね」
そんな美園にも、彼氏はいる。サークルの飲み会で偶然知り合って恋におちた他大学の人、だそうで。
「衣莉だって、青春じゃん」
「ま、ね。磨夜は?」
「生きてるので、精一杯ですね。うん」
「そりゃ、大変だね」
他愛のない会話を交わし、瞑子の温かい(?)視線を感じながら、大学生活を満喫する。
嵐の前の静けさって、こんな感じなのかな? って、不吉な考えはよくない。
硬くて高さがイマイチの、寝るには向いていない机に突っ伏しながら、窓から漏れる陽光を浴びた。
寝てしまいたい。
ふと、入り口に目をやれば、見知った人物が入ってきた。
「衣莉、帰ってきたね」
2人も私の見ていた方に振り返り、手を上げた。
「お帰り!」
「おかえりなさい」
瞑子の優しい笑顔、プライスレス。
衣莉は、少し疲れたような顔をして、「ただいま」と笑んだ。
様子のおかしい衣莉に、美園は疑問を投げかける。
「どうしたの? 衣莉」
「いや、雄助に会ってテンション上がっちゃって。その後に美園の顔見たから、テンション下がったわけ」
「ひっどー」
衣莉はキツいことをズバズバ言うが、笑いを混ぜて言っているので、そこまで本気ではないらしい。
何か、聞かれたくないことがあるんだろう。
「ま、いいや。雄助くんにいいつけちゃうもんね!」
「はいはい。雄助は美園より私を優先してくれるからねー」
「くうう! このラブラブが憎い! 私も波ちゃんに会いたい!」
波ちゃんとは、美園の彼氏である。「脇波琢磨」という名前で、美園が可愛くないと主張。その漢字の中で、美園が一番可愛いと思った一字の「波」をとって、波ちゃん呼びになってしまったという経路がある。
脇波くんは、何故美園と付き合っているんだろう。たまに疑問に思う。
「脇波くん、元気?」
私の声に、笑顔で美園は答えた。ああ、メロメロなのね。
「元気だよ! 最近、面白いことを見つけたんだって!」
「へえ」
脇波くんの面白いこと……?
一風変わった彼を思い出し、何だろうと疑問に思う。
「彼も、美園の面倒を見て大変だから。ストレス解消が必要なのかもね」