フレンズ 1
「さて、白状してもらいましょうか」
ずいっと、美園が顔を近づけてくる。
こ、怖っ。
雰囲気は楽しげなのだが、迫力がある彼女に、たじたじになる。
「朝の光景について、弁明を聞こうじゃないの!」
割と新しい教室の一角で、私は三人の友人に囲まれていた。
ショートカットの美園は、面白いこと大好き。かつ、ヒロのライトなファンだ。
ぶつぶつ呪いの言葉を呟いているのは、衣莉。彼氏が、ヒロのことを可愛いとのたまったのを恨んでいるらしい。しかし、それだけで「悪魔」とヒロに面と向かって言うとは……! さすがとしか言いようがない。
おろおろしているのは、瞑子。大人しく、濃い友人に囲まれていっつも苦労している。
「早川くんと、付き合ってるの!? っていうか、昨日、藤沢くんに呼び出されてたじゃん」
積極的に聞いてくるのは、やはり美園だ。
「あーうん。何なんだろうね」
藤沢くんが何故私に好意に近いものを寄せてくるのか。それは私にも分からない。だいたい、何がどうしてこんなことに……? ヒロだって、しばらく関わり合いがなかったのに。
急に何かが動き始めた気がして、背筋を嫌なものが走っていく。何も起こらなければ、それに越した事は無いのに、どうしてこうも面倒な事ばかりなのだろう。
「それより、磨夜。早川と知り合いだったの?」
呪いの言葉は終わったらしい衣莉が、私に尋ねてくる。
「みんな、顔近いからっ!」
「誤魔化すな」
「照れるね」
ズバッと切って捨てた衣莉と、ネタに走った美園。
もう、仕方ないか。ある程度、認めていかないと話を引きずることになりかねないし。
「あんまり、早川くんのことは話したくなかったんだよ……」
「何で?」
美園のように誰からも好かれていれば、別だったのかもしれない。
「まあ、だいたいの想像はつくけどね。……忌々しい」
衣莉のように賢くて、強かったのなら、別だったのかもしれない。
「……とりあえず、落ち着こうよ」
瞑子のように大人しく、ふわふわ可愛ければ別だったのかもしれない。けど、私は私だ。
「早川くんとは、幼なじみだったんだ。まあ、あんな風に昔から目立つし」
ヒロ絡みの厄介事は後を絶たない。
「最近は疎遠だったから、大学の友人には、わざわざ話してないんだよ」
紹介させられたり、ひがまれたり、大変だから。
「ごめんね」
私の謝罪に呆ける3人。
「……まあ」
「そういうことなら」
「うわー」
まあ、この3人なら、分かってくれると思う。
噂話も人並みに知りたいとは思うだろうけど、妬んだり、さげずんだりすることはないだろう。
ヒロが何もしない限り。
「はあ……」
そんな事より、原ちゃんだ。
今日は授業が重なってないから良いけど、明日は会うことになる。
背中に子泣き爺を背負っているような気持ちのまま、教授がやってきた。
**
休み時間、百円の紙パックのミルクティーをすする。
「やっぱり、糖分入ると違うよねー」
「うん、うん」
瞑子は、林檎ジュースを飲んでいた。
「太るよー」
「って、美園も甘いの飲んでるじゃん」
美園の手には、珈琲牛乳が握られていた。呆れながら指摘すると、唇を突き出して拗ねる。
子供っぽいなあ。
……ストローをがじがじ噛んでしまう癖が直らず、ボロボロにしてしまっている私が言うことでもないか。
「でもさ、今日はなんで早川くんと一緒だったの? 最近疎遠だったんでしょ?」
「ああ、昨日偶然会って、そのせい?」
美園の突然の問いに答えを返す。
「そういうもの?」
「早川くんの心情は、私にはよく分からないのですよー」
そう、分からない。昔はそんな不安もなく、一緒に居れたのは何でだったろう。よく覚えていない。ただ、ヒロと手を繋いで、2人で歩き回っていた気がする。
那乃がヤキモチやくくらいに、ずっと一緒にいた。
ぼうっと考えこんでいると、ふと思い出したように、衣莉が言った。
「磨夜は早川と付き合ったりしないよね?」
「ぶっ!」
ミルクティー吹き出しちゃった!
ば、ばっちい……。
「ちょっと、磨夜ー!」
「大丈夫? 磨夜ちゃん」
ポケットからティッシュを取り出し、鼻と口を拭う。
「ごめっ……」
むせつつ、謝ると、みんな困ったように私を見ていた。
「あー、ごめん。もう聞かないわ」
それは、何故ですかね……。