朝から一緒 1
あまりよくない目覚めに、顔をしかめながら、洗面所へ向かう。
鏡の前に立つと、くまが目立っていた。
「ファンデ、厚塗りしなくちゃ……」
厚塗りといっても、普段からしているか分からないくらいの化粧をしているので、あまり変化はない。
ナチュラル過ぎるメイクだと、誰かに言われたのを思い出した。
顔を洗い、汚れをさっぱりと洗い流す。
その使ったタオルを肩にかけ、次に化粧水をつけて、頬を慣らした。さらに軽く化粧をする。
「おねーちゃん、私も顔直したい」
「今、退くからまって」
目の回りを再確認して、こんなもんだろうと納得した。
「はーい」
肩にタオルをかけた状態で、リビングに向かう。
まだ頭がはっきりしないなあ。
そんなことを思って、ドアを開けると、すっかり目が覚めた。
そこに、在るべきではないものが在ったからだ。
「磨夜ちゃん、おはよう」
優雅にコーヒーを飲んでいる、彼だ。
「……ヒロ」
まさかとは思うが、一緒に大学に行きたいとか?
普通だったら、大学なんて人の多い場所にいつどこを歩いていても見咎められることはない。
だが、ヒロはそういう訳にはいかなかった。
顔立ちだって、スタイルだって、目立つ。
相手を「魅了」する能力だけは、とても大きい。
「磨夜ちゃん……おはよう」
反応が全くない私にじれてきたヒロは、さっきとは違いムスッと挨拶の言葉を述べた。
ま、マズい。
「おはよう、ヒロ」
「磨夜ちゃん、あのさ……」
なにやら言いづらいことがあるらしい。
ヒロは目を反らして、軽く顔が赤くしていた。
「パジャマ、着替えてきて?」
「!?」
そうだ。起きたばかりでパジャマのままだった。
っていうか、それを先に言ってよ!
だいたい、なんで家に上がり込んでいるの!?
次々と浮かび上がる疑問に、軽くパニックに陥る。
焦れたらしいヒロは、顔に手をやり、そっぽを向いた。
「磨夜ちゃん、お願いだから着替えてきて?」
懇願に近いお願いに私は頷いた。
むしろ、私の方が早く着替えたい。
「あ、変質者」
「誰が変質者だって?」
「朝っぱらから、女性のパジャマ姿を見てはあはあしているのを、変質者と呼ばず何と呼ぶ!?」
「うるさい」
顔を洗い終えた那乃は、彼女だってパジャマなのに恥ずかしげもなくやってきた。
しかも、朝から喧嘩調。仲良しだなあ。
「変質者なんて呼ばれるの、あんた以外にいないでしょ。それともおねーちゃんが変質者だとでも言うの?」
二人の目が私に注がれる。
「う、うえ?」
ヒロは一瞬で反らされたけれど。
「磨夜ちゃん、服!」
「は、はいいっ!」
軽く怒鳴られて、手を上げて返事をしてしまった。
那乃が呆れた目でこっちを見ている。
うわあ、恥ずかしい!消えてしまたい。
そんな二人を置いて、私は自分の部屋までダッシュした。
**
朝から、心臓に悪いな。
ぷちぷちとパジャマのボタンを一つ一つ外しながら、長い息を吐く。
そして、次の瞬間、恐ろしいことに気づいた。
「!?」
着けてない。いや、夜は外しちゃう習慣があるけど!
うそー!? 最低!
半泣きになりながら、うずくまる。
うう、最低だ。まさか、気づかれてたんだろうか。
肩から下げていたタオルが隠してくれていたと信じたい。
でも、ヒロはなんか顔赤かったし、もしかしたらこのせいかも……!
「磨夜ちゃん、早くしないと遅刻だよ」
廊下から、ヒロの声がした。
時計に目をやると、確かにそろそろ用意を終えないといけない時間になっていた。
「い、いまからいくっ」
半泣きだったため、軽く鼻声になってしまった。
「な、泣いてるの!?」
ヒロの焦った声がしたと思った。
次の瞬間にはガバッとドアが開いていた。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ヒロ」
「ご、ごめん!!」
開かれたのと同じくらい、勢いよくドアが閉まった。
もう、お嫁にいけない……。
鍵がついていない自室が恨めしいと思ったのは、今日だけではなかったが。
なんか、悲しくなってきた。