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放課後 1

「磨夜ちゃん、なにしてるの?」


 背中と服の間に氷が落ちて、冷たさとぬめりでひやっとなる。教室の中を寒い風が抜けていった。

 きっと、顔面蒼白なのだろう。私の顔には血の気が無いに決まっている。

 今さっき顔を赤く染めていた第三者は、怪訝そうな顔で私と彼の顔を交互に見た。

 正直、申し訳ないとも思うし、不運だったとも思う。しかし、それ以上に私が迷惑を被っているのは許し難い。私が何をしたというのか。ここに立って、滅多にない告白を受けていただけだというのに!


 それだけのために、夕暮れがだんだんと闇だけの世界に変わっていく。太陽が沈んでいくのではなく、私たちが闇に沈んでいっているのだ。何度か体験したその闇に、身体が強張っていくのを感じた。

 そんな中、大学の空き教室に私と彼と、第三者が居る。


「ねえ、君は誰? 磨夜ちゃんに、何の用があるの?」


 憤っているらしいのは、幼なじみの私には分かった。しかし、それを全く顔に出していない彼に、とても怖くなる。これは、私の赤ランプが点滅している。

 それにしても……、藤沢君の事まったく覚えていないんだ。少し呆れた。少ないんだから、同じ学部の人の顔くらい覚えてなよ、と思ったけれど、黙っていた。苛立っているヒロを刺激するのは良くない。


「早川こそ、何の用だ? 俺が呼び出したのは君じゃない。浅生さんだ」


 第三者となってしまっている彼に、ヒロが鼻で笑った。


「僕が聞いているんだ。答えろよ」


 ああ、苛立ち始めた。この後のことを考えると、逃げたくてたまらなくなる。でも、そんなことできない。このまま放置しようものなら、世界が滅ぶ。


「二人とも、止めて。特にヒロ。私は藤沢くんに呼び出されたの。何もしてないし、するつもりもないから」

「本当に?」


 藤沢くんには悪いと思うけど、それだけだ。特別な感情なんか持ち合わせていないので、優先度はもちろんヒロの方が先。私が縦に首を振って見せると、ヒロは無邪気に笑った。

 無邪気なのは悪くないけど、もう少し大人しくなって頂けませんかね。久々に会ったはずなのに、記憶の中の彼と行動が全く変わらない彼に苦い気持ちが起こる。私、ヒロの保護者じゃないんだけどなあ。

 そんな私のフォローを無視するかのように、藤沢君は空気を読まない発言を投下した。


「浅生さんが、そう言っても、俺は色々する気満々だけど」

「えっ……!?」

「藤沢っ!」


 私の驚愕する顔と、ヒロの怒りの表情を見て、藤沢くんはニンマリ笑う。

 何を考えているのだろう。この教室の気配を理解できていないんだろうか。


「絶対、させない。させない!」

「どうだか?」


 おもちゃを取られたくない子どものように、ヒロは怒り始めた。

 藤沢君は、やっぱり鈍いだけなのか、楽しそうに笑っている。この周りを覆う黒い霧に気づかなのなら、別の意味で大物だろう。


「藤沢……っ! 磨夜ちゃんに近づくなっ!」


 ヤバいと思ったと同時に、私はヒロの所まで走った。ヒロはもう何も考えられていないようだった。

 暴走する前に止めなければいけない。


「ヒロ、待って!」


 彼の周りを風がシールドのように覆い、その流れが円を描き。

 黒髪が舞い上がり、泣きそうな表情が見えた。


――泣かせてはいけない


 頭に割れるような痛みが走り、それでも私は立ち止まらなかった。

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