10年来の親友は語る
目の前で美味しそうにランチを楽しむ“王太子の紅薔薇”こと、ラビット公爵家の御令嬢シャルロット様を近すぎず、遠すぎずの距離間で熱い視線で見つめるアルベリク王太子殿下。
・・・を、不躾なくらい見つめる集団。
そしてそれを見つめる私。ややこしいな。
あ、申し遅れました。
私はキャロット伯爵が娘、エイプリルと申します。
母方の祖父が営む商会を御贔屓にして頂いておりますラビット公爵家に祖父に連れられお邪魔したことをきっかけにそれ以来、シャルロット様に仲良くして頂いております。10年来の付き合いになる私を光栄なことにシャルロット様は親友と呼んで今もお傍に置いてくれているのです。
美人で完璧な淑女へと成長されたシャルロット様。少し天然なところやドジなところがあるのもお茶目で可愛らしく、誰にでも分け隔てなくお優しいところもお立場に驕らず努力を欠かさないお姿もすべてにおいて大好きなのです。
シャルロット様に仲良くして頂いておりますので、恐れ多くも王太子殿下にも御交流を頂いておりまして・・・、って嗚呼、この話し方本当に疲れる・・・。
頭の中のモノローグぐらい少し雑多なお喋りの仕方でもよろしいですよね。
うん、いいよ。ありがとー。てなわけでお二人の間に流れるなんとも言えない距離感に気づいたのは割とすぐだった。
遡ること、6年前くらい
「シャル!?なんで送ったドレス返してきたの?」
バンっと王侯貴族らしからぬ勢いでドアを開け、レディーの部屋に突入してきた王太子殿下は、
シャルロット様と一緒にお茶会の最中であり、物音にビビり散らかしていた私に気づくとコホンと小さく咳払いをしていつもの品行方正な王太子殿下に戻る。
「エイプリル嬢、邪魔して悪いね。またはしたないところを見せてしまったね。」
「いえ、王太子殿下につきましてはご機嫌麗しゅう存じます。」
「そんな固くならないでくれ。」
6歳の時に婚約を結んだというお二人。
そして私がシャルロット様と出会ったのもまた6歳の時だった。
当時まだ世間に公表はされていなかったが、お二人の仲睦まじい様子から何となく察していたし、シャルロット様が私だけの秘密として婚約者だと教えてくれた。(もちろん王太子殿下に他言無用の誓約書にサインさせられたが・・・シャルロット様はその事知らないのが怖いよな。)
それから5年。いつも一緒だったお二人に絶妙な距離が出来たのは、シャルロット様の10歳のお誕生日の後からだったと記憶している。
シャルロット様の所に遊びに行くと必ずと言っていい程、王太子殿下が乱入してきていた。
「(え?さっきプレゼントされたドレス突っ返したって言った!?)」
「・・・とにかく、シャル。贈り物は君の為に選んだんだ。返されては困る。必ず受け取ってくれ。」
暫く(表面上は)穏やかにお話しされていた王太子殿下は、それを念押しすると颯爽と帰って行った。
滞在時間は5分程度だったと記憶する。滞在時間より往復の移動時間の方がきっと長かった。
「シャル様!?先程の殿下のお話しは本当ですの!?頂いたドレスその他もろもろを突っ返したとかどうとかって!!
らしくもない‼どうされたのですか?殿下との間に何か!?」
あまりにも、そういった事が続くのでシャルロット様を問い詰・・・基、事情を尋ねるとその大きな瞳からぽろぽろと静かに涙を流された。
「嗚呼、ごめんなさい。で、でも、もう耐えられなくって・・・聞いて下さる?エイプリル」
「え、ええ‼もちろんでございます‼‼」
聞けば、彼女が10歳のお誕生日に体調を崩された際、“前世の記憶”とかいうものを思い出し、
それによればこの世界は前世の彼女が読んだ小説のどれかで?あのシャルロット様を溺愛している殿下が身分の低いヒロインと真実の恋?(笑)に落ち、シャルロット様が悪役令嬢になって婚約破棄・断罪からの破滅エンド・・・・、ってそんなわけあるかーーーー!!!!!!!
ゲフンゲフン。
失礼、取り乱しましたわ。
「ええっと、まずですね?シャル様。」
「なあに?」
うるうるの瞳は大変お可愛らしいのですがいうべき事は言わなければ。
「前世の記憶を取り戻した云々は、やすやすと話してはなりません。その知識を悪用されるかも知れませんし、心配です。」
「ありがとう。でもそれは、アル様にも注意されましたわ。エイプリルは信用できるお友達だからこそ言ったまでです。心得ています」
「シャル様・・・」
グサッと胸を撃たれときめいて仕方ない私をよそにシャルロット様は続ける。
「それに残念ながら悪役令嬢とかそんな小説のお話ししか覚えていないの。覚えていたらアル様の、延いてはこの国のお役に立てたでしょうに・・・残念。」
「あと、殿下がシャル様を婚約破棄して断罪なさる姿はまるで想像できません。」
「いいえ、真実の愛を前に婚約者として積み重ねてきた時間や絆は無力よ。
それに物語の強制力が働くかも知れないし無力なのよ・・・。」
11歳にしては大人びた憂いの表情を浮かべたシャルロット様に胸が締め付けられる。
「それでね、エイプリル。」
「はい?」
ガシッと私の両手を掴んでシャルロット様の大きな瞳が私を見つめる。
「婚約破棄出来るように協力して欲しいの‼」
「(マジかーーー!!)」
それから、6年。
12歳の頃から本格的に王太子妃教育を開始されたシャルロット様と過ごす時間は減ってしまったが変わらず仲良くしてくださるシャルロット様の事を本当に大好きのは変わらない。
が。
私、エイプリルはシャルロット様に謝らなければならない事があります。
それは。
「エイプリル嬢、今日シャルは王妃のお茶会に参加予定だ。それまでの時間は何としても二人の時間を過ごしたい。協力を要請してもよいか。」
「御意。殿下とシャル様、お二人だけの時間は邪魔させませんわ。必ずしもあまぁい時間をお過ごしいただけるとお約束致しましょう。」
「それは頼もしいな。宜しく頼む。」
至宝のようにシャル様を守り、熱視線を送り、愛し恋する王太子殿下に心を打たれ(いや、違うから。決して会う度に婚約解消を迫られている殿下を不憫に思ってとかじゃないから・・・。違うよ??)
『王太子殿下の恋応援し隊』
なるものを発足し、シャル様のお願いに反し、お二人が上手くいくようささやかながらお手伝いをさせて頂いているのだ。
だって、シャルロット様はアルベリク王太子殿下の隣で笑っている姿が一番幸せそうなのだもの。
私は親友の幸せを一番に願っているただのお節介令嬢なのだから。
次回、応援し隊のお話しです。