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事件の幕開け

 白き雪城に高く木霊した私の絶叫を聞き、屋敷にいた全ての人々が萌の部屋にやって来てその惨状を目にし、それぞれがそれぞれの反応を示した。


 だんまりの佐和子は沈黙。

 偽善者の輝実は偽りの号泣。

 いつも素直な菜歩は心からの涙。

 穏やかな円佳は困ったような顔。

 この粉雪城の主である弘恵未亡人は悔しげに唇を噛み締め。

 自分勝手な築城千博は素知らぬ顔。

 馬鹿な下女みずきは大袈裟におろおろ。

 そして私は、目の前の光景が信じられずに、ただただ震えるしかなかった。


 そんな一同を、ただただ物言わぬシカバネが見守っていたのであった。


**********


 一番最初に我に返ったのは、円佳だった。


「警察に、通報しなきゃぁ」


 彼女の言葉に、呆然としていた私はハッとなる。


「そうだわ。そうだわ警察……。早く、早く警察を……」


 死体。目の前に死体があるのだ。信じられない事だが、確かにそこに死体がある。

 ――だから、今すぐ警察を呼ばなくてはならない。


「えっとぉ、電話するからちょっと待ってて頂戴ぃ」


 慌てた様子で、ドタドタと足音を立てながら、円佳が部屋を出て談話室へ飛び込んで行く。


 しかしすぐ、彼女は駆け戻って来た。


「大変よぉ! 電話が壊れてるわぁ!」


**********


 全員で一階へ降りると、確かに電話は破壊されていた。

 高い所から落としたのだろうか、受話器も本体も粉々になっていたのだ。


 これでは、連絡できないではないか。


「……大丈夫。菜歩、スマホ持ってるから」


「あたしも、携帯電話を持って来ます」


 頭を抱える私と違い、菜歩と輝実はそれぞれそう言って、ドタバタと二階の自室へ駆け出した。

 

「弘恵さん、大丈夫ですか?」


 代わりにスマホ等を持っていない私は、リビングに残り、顔を蒼白にしている弘恵未亡人に声を掛けた。


「……大丈夫よ。私とした事が、少し気分が悪くなってしまって。心配しないで頂戴」


 確かに、胸を包丁で裂かれた少女の死体を見たのだから、気分が悪くなるのも当然だ。

 やはり、この別荘の主たる彼女に与えた心へのダメージは大きかったらしい。

 佐和子や私、千博が大して動揺していない方がおかしいのかも知れない。


 ――その時だ。再び二階から少女二人が急いで駆け降りて来たのは。


「どうしたの?」


「何かあったのかしらぁ?」


 首を傾げる私と円佳に、彼女達は息を切らして叫んだ。


「菜歩のスマホがないんだよ!」


「あたしの携帯電話がありません!」


 話を聞いた所、どうやらどこにもスマホがないらしいのだ。

 その上、千博や円佳の物すら忽然と姿を消しているようであった。


 そしてしばらく探し回った挙句、真っ二つにへし折られた携帯電話達がゴミ箱の中で見つかる事となった。


 ――つまり、


「連絡ツールはことごとく壊されて、外は猛吹雪。よって、警察とかの助けを呼べないって事だわ」


 という、最悪の事態であるらしい。


 一同の顔色が曇り、暗い雰囲気が増して行く。


「誰がっ、誰が萌ちゃんを殺したんですかっ!」


 その途端、耐え切れなくなった輝実がわあわあと叫び出した。


「礼沙ちゃんなんじゃないですかっ!? だって礼沙ちゃん、あの子の事『オレっ娘だからうざい』とか言ってたじゃないですかっ」


 最後にこちらへ指を突き付ける輝実に、私は少しばかりの怒りを覚えた。


「馬鹿ね。私じゃないわよ」


 否定された事など半ば無視して輝実は、築城家の人々を除く滞在者達を一人一人指差し、問い詰め始める。


「菜歩ちゃんなんじゃないですかっ!? あなた、萌ちゃんの事好意的に思ってなかったでしょう!」


「菜歩は違うよ!」


「佐和子ちゃんなんじゃないですかっ!? だって佐和子ちゃん、驚きが少なかったじゃないですか!」


「あ、あたしじゃ、ない、よ……? あれは、ただ、嘔吐感を堪えてた、だけで……」


「そんなの嘘かも知れないじゃないですか。どうやって証拠を見せるんですか?」


「そ、それは……。でも、あたしじゃない、もん」


 そうやって輝実は必死で犯人を探すふりをしつつ、誰かを犯人に仕立て上げようとしている。

 ――偽善者だ。


「そう言う輝実こそ、犯人なんじゃないの?」


 私は思い切って、反撃に出てみた。

 だって一番怪しいのは輝実だ。まるで容疑から逃れようとしているかに見える。


「何を言うんですか、礼沙ちゃんは! あたしが萌ちゃんを殺す訳、ないじゃないですか!」


 そのまま言い争いになりそうな私と輝実の間に割って入って止めたのは円佳だ。


「二人ともぉ、落ち着きましょぉ? 騒いだって、何も始まらないわぁ」


 彼女のおかげで一旦は場の張り詰めた空気は和らいだが、しかし、とうとう犯罪者として名乗り出る者は現れなかった。


 ――粉雪城事件、開幕。

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