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主よ、人の望みの喜びを


[閲覧注意:今回は暴力の描写があり読み手の方によっては大変気分が害される内容になっておりますが、主人公の過去を描く上では重要なパートと考えており掲載しようと思いました。尚、ネット上のアカウントの名前を使用していますが全く持ってフィクションである為、それでも良い方は下へお進みください。]


↓↓↓






















俺は一人の女性すら幸せに出来なかった。


結婚まで考えた相手だったが、彼女の答えは浮気という答えだった。俺はその事を知ってしまった時ただどうする事も出来ず彼女に対して怒りに震え、悲しみに明け暮れ、ただ時間が過ぎていくだけだった。以前と違い連絡すら返ってこず直接会って話す機会は無かったが、きっと会う事が出来れば何かの誤解でまた以前のように幸せな時間が訪れると切望した。

月日は流れ、ようやく彼女に会える事が叶った。何故だか彼女の顔は暗く元気が無い。

何を話しても塞ぎ込んでいて表情も無く静かに頷いているだけの人形だった。

その日はどんよりと雲が立ち込め太陽の光すら地上に届かず夜のように暗かった。


俺は以前の様に明るく話していたつもりだった。


ねえ。


彼女は小さく強い意志を持って口を開きこちらを見つめ話し始めた。


今まで楽しかったよ。ありがとう。でももう好きにはなれないから、さよなら。


何かが僕の中で壊れた音が聞こえた。


三人兄弟の次男として生まれた俺は小さい頃は身体が弱く小学校低学年まで通院していたので、周りに溶け込めず授業もついていけてなかった。父は身体一つで起業し、大成したが家の中では戦慄と恐怖でしかなく、不機嫌な事があると家の扉を力一杯に閉めて大きな音を出したり、食事が不味いと皿を流し台に向かって投げ何枚も皿を割る父だった。

母は小さな俺に向かって怖い思いさせてごめんねと父に聞こえない様に小さな声で震えながら謝っていた。

俺の唯一の理解者であり、全てを受け入れてくれる優しい母。

最後に俺が見た母は最後の思い出作りとして行った旅行先で父の機嫌を損ね土下座し謝罪した姿だった。

兄さん、俺、妹の3人は歯向かうとどうなるかは容易に想像出来たので何も言えず貶される母を眺めるしかなかった。


その数年後、母は肺癌で亡くなった。


父は水面下で話を進めていたのだろうすぐに新しいお母さんが来た。父は俺達3人を集めてこの人は今日からお前達のお母さんなんだから、お母さんと呼べよと言われたが俺と妹はどうしても馴染めなかったので、おばさんと呼んだ。

兄だけは今思えば保身に走った。すぐにお母さんと呼び始め、内心兄の事が嫌いになった。

しかし、父はおばさんに対しても暴力を振るうのは変わり無くあっという間に耐えきれなくなったおばさんは俺たちの前から姿を消した。

2人目のおばさんも表の父の顔と金に惹かれて来たのだろうが季節が一回りする頃には家を出て行った。

3番目に来た最後のおばさんは明るく俺達と父を笑わせようと良く冗談を言う人だった。

1ヶ月間位は父も笑いはしないが手は出さなかった。

そんなある日、いつもの様におばさんが冗談を言って盛り上げようとしたら父は俺達の前でおばさんを怒鳴りつけ、罵り、しまいには元の顔が変わる勢いでゴルフクラブで幾度もぶん殴っていた。

3番目のおばさんも父との関係を解消したが、父の報復を恐れたのか警察には被害届を出さなかった。


この頃の俺は反抗期を迎え家に帰らず警察が実家のような日々を過ごしながら父が迎えに来ては毎度喧嘩していた。

学校もろくに行かないまま中退する事を決めた俺は父の会社で雇ってもらう事になったが、早朝から仕事が始まり深夜に終わる生活に最初の頃は気合で頑張っていたが、知らぬ間に精神を病んでいた事に気付かずに休みの日はどこにも行けないほどに睡眠に時間を取られるようになっていた。この頃の俺はハイな状態もあれば誰にも連絡したくないローな状態を繰り返すジキルとハイドになっていて病院に行って薬を処方されるようになっていったが父は理解してくれなかった。怠け者の病だと言われた時には酷く傷つき全てが嫌になり最低限の持ち物を持って原付きバイクで隣の県まであてもなく彷徨いながら日雇いで働き一日一日を生きながらえてきた。

そんな折に知り合ったのがゆーだった。

一緒にいると安心出来て、気が合うので会える日があれば毎回オシャレして親元を離れる前に買ってあった香水を付けて、ドライブデートを重ねていった。俺は心底楽しかったし彼女の笑顔を見れる事が何よりの幸せだった。

しかし、俺がハイな状態の時にゆーの事を求め過ぎてしまい、逆にゆーが待っていた時にローな状態で応えられなかったりと心の歪みが段々と大きくなっていった。

会う頻度も目に見えて落ちていった。


そんな矢先、俺は仕事帰りに夜の街中を知らない男と一緒に歩くゆーの姿を見つけたが他人の空似だと思いたかった。それに今日は仕事のはずだからそんな訳ないと自分に言い聞かせたが、心の中で不安の風船は膨らむばかりで、いつかはちゃんと話が聞きたいと思った。


そして忘れてはいけないあの日、車内では2人の湿気で曇ったフロントガラスの外側から台風並みに雨水が打ちつけ、稲光が空を駆け巡りエンジンのかかった車内では湿った冷気が肌をかすめて、ラジオからは聞き覚えのあるクラシックが流れていた。

気まずい空気は感じながらも俺は明るく努めて、ゆーからはそんな事無いよって言って貰って今日は終わりにしたいと思った。


だが、予想は大きく外れた。


ねえ。


彼女は小さく強い意志を持って口を開きこちらを見つめ話し始めた。


今まで楽しかったよ。ありがとう。でももう好きにはなれないから、さよなら。


俺は一瞬にして涙が溢れ、父だけじゃなくゆーも俺から離れてしまうんだと喪失感が身体全体に染み渡り、変わってしまう未来をこの手で引き留めていたかった。

俺はお前の事好きだから、離れたくないよ。

繋ぎ止めたかった。考え直してもらいたかった。

じゃぁ、行くからとドアに手を掛けたゆーに対して、俺の喪失感が怒りへと変わっていき、ゆーの右手首を強く掴み引っ張り、まだ話は終わってねぇから勝手に終わらせてんじゃねぇよと俺は大声で怒鳴っていた。

もう話す事無いからっ!!と負けじとゆーも俺の手を振り払おうとしたが、俺だって逃げられちゃ困るから力一杯にゆーの頬に平手打ちかました。

ゆーは泣いた。やっと心を開いてくれたのかと思い嬉しかった。

また一緒に戻ってやり直そうと俺は涙を流しながら、ゆーに向かって話したがお前みたいなクズなんか知らねえと侮蔑された。


もういい。全てをこの手で終わりにしよう。

俺は悟った。もう元には戻れない事を。


ゆーの細く白い綺麗な首に俺は手を持っていき力一杯に締めた。ゆーは負けじと振り解こうともがいたが段々と力が失われていき、振り解こうと暴れた手は力無くぶらんと垂れ下がった。

白目になったゆーの頬にキスをしようとすると、窓ガラスをバンバン叩く音がした。


ドアを開けなさい!!そこで何をしてる!!


通りがかりの警察官が不自然に停車している俺の車に気付き職質をしようとした際に犯行が発覚した。


悪いことはお天道様が見てるって聞いていたけれども本当に見ていた。


犯行に気付かれたのが早かったので、彼女は死んだ訳ではなく気を失っただけだった。

だが俺の中で眠っていた父の血が目覚め覚醒した事は俺の中で凄くショックだった。父の様にはなりたくないと思っていたのに俺は痴情のもつれから手を出してしまった。


俺は留置所の中で一晩中泣いた。

彼女にも謝りたかったが、もう会う事はなかった。


猛省と自分を見直す長い旅が始まった。

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