表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/59

第九話 調査完了 絶対にバレてはいけない毒魔法

 調査員の女――ジョジョゼが倒れていた。


 同僚の男――ザールが屈んで顔を近づけている。


 ジョジョゼは白目を剥いて痙攣していた。


 クハルナーたちはオロオロとうろたえている。


「どうした? 一体なにがあったんだ?」


「わからない。……突然、倒れたんだ」クハルナーが応える。「ええと、いままでと同じように口に含んで成分を調べていたんだけど……」


「彼女はなにを調べていたんだ?」


「これだよ――モンスターの死体だ。もう半分くらいダンジョンに溶かされていたんだけれど、彼女は死因が気になるとかいって……」


「……」


 俺の背筋を冷たいものが流れた。


「目立った外傷がなかったみたいなんだ。それなのに、こんな凶悪なモンスターが倒されていた。……ヨハン? これはキミがやった奴じゃないか?」


「……いや、俺じゃない」


「そうか。なら、キミのパーティーの誰かということか」


 クハルナーはうなずく。


 俺はザールの方を向いた。


「回復魔法は効かないのか? ここにはさいわい僧侶がいるし――」


「もう試したよ」僧侶のダクマリーが首を振る。「でも、効かなかった。なんでかはわからないけど。……初めてだよ、こんなこと」


「そう心配するな。じきに目を覚ます」


 ザールはその言葉どおり、べつに心配している様子はなかった。


「コイツはなんでもかんでも口にするが、本当に体内に入れていたら命がいくつあっても足りないだろ。コイツは特有の術によって守られている。……だがまあ、今回のようにあまりに毒性の強いものに当たると、こうやってしばらく使い物にならなくなる。だから、大丈夫だ。迷惑をかけるが、しばらく待っていてやってくれ」


「それなら、いいけれど……」


 なおも心配そうであるが、クハルナーはそう言ってうなずいた。


「……」


 俺は内心焦っていた。


……どうしよう? ……どうする?


 ジョジョゼが無事でよかった。それはなにより。


 だけど、マズくもある……。彼女はこの毒について、なにか気がつくだろうか?


 狩人職も毒草を調合して戦闘に使う――おそらく彼女の経験からいって、それらの毒に関する知識も得ているだろう。


 彼女が気づくだろうか。今回の毒が、そのどれとも違うということに……。


 直後、予兆もなくジョジョゼがパッと目を開けた。


「大丈夫か?」


「ええ、大丈夫――どれくらい寝てた?」


「ほんの五分くらいだ」


「……五分も? 相当強い毒だったのね」


「どうした? おまえにしちゃあ、ずいぶんと曖昧な言い方だな。なんの毒かわからなかったのか?」


「……うん、不思議な感じだった。どの成分にも心当たりがない」彼女は俺やクハルナーたちの顔を見回す。「これは誰がやったの? 一体、どんな毒を?」


「……」


 クハルナーたちは首を横にふる。俺ももちろん首を振った。


「おいおい、今回の調査にそれが重要なのか? モンスターを誰がどうやって倒したのかなんて、今回の件に関してはどうでもいいことだろ。興味本位で味見して、寿命を縮める気か?」


 そうザールがたしなめると、ジョジョゼは唇をすぼめてみせた。


「わかってるわ、ちょっと気になっただけよ。――安心して? 必要なことは全部わかったから。ほら、あそこ――強い力で故意に破壊された地形部分は、ダンジョン内でも吸収が遅くなるの――だから、崩された橋の部分はまだ残っていた。わずかに付着した鋼の成分も味見した――」


「……」


「長年使っていた刃物は、切ってきたものによって特有の味になる。私ならそれが識別可能よ。残念ながら、人間を切ったくらいでは鋼は一抹の粉ほども欠けない。だから、そっちとの照合はできないけど、まあ犯人は同じ――大剣を持った戦士の仕業だと考えていいわね。魔法も使わず橋を落とせる得物は限られているし。あなたたちが告発したとおり、あのパーティーが橋を落としたというシナリオで間違いないようね」


「……!」


 クハルナーたちは顔を見合わせる。その顔に歓喜が浮かんだ。


 俺たちはそれが事実だと当然知っているけれど、それを調査員も認めたのだ。これには大きな意味がある。


「あとは確認のために、連中の武器を味見させてもらおうかな。それで仕上げよ」ジョジョゼは俺たちを出口に促す。「ここでの調査はおしまい。戻りましょう」


 俺たちはダンジョンの外へと出た。


 クハルナーたちは仲間の遺体を馬車に運び込む。俺も手伝った。


 調査員の二人はそれぞれの馬にまたがる。


 そのときだった。


「あッ――」


 俺は叫ぼうとした。


 でも、遅かった。


 火のついた矢がジョジョゼの乗る馬――その体へぶら下げられた荷へ刺さる。


 その瞬間、大爆発が起きた――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ