第七話 早すぎる再会 冷たい会話
「クハルナーたちはまだ顔を合わせない方がいい。俺が一人で行く」
俺が言うと、彼女は目を吊り上げた。
「でも、仲間を殺されたのはボクたちなんだぞ!」
「私闘は禁じられている。あいつらのおこないを告発してもいいけど、向こうはしらばっくれるだろう。証拠はないんだ」
「ボクたちの証言がある! キミも!」
「もちろん俺も証言はする。でも、ギルドの調査を待たなきゃならない」
「……」
「あいつらのしたことは重罪だ。ギルドはすぐに調査を開始するだろう。結果が出るまではおとなしくしているんだ。……ルトヴィヒたちは一線を超えた。もしかしたら、ずっとまえからそうだったのかもしれないけど……。きみたちが生きているのを知ったら、どういう手に出てくるか……予想がつかない」
「……ボクたちの口封じをしてくると?」
「可能性はある」
「フン、それならそれで話が早い。返り討ちにしてやるさ」
「ルトヴィヒたちを甘く見ない方がいい。C級の中でも実力は確かな方だ」
「格上だね。でも関係ない」
「……」
それっきり口を閉じてしまった彼女たちを別れ、俺は一人宿屋へ向かった。
○
笑い声が部屋の外まで響いていた。
俺はノックもせずに扉を開ける。
ルトヴィヒたちの視線が一斉に俺へと集まった。
「――」
空気が凍る。
「……どういうことだ? 俺は亡霊でも見ているのか? それとも、酔っぱらいすぎちまっただけか?」
「安心しろ。俺にも見えている」
「私もよ」
「……ハァ。だから、誰か一人見張りを置いとけば、って言ったのよ。バカ!」
モニカが床にグラスを投げつけ、ルトヴィヒも怒鳴り返した。
「あぁ? だったら、てめえが残ればよかったじゃねえか!」
「フン。かよわい女の子を一人で森に残していくって? どう考えても、あんたか、そこの新入りの役目でしょ!」
「……」
俺をそっちのけで言い争いを始めるルトヴィヒたち。
……あいかわらずだった。こんな奴らと今まで仲間だっただなんて、こっちの方が恥ずかしくなってくる。
「荷物を取りに来ただけだ。すぐに出ていく」
俺は足早に部屋の一角に向かった。
いつも使っていたベッド――でも、そこに俺の荷物はなく、おそらく新入りのものと思われるバッグが置いてあった。
「……俺の荷物は?」
「わりぃ! もう戻ってこないと思って、売っ払っちまったわ!」
「……」
ルトヴィヒは全然悪びれた様子もなく、ゲラゲラと笑いながら言った。
……ここで不毛な言い争いをしてもしようがない。
俺は黙って出口に向かった。
「おいおい。もう行くのか? 一杯飲んでけよ」
「……」
「なあ、話を聞かせてくれよ。……どんな手を使って生き残ったんだ? 俺たちに金魚のフンみたいについてC級パーティーに上がった、大して使えねえ戦士のヨハンくんがよぉ? まあ、単にツイてただけだとは思うが。……で、あいつらは? あのD級パーティーの連中も助かったのか?」
「なんとかな。運がよかったよ。もう少しで死ぬところだった。傷がよくなったら、おまえたちの所業について告発の準備に入るんじゃないか?」
「……なあ、誤解があるようだ。俺たちのしたことについて。俺はパーティーみんなの命を預かる身なんだ。モニカ、ヴェロッテ、ユーリート。もちろん、ヨハンおまえもな」
「……」
「あのときは、ああでもしなきゃ俺たち四人の命も危なかった。おまえ一人のために、ほかのメンバーを危険に晒せなかったんだ」
「……だから、橋を落としたと? どこにそんな危険が迫っていた?」
「おまえには見えてなかったかもしれないが、後ろからヤバい奴が迫ってきてたんだよ。あいつが追いついてたら、俺たちも全滅だった。マジでヤバい奴だった。……気がついてなかったのか?」
「……」
この期に及んでまだベラベラと嘘を――。
「いずれ調査員がお前たちを訪ねてくるだろう。話はそのときにしてくれ。俺はもう興味がない」
「そうか。元気でな。……おおっと、奇遇だな。俺もおまえに興味がなかった。ギャハハハハ!」
「アハハ! ひっどーい!」
「……」
俺は今度こそ部屋を出た。
奴らの馬鹿笑いときたら、俺が建物を出るまでずっと続いていた。
その帰りに質屋に立ち寄ってみると、俺の私物が棚に陳列されていた。
「……」
大事に使っていた道具の数々……安くはない値段がつけられていることに、俺は複雑な気分になった。
「買うなら早くしてくれ。こっちはもう店を閉めるんだ」
「ああ……いや、いい」
肝心の買い戻す金がなかった。
お金の入っていた巾着袋も部屋に置いていたから、きっとさっきの酒代にでも消えてしまっただろう。
最低限必要なものは身につけている。
この剣さえあれば、あとはべつによかった。
俺はなにも買わずに店を出た。
○
クハルナーたちと待ち合わせていた宿屋へ。
ロビーには彼女が一人で待っていた。
「よければボクたちの部屋に泊まっていくかい?」
「助かる。一晩だけ世話になるよ」
「べつに一晩だけじゃなくてもいい。キミは命の恩人なんだから」
「……」
二人で階段を上がる。
「あいつらにきみたちの生存を伝えた。しばらくは警戒した方がいい」
「どうせ明日には伝わっていただろうからね。関係ないよ。――さっき、ギルドに調査員の派遣を依頼してきた。明日、さっそく動くらしい」
「そうか……」
「で、キミには同行をお願いしたいんだ。調査への協力、ユッテたちの遺体の回収もしないといけないし、あとせっかくだから宝の回収も……。なんにせよ、あのダンジョンには早急に戻る必要がある――」
「もちろん行くよ。ぜひ同行させてくれ」
「ありがとう。うれしいよ、そう言ってくれて。……さあ、今夜はもう寝よう。明日も忙しくなる」
俺は彼女に促されて部屋の中に入った。