第五十三話 ポルダの町へ戻ってきた冒険者たち アルトガーたちへの追走
「どうした、なにがあった? ああ、いや――大まかなところはうちの魔法使いから聞いて理解しているつもりだが」
近づいてきたのは四人組――冒険者パーティーだった。
顔見知りではあった。この町の冒険者ギルドでたまに顔を合わせるくらいの。
「あなたたちこそ、どうしてここに? ちょうど帰ってきたところかしら」
「ジョジョゼ――あなたの魔法でしょう? 突然、頭の中に声とイメージが流れ込んできたのは――私と僧侶の彼女はそのメッセージを受け取ったの」
魔法使いの女性が言った。彼女は続ける。
「犯人はたぶん、私たちも知っている奴らだと思う。でも、確信はないの。ねぇ、相手の顔をはっきりとは見てない?」
「ええ、見る機会はあったわ。それをいまからあなたたちの頭に直接送る」
ジョジョゼはもう一度通信魔法を使った。範囲を絞って目の前のメンバーへ向けて。
イメージしたのは、避難部屋で追い詰められた際のこと――近くで顔を見た――曲刀を持った眼帯の男。
記憶映像を受け取った魔法使いの女性がうなずく。
「ああ、やっぱり――間違いないわ。アルトガーね」
「アルトガーというの? 曲刀を持ったあいつの名は」
「ええ、名の知れたB級冒険者よ。おもに悪名ではあるけれど」
「そんな奴をギルドはいままで放っておいたわけ?」
「……」
「実力があれば、大抵のことには目をつむってもらえるのが冒険者という職業だ。それに、奴を告発しようとした者たちはことごとく不幸な事故に遭ってきた。だから、奴を追求しようにも証拠がなかったんだ」
非難じみたジョジョゼの口ぶりに、パーティーの戦士は言い訳するように言った。
「今回はどう? まさか追放くらいで済ませるつもりじゃないわよね?」
「ああ、奴らは今回一線を超えた。いや――一線どころじゃないか。町の市民を意味もなく皆殺しにするなんて」
「……」
「あいつの首をはねよう。もはや処刑台へ送るのも手間だ。俺たちの手で終わらせてやる」
「でも、悔しいことにあいつは強いわ。その……ボルファノもやられてしまったの」
言いにくいことではあったが、ジョジョゼは正直に言った。
「……ボルファノが? まさか!」
聞いた皆がそろって悲鳴を上げる。
「本当なのか? 彼ほどの男が?」
信じられないといった様子で戦士が首をふる。
驚くのも無理はなかった。この町を拠点とする冒険者なら、彼の武勇伝はいくつも知っているはずだ。
「そうか……相手は四人なのに、一人で立ち向かったのだな。くそっ! 俺たちがもっと早く戻っていれば!」
「残念だけど、ボルファノは一対一で負けたわ。そのアルトガーという名の男に」
戦士は目を見開いた。
「嘘だろう! あるわけがない、そんなことが!」
「実際に見たのよ。目の前でね。――望むなら、そのときの記憶も見せてあげられるけれど。多少は魔力適正のあるあなたたちになら見せられるわ。これ以上はあんまり魔力を使いたくないのが本音だけどね。しんどいから」
「いや、いい。信じるよ。……彼の遺体はどこに?」
「ギルドの避難部屋よ。場所は一部のメンバーにしか知らされていないの」
「そんなものがあるのか? あとで場所を教えてくれ。彼の亡骸に祈りを捧げたい」
「ええ。この件が片付いたらね」
ジョジョゼはうなずいた。
「このままアルトガーたちを野放しにはできないわ。近隣の町に協力をあおぐのもそうだし、できるだけ早く追跡を――」
「わかっているが、もうちょっとだけ待ってくれ。生存者がいないか捜索をしている。そう時間はかからないはずだ」
戦士の言葉に魔法使いの女性がうなずいた。
彼女は視線を上げる。
つられてジョジョゼも上を見た。
複数の鳥が空を横切る。鋭い羽ばたきで、なおかつ一直線に。
あきらかに目的を持った飛び方だった。鳥自身の意志ではなく、もっと知能を持った存在に操られた飛び方だ。
それに加え、路地のあちこちを犬が走り抜けていった。
惨劇が起きたときの静けさははっきりと覚えている――アルトガーたちがいたときには、この犬たちもこの町にはいなかったと思われる。いたら殺されていたはずだ。
つまり、この犬たちはあとからここへやってきたのだ。
「すでに町中に使い魔を放っているわ。それに、魔法使いはほかにもいる。彼らも同様に捜索にあたっているわ。ジョジョゼ、あなたの通信魔法を受け取ってね」
○
ほぼ同刻に到着したパーティーがほかにも複数あった。
数は六組。それぞれ違う場所にいたのだが――一仕事終えて町に戻ってくる途中の者もいたし、またポルダから出発したばかりのパーティーもいた――彼らはジョジョゼの通信魔法を受け取ると、皆急いでポルダの町へと馬を走らせた。
○
生存者を探していた冒険者パーティーの一人。
彼は珍しいものを発見し、ほかの者たちを呼び寄せた。
これがなにを意味するのか、判断をあおぐためだ。
正確に言うとさほど珍しいものではなかったが、この状況においては重要な意味を持つような予感がしたのだ。
「これは……?」
ジョジョゼも呼ばれて広場へやってきた。
広場の中央には首吊り台が――その下には死体が残されていた。
死体だけならこの広場には余るほどあった。各々が憩いの時間を過ごしていたさなかに、突如として殺されてしまったのだ。誰一人残らずに。
首吊り台のすぐ足元にあった死体は、首に縄の跡がある腐乱死体。
六日前に処刑されたルトヴィヒだった。
誰が死体をおろしたのか――まだ規定の日数は経っていないはずだ。
重罪を犯した罪人は、死後の腐っていく様を晒すのも刑の一部に含まれている。
規定より早くおろされたルトヴィヒの死体――それには結界がほどこされていた。
「……ルトヴィヒとアルトガーの関係は?」
誰にともなくジョジョゼは訊く。
「確か兄弟だったはずだ。ああ、聞いた覚えがある」
その場にいた戦士が代表して答えた。
「そうなのね……まさかとは思ったけど、やっぱり……」
この状況を見た瞬間からおおよそ察しはついていた。
――死体に結界をほどこすということは、その人物を大事に想っていたということだ。
調査の中でわずかばかり関わっただけだが、ルトヴィヒという人物にそう人望があるようには思えなかった。死後も彼のために動こうという人間は限られるはず。
――そう、それこそ肉親くらいのものだ。
自らの手で埋葬しようと考えていたのか、とにかくアルトガーはあとから戻ってこようと考えていたらしい。
そう、急ぎの用事を済ませてから――。
……その用事とはなんだろう?
ジョジョゼは嫌な予感がした。
とある考えが頭をかすめたのだ。自分でもそれを否定したかったが、否定しようとすればするほど真実味を増してくる。
「ということは、奴を追うより、ここで待ち伏せしていた方が確実か?」
戦士の男が言う。
彼の仲間もうなずいた。
「妙案ね。でも――」
だが、ジョジョゼだけは首を振った。
「ただでさえ見通しのよくなったこの状況よ? 気配を悟られずに待ち伏せできる?」
「もしバレても問題ないさ。バレるほど近づいてくれたあとな」
「
でも、そう悠長にもしていられないのよ」
「……どういうことだ?」
「奴らの狙いはヨハンなの。連中は彼を追っていったはず――ええ、きっとそう。彼を助けないと……。待ち伏せをするなら確実にアルトガーと相対することはできるでしょうけど、そうなった場合はすでにヨハンは死んでいるということになる……」
「……ヨハン? 誰だ、それは?」
同じ町を拠点とする冒険者同士で名前を知らない……それも無理はなかった。お互いまたすぐに任務に出ていくような職業なのだ。すれ違いはしょっちゅうだ。
それに、以前のヨハンは目立たない存在だった。もしかしたら、彼自身がそう努めていたかと思うほどに……。
ジョジョゼはかいつまんで話した――ヨハンはルトヴィヒのパーティーの一員だったこと。ヨハンを追放し、なおかつ一連の悪事を闇に葬ろうと画策したこと。ルトヴィヒはギルドの調査報告を待たずに逃亡したが、最終的には処刑台に送られた。
このタイミングで兄であるアルトガーが町を訪れたということは、なんらかの手段で連絡をとったに違いなかった。なら、その際にヨハンへの呪詛をこぼしていても不自然ではない。ルトヴィヒは最後の最後までヨハンを恨んでいた。
大事な弟の死体を一時的に手放してまで済ませようとしている用事――それはヨハンへの復讐と思われた。そうだ、その可能性は高い。
「ヨハン――彼はいい冒険者よ。なくすには惜しいわ。彼もものすごく腕が立つのだけれど、相手があの連中ではさすがに分が悪いわ。仲間も強ければいいんだけど、いま一緒に行動しているのはD級パーティーの子たちだし」
「なら、やるだけやってみるか。一部の戦力だけ残して、あとのみんなでアルトガーを追うことにしよう。そのヨハンとやらの行き先はわからないのか? それがわかれば追跡もはかどるんだが」
「ギルドに戻って調べてみるわ。クエストの受注書リストをめくってみれば、ヨハンたちの受けた依頼がわかるはず。その行き先もね」
「なら、さっそく取り掛かろう。……残念なことに、ほかに生き残りはいなかったようだ」
「……」
広場にほかの冒険者パーティーも集まってくる。
彼らは手分けして生存者を探していたはずだ。だがしかし、いまここにただ一人の市民も伴ってはいなかった。
「この町を根城にして十年も経つ。知り合いも大勢いた。……彼らの顔が浮かんできそうになる。だが、感傷に浸るのはあとにしよう」
「……」
目頭を押さえる戦士に、ジョジョゼは黙ってうなずいた。




