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第五話 毒魔法無双 まだ終わらない

 俺は一人通路をひた走る。たぶん深層に続いているであろう方へ――。


 通路には凶悪なモンスターで溢れていた。


 奴らの目が一斉に俺へと向けられる。


……逆に仲間がいなくてよかった。俺一人なら、力を加減しなくて済む。


 俺が魔法を発動しながら走り抜けると、モンスターたちはバタバタと勝手に倒れていく。俺の体には指一本触れることさえかなわない。


 階段を下り、さらに下へ、下へ。


 ある角を曲がる直前、向こうから濃密な気配を感じた。


 そのまま歩を進めると、鋭い双眸が俺を射抜いた。


 冷気をまとった巨躯――見るのは初めてだけど、間違いない。


――アイスドラゴンだ。


 予定外の場所でのエンカウントだった。


 ダンジョンの変動に加えて、奴自身もさまよっていたせいだろう。


 奴の口から「フシュウウウゥ」と冷気が漂う。空気中の水分がただちに凍りつき、氷の粒がコロコロと地面に落ちた。


「おまえがこのダンジョンのボスか? だといいけど。……まあ、どっちでもいいか」


「グゥルアアアッ!」


 ドラゴンが吠え、ブレスが吐き出される。


 それを間一髪でかわし、俺は奴へ向かって剣を投げた――もちろん、魔法を発動したうえで、だ。

 体はそもそも狙わなかった。どうせ、硬い鱗で弾かれるだろうから。狙ったのは、大きく開けた口。俺の投げた剣は奴の歯茎をかすった。


 本来なら、ただの切り傷――でも、俺にとってはそれで充分だ。


「ガア……ガア……グゥワ」


 アイスドラゴンはうめきながら体を地面に横たえた。


 目は見開いたまま、その輝きが消える。冷気の放出も同時にやんだ。


「あぶね。かすっただけでこれかよ……」


 俺は鎧の手甲部分を急いで脱いだ。


 奴のブレスがかすったおかげでキンキンに冷えていたのだ。このまま付けていたら腕が腐り落ちてしまう。


「うめく暇はあったか。……五秒くらいか? さすがにタフだったな」


 ゴゴゴゴ……。


 俺がつぶやいた直後に、ダンジョンが再び変動を始めた。


 やっぱり、こいつがボスで間違いなかったようだ。まだ新しくて不安定なダンジョンは容易に姿を変える――ボスを失った迷宮はまた急速に縮み始めた。


 しばらく待って、揺れが収まってから俺は来た道を引き返す。構造はまた変わっていたけれど、そこはまあなんとなく勘で進んだ。


「……ああ、ここにいたのか」


「ヨハンくん!」


 小さくなった部屋の隅で、より一層縮こまっている四人の姿を見つけた。


「驚いたよ! 急にまたダンジョンが縮小を始めて――」


 そこまで言って、クハルナーはハッとなにかに気づいた顔をした。


「……まさか、本当に? ボスを倒したのかい? 本当に一人で?」


「思いのほか、作戦がうまくハマったんだ。たまたまだよ。運がよかった」


「……そのわりには自信満々で出ていったみたいだけど?」横でイーザシャが眉をひそめる。


 俺はごまかすように肩をすくめてみせた。


「強がりが見抜かれなくてなによりだよ。自信なんてなかった。でも、なんにせよ賭けにでなきゃならない状況だっただろ? 結果、うまくいった。それだけだよ」


「……」


 イーザシャは黙って息を吐き、そして微笑んだ。


 俺のウソを信じたのか、それ以上みんなは追求してはこなかった。――それもそうだろう、このクラスのダンジョンボスを単独撃破できるような人材が、名前を知られることもなく普通に存在しているなんて誰も信じられないはずだ。それこそ、チート染みた能力を隠していないかぎりは……。


「さあ、そろそろ行こう。こんなところはさっさと出るんだ」


「帰り道は大丈夫かな? あっちはまだモンスターがいるはずだが……」


「それなら大丈夫だ。ボスを倒した直後は、ダンジョンが休眠状態になって力を蓄えようとする――その際、ほかのモンスターも一旦吸収して、ダンジョンが再構築されるまでは内部にモンスターはいなくなるんだ」


「へえ、それは知らなかった!」


「それはそうよ。あたしたち、まだダンジョンを制覇したことなんてないんだし」と、イーザシャ。


「だからこそ、気が急いてしまったな……。自分たちの実力もかえりみず、一番乗りしようだなんて……」


「挑戦は冒険者の本懐だろう? 誰だってそうするさ」


「……」


 俺の慰めにクハルナーは首を振る。


「……でも、犠牲者を出してしまった」


「残酷なようだけど、それもこの職業なら当然――と言いたいところだけど、まあ……今回は違うよな。今回は、間違いなくあいつらが原因だ」


「……外に奴らがいたら?」


「ケジメはとらせる」


 俺はみんなにうなずいてみせた。


 彼女らもうなずき返すと、立ち上がって俺のあとに続く。


 頭は冷静だったけど、体の奥深くでは静かな怒りが燃え上がっているのを俺は感じていた――。


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