第四話 少女だけのパーティー 脱出のために
「ぐっ……みんな無事か?」
「大丈夫……」眉に傷のある少女が応える。
「くそ! 足をくじいた!」中性的な彼女が苛立ちながら応えた。
――あの高さから落ちたんだ、仲間を背負っていてその程度で澄んだのなら御の字といえる。
「……ッ!」
俺は橋の上を睨んだ。
ルトヴィヒの笑い声が降ってくる。
「わるいな、ヨハン! 俺たちのために死んでくれ」
「おい、ふざけるな! ンで、こんなこと……ッ!」
「ほら、いいのか? もうすぐ後ろまで来てるかもよ?」
「く……ッ!」
「ギルドには名誉の戦死だと報告しといてやる。おまえの名は『英雄たちの墓標』に刻まれるだろう。じゃあな、ヨハン」
「――!」
ルトヴィヒの姿が見えなくなった。彼の高笑いが遠ざかっていく。
「くそ! くそッ!」
俺は地面を蹴る。自分でやっておいてガキみたいだと思った。それも、矢の刺さった方の足でだ。もちろん痛かったが、より痛い方が気を紛らわせることができた。
しばらく沈黙があった。
そこで――。
「おろして……」
か弱い声が暗闇に響いた。
「ダクマリー! 大丈夫なの?」
眉に傷のある彼女が背負っていた僧侶を地面におろす。
「私の近くに……少しくらいなら魔法を使える、かも」
「無理しないで」
「クハルナーの足を治すだけよ。そうしないと、ここから出られないし」
「……うん、そうだね」
中性的な彼女の名前はクハルナーか。彼女は回復魔法をかけてもらい、また問題なく歩けるようにはなった。ついでに俺も治してもらった。
「ああ……なんの音? せっかく眠ってたのに……」
また別の声がした。
「イーザシャも! 気がついたか」
「大きな声を出さないで。まだ頭が痛いわ。……魔力切れって最低っ! 二日酔いでも、こんなにひどいことにはそうそうならないわ」
イーザシャという名の魔法使いは、俺の方へ不審げな目を向けてきた。
「……その人は?」
「ああ……彼はヨハンくんだ。ボクたちを……助けてくれたんだ」
「いや、そんな……」
「そうなの? ありがとう、ヨハンさん。あたしは……」
「あとにしよう。いまは早くここを出ないと」
「……そうね」イーザシャはうなずく。
「ヨハンくん」
「ん?」
「よかったのか? これで――。ボクたちのために、自分のパーティーを――」
中性的な彼女――クハルナーは悲痛な面持ちで話しかけてきた。
「よせよ。――聞いただろ? 遅かれ早かれこうなる運命だったんだ。あいつらはもう、仲間じゃない。……いや、俺が切られただけか。無能だってな」
「……」
おどけてみせる俺にクハルナーは黙って首を振った。
「……ねえ、ここは? まだ、あのダンジョンなのよね? こんなに広かった……? まさか、あれから拡大したの?」
イーザシャは周りをきょろきょろと見回している。
「そうだ、とんでもない速度でね。うかつだった……未発見だったダンジョンには、やっぱりこういうリスクが潜んでいるんだね」
「だから言ったのよ! あたしたちの実力じゃあ、想定外の事態が起きたときに対処できないって!」
「みんなと話し合って決めたことだろう? 最終的にはキミも納得したはずだ」
クハルナーも負けじと言い返す。そこでイーザシャはハッとなにかに気づいた顔をした。
「みんな……そうよ、ほかのみんなは? ユッテやヨゼフィーたち」
「……」
クハルナーは一転して黙り込む。
その沈黙の意味をイーザシャもすぐに悟ったようだ。
「え、ウソ……ウソだと言って! ねえ!」
「……残念だけど」
「なににやられたの? あとから生まれたモンスターにやられたってことよね? ダンジョンをここまで大きくさせた原因でもある……」
「それについてはあとから話そう。ヨハンくんの言ったとおり、ここを早く出ないと」
「……」
イーザシャは唇を噛み締めながらもうなずいた。
「わかったわ。……でも、無事出られるの? あたしもダクマリーもまだ使い物にはならないわ。それをかばいながらなんて……。その、ヨハンさんが手を貸してくれるとはいえ……あ、貸してくれるのよね?」
「もちろんだ。こうなってしまったのには俺にも責任がある。……いや、俺の元パーティーの連中が……あ、いや、やっぱりそれも含めて俺自身にも」
「……?」
「とにかく約束するよ。俺がみんなを出口まで無事に送り届ける」
「ありがとう。でも……」
「?」
「失礼だけど……ヨハンさん、そこまで強そうには見えないわ。もちろん弱くはないのでしょうけど……。どこのパーティーに所属していたの? 有名なら、名前を聞いたこともあるはずでしょうけど、それもないし……」
「……」
口には出さないが、ほかの面々も同じような気持ちらしかった。
確かに、不安になるのも無理はない。ここまで拡大したダンジョンはめったにあるものじゃない。一体どれほどのモンスターが誕生したのか――ここを正攻法で突破できるとしたら、それこそA級パーティーの方々くらいだろう。
でも――。
俺には策があった。……あ、いや、策というか、シンプルに強力な魔法が。
俺の知るかぎり、俺にしか使えない魔法――師匠から譲り受けた門外不出の魔法だ。
「……グガアアアア!」
「……ッ!」
通路の奥から咆哮が響いてくる。
四人はビクッと身構えた。
俺は周りを見回し、よさそうな場所を見つけた。「あそこ――」彼女たちに指差して教える。
「さっきの崩れた瓦礫が山になっている。この様子だとダンジョンの変動もとりあえず落ち着いたみたいだし、しばらくのあいだは地層に吸収されることもないだろう。みんなはあそこに登ってくれ。あそこならモンスターにも見つかりにくいはずだ」
「……あたしたちはただ隠れていろと?」
「キミはどうするんだ? 一人で」
「ダンジョンを元のサイズに戻してくる」
「……え!」
「なっ……!」
俺の言葉の意味するところを察し、驚く面々。
「ダンジョンの主――ボスモンスターを倒せば、ダンジョンの活動も沈静化するだろ? 脱出するのはそれからでいい。きみたちを連れてこのままさまようよりはずっと危険も少ないはずだ」
「……本気で言ってるのかい? このクラスのダンジョンのボスを……たった一人で?」
「ああ。じつを言うと、一人の方が戦いやすいんだ。俺の使う魔法の性質上ね」
「……! キミは魔法も使えるのかい? その格好から、てっきり戦士職かと」
「剣は独学でかじった程度なんだ。本職は別にある」
「ずいぶんな自信ね。どんな術を使うかは知らないけど、魔法使いが単独で戦闘する気? 呪文を詠唱する時間はどうやってしのぐつもりなの? それとも、アイテムをたくさん準備してきた?」
同じ魔法使い職であるイーザシャが口を出してくる。
「いや、まあなんとかするよ。なんとかなる、と思ってる」
「……そう」
俺の自信ありげな口ぶりに彼女の方がひいた。
「武運を。ヨハンくん」
「ああ」
四人に見送られ、俺はその場をあとにした――。




