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第二十九話 探知成功 魔女の小屋

「どういうことだ!?」


 クハルナーたちの目が驚きに見開かれた。


 俺は自分の考えを説明することにした。


「この針は、この鳥に刺さっていたものだ。いま俺が仕留めて、針を抜いた」


「……え!」


「鳥にも!?」


 俺はうなずく。


「こいつが飛んできて俺と目が合った瞬間、あのオークたちもこっちに気づいた。つまり、こいつらと魔女はつねに針を通じて繋がっているんだ。調査員のジョジョゼが使っていた通信魔法に近いものだと思う」


「……」


「そのまえのゴブリンたちのときには、俺もそこまでの術だとは考えなかった。針を刺されたあとは、てっきり命令に従って動くだけかと。でも、どうやらそうじゃないみたいだ」


 俺の予想を伝えたが、聞いたクハルナーが首をふる。


「だからって、なんでその針を自分に?」


「この術で繋がれば、こっちにも魔女の位置がわかるかもしれないだろ? まあ、どうなるかわからないから賭けにはなるんだけど」


「……」


 四人はしばし言葉を失ったようだった。


「位置がわかるって……なんでそうなるの?」とイーザシャ。


「そうそう。意味がわかんない」ダクマリーも彼女に同意する。


「いや……仮に可能だとしても、危険じゃないか?」険しい顔をするクハルナー。


「うん。危険だと思う。すっごく」ラウレオはこくこくとうなずいた。


 彼女たちの意見ももっともだ。「でも」と俺は続ける。


「このまま闇雲に進んでも、裏にいる奴に逃げる時間を与えるだけだろ? もたもたしている時間なんてない――」


 俺は剣を腰からはずし、遠くに投げた。


「だから、試してみよう。俺が俺でなくなったら、おまえたちで取り押さえてくれ。頼んだぞ」


「ちょっ……!」


 俺は彼女たちの制止を待たずに針をこめかみに突き刺した。


――あらかじめ患部に麻痺毒を発生させていた。だから痛みはない。


 針は細いわりに頑丈だった。頭蓋骨に当たって折れたりもしない。あっさり骨を貫いた感触が手に伝わる。


 刹那、クハルナーたちの心配そうな顔が目に入った――。





「――」


 頭の中になにかが流れ込んでくる。膨大な情報の一部が――いや、全部が。


 森に散らばる数多の生物――魔女の針を刺された敵の刺客たち――それらと一瞬でつながる。俯瞰してみると、蜘蛛の巣のように綿密に構成されていた。


 同時に俺自身が頭の中から出ていったかのような感覚もあった。俺の意識は自分の身体を抜け出し、誰かのもとへ引き寄せられる。


 誰か――あれは? もしかして、あいつが?


 森の最深部、山の麓にぽつんと建てられた建物――その中に不穏な一つの気配を感じる。


 そいつと目が合った。


「……」


 これ以上はいけない――。


 俺は即座に毒魔法を発動した。この状態でできるかどうかわからないけど、とにかく急いで――。


 意識を覚醒させるための、微量だけど強力なやつ――死人さえ飛び起きる毒、と師匠も称していた種類のものを。


 瞬間、見ている世界が明滅する。そいつの歪んだ笑みが遠ざかった――。





「……はっ!」


 目を覚ますと、俺は地面にうつ伏せになっていて、身体が動かない状態だった。かろうじて眼球だけを動かすと、俺の前にはイーザシャとダクマリーが立っていた。険しい顔で杖を俺に向けている。


「んっ!?」二人は俺の表情の変化に気づいた。「ちょっと待って! 彼、正気に戻ったかも!」


「ああ……もう大丈夫だ」


「……! 本当か!?」


 背中が軽くなる。クハルナーとラウレオが俺をいままで押さえていたようだ。


 俺は立ち上がった。鎧についた土を払いながら周りを見回すと、辺りの地面はえぐれ、幹の傷ついた木も多かった。「これは、まさか俺が……?」


「……」俺の質問に四人は黙ってうなずく。


「なにも覚えていないのか?」


「ああ。……でも、こんなになるまで俺は暴れたのか? たった数分のあいだで?」


「……数分だって? 違うよ」クハルナーが首をふる。「ヨハン。キミは二十分くらいずっと暴れていたんだ」


「……そんなに?」


 俺は驚いた。


 信じられなかった。けど、彼女たちが俺をからかう理由もない。


 そうか。あの状態になって、完全に時間の感覚を消失していたらしい。自分としてはすぐに戻ってきたつもりだったんだけど。


「じゃあ、けっこうな迷惑をかけたみたいだね。そんな長いあいだ、押さえてもらっていたなんて……。ゴメン」


「まったくよ! いくら武器は持ってないとはいえ、あんなに力があるんだもの! クハルナーとラウレオが危なくなったら、遠慮なく魔法を撃つつもりだったんだからね!」


 イーザシャが語気荒く言った。


 おそらく、あの針で意識がつながった瞬間から、俺の身体は魔女に操られてしまったのだろう。そして、邪魔者である彼女たちを排除するよう、俺の身体は奴に利用された――。


「みんな、本当に悪かった。この借りはあいつに直接返すつもりだ」


「え? じゃあ……」


「ああ。魔女の居場所がわかった。これから急いで向かおうと思う」


 言いながら、俺は周囲の地面を探した。俺の剣は――。意図を察したダクマリーが茂みの中から取ってきてくれる。驚異になると思った彼女が、念を入れてさらに茂みの中に隠しておいたらしい。


 剣を腰に取り付け、俺は彼女たちを見る。「もう一回きいておこうか。俺と一緒に来るのかどうか」


「……」


「もちろん! ボクたちも行くさ!」


 イーザシャとダクマリーは迷ったようだけど、クハルナーは即答した。ラウレオも力強くうなずく。


 俺としては四人の意見が割れている状態は気は進まなかったけど、きっとリーダーのポジションであるクハルナーにみんな従うはずだ。結局全員で行くことになる。


 でも、大丈夫だ。俺がみんなを守ればいい。魔女だかなんだか知らないが、俺がさっさと片付ければみんなは安全だ。俺は四人にうなずいてみせた。


「じゃあ、行こう。昼飯までには終わらせるんだ」





 それは不気味な建築物だった。


 大きさはない。山小屋と言っていいくらいのもの。


 壁と屋根の全体をツタが覆い、自然と一体化している。不思議だ。このツタの絡まり具合、どう見積もっても一年や二年といった感じじゃない。まるで数百年経過しているかのような風格だった。


 魔法使いのイーザシャと僧侶のダクマリー、二人が露骨に気分の悪そうな顔をしている。――本職の彼女たちほど魔力に敏感じゃない俺でも気持ちはわかった。この場に滞留した濃密な魔力は、発酵してニオイすら感じそうなくらいに禍々しい。


 聞いたことがある――強大すぎる魔力は、おのずと周囲の生物に影響を与えるという話を。小屋を覆うツタは、生き生きとしているようで、同時に死の気配を漂わせてもいた。


 ここまでの道程は予想に反して静かなものだった。あのオーク戦から一転、手荒い歓迎のたぐいもない。向こうもとっくにこっちには気づいているはずなのにだ。


 小屋の扉は閉まっていた。けれど、それを透けてありありと敵意を向けられているのを感じる。


「ここに魔女が……?」


 クハルナーがつぶやく。


 その瞬間、


「――!」


 扉をぶち破ってなにかが飛んできた。


 俺の正面――俺は片手でそれを受け止めた。


「……」


 自分の手を見下ろす。


 飛んできたのは人間の頭蓋骨だった。小さい……おそらく子供のものと思われた。


 俺は扉に空いた穴の奥を睨んだ。


「出てこいよ。それとも俺に引きずり出してほしいのか?」


 小屋の中から低い笑い声が漏れてくる――。


「生意気な小僧だ。……誰に向かって口を利いている? 不敬を通り越して笑えてくるな」


 ずずん、と地面が揺れた。


 それからズシン、ズシン、と音が続く。


 おそらく最初のが立ち上がったときの揺れ。そして、これが歩いている音……。


 扉がゆっくりと開き、そいつは頭を屈めて外へ出てきた。


 後ろで「ひっ」とイーザシャが怯えた声をあげる。


 魔女と呼ぶには不釣り合いな――いや、関係ないかもしれないけど――ものすごい巨体の持ち主が姿を現した。


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