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第二十一話 峠にある小屋 懸賞金の作用

 人里離れた山小屋。


 窓の隙間からは明かりが漏れていた。


 誰が住んでいるのだろうか。近づいてみても中から声は聞こえてこない。


 ルトヴィヒはノックもせずに扉を開けようとした。


……が、かんぬきが掛かっている。


「……」


 彼はそこで乱暴に扉を叩いた。


「……どなたですか?」中から声。


 当然だが、警戒するような。


「誰でもいいだろ。さっさと――」


 雑に応えようとしたルトヴィヒを止め、


「夜分遅くに申し訳ございません」


 僧侶のヴェロッテが話を切り出した。


「町へ向かう途中で日が暮れてしまって……。もしよければ、一晩泊めて頂けないでしょうか。もちろんお礼はさせて頂きます」


「……」


 ヴェロッテは努めて可愛らしい声を出した。


――少し間があった。


 ルトヴィヒが早くも拳に力を込めはじめたが、意外にもすんなりと扉は開かれた。


 扉の隙間から男が一人、顔を覗かせる。


「……何人でいらっしゃいますか」


「四人です」


「いいでしょう。どうぞ中へ――」


 ルトヴィヒたちが中に入ると、小屋の中にはほかに男が三人いた。


 彼らはおそらく家族ではない、と予想する。顔が似ていなかったし、年齢も似たりよったりだったからだ。


「ちっ。この人数で寝るには狭ぇな」向こうにも聞こえる声でルトヴィヒがつぶやいた。


 迎え入れてくれた男が思わず苦笑する。「お互い端に身を寄せて眠りましょう。それなら充分です」


 あと、と彼は言葉を続けた。


「お腹は空いていらっしゃいませんか? もしよかったら、シチューがありますが――」


「いいんですか? ぜひ頂きます! 私たちみんなお腹がペコペコで……」


 ヴェロッテ以外の三人は、主人との対応を完全に彼女に任せていた。シチューを温め直しながら、主人の男が身内の一人に言う。「ちょっと彼らを呼んできなさい。ここへすぐ戻ってくるようにと」「わかりました」言いつけられた男は小屋を出ていく。


「彼ら、とは?」とヴェロッテ。


「息子たちは仕掛けた罠を見に行ってましてね。なにか獲物がかかっているかも。そうしたら、それも一緒にご馳走いたしましょう」


「本当ですか! ありがとうございます」


「……」


 ヴェロッテ以外の三人はあいかわらず黙ってふんぞり返っていた。


 四人はワインとシチューを頂く。主人の気前はよかった。ワインもシチューも惜しむことなくふるまってくれる。途中で外へ呼びに行った男たちが戻ってきた。呼び戻された男は五人もいた。あいにく罠は空振りだった、と彼らは話した。


 これでルトヴィヒたち以外に九人もの男が小屋に集合したことになる。屋内はとても手狭に感じられた。彼らは座ることもなく、ルトヴィヒたちを囲むようにして壁際に立っている。


「……」


 食事中のルトヴィヒたちを見て、連中はなぜかニヤニヤと笑っていた。


「ずいぶんと老けた息子だな……」


 ルトヴィヒがぽつりと言う。


「ええ、本人も気にしているみたいで」


 最初に迎え入れた男が応える。


 ルトヴィヒは「……ハッ!」と小馬鹿にしたように笑った。


「つーか、そもそも全然似てねえよ」


「……」


「……うっ!」


 ユーリートとモニカが、ほぼ同時のタイミングでスプーンを落とした。


 二人ともカッと目を見開く――声も出せない。突如として手足が痺れ始めていた。


「いまだ! 行け!」


 周りの男たちは一斉に武器を手にとった。


 最初に襲いかかろうとした男はルトヴィヒを狙っていた。後ろからルトヴィヒの首にナイフを突き刺そうと――。


 しかし、


「……がはっ!」


「……!」


 男は動きを止める。


 その喉元から血が滝のように流れた。


――ルトヴィヒの仕業だった。


 彼の持ったスプーンが赤く染まっている。


 ルトヴィヒは素早く反応し、相手より早く反撃に出たのだ。一瞬で男の喉元をえぐってみせた。そう、シチューを食べていたスプーンで――。


「こいつ……! なんで動けるんだ!?」


 ほかのメンバーを襲おうとしていた男たちもとっさに中断した。


 ルトヴィヒの動きがあまりにも速かったからだ。とても目に追える速度ではなかった。やはり、冒険者というものは並外れた戦闘力を兼ね備えていることを思い知る。


「……職業柄な、毒草には詳しいんだわ。ほんで対応する薬草もいつも持ち歩いてる。まあ、薬草かじりながら食うメシは不味いんだが――」


「……!」


 ルトヴィヒは左手に持っていた薬草をみんなに見せてやった。袖の内側にこっそりと隠し持っていたらしい。そして、それで毒を中和しながら食事を進めていたのだ。


――男たちの企みはとっくに看破していたということ。そのうえで本性を現すのを待っていたと。


「ビビるな! 動けるのはコイツだけだ!」


「そうだ! 一斉にかかれ!」


 男たちは意を決し、一気に襲いかかろうとした。


 ヴェロッテの手が白く輝く――彼女は呪文の詠唱を終えていた。


「――」


 光の膜が張られ、向かっていった全員の体が吹き飛ぶ。


 防壁魔法だった。ヴェロッテは毒に気づいた直後、回復魔法で素早く自分を治していた。それからすぐに防壁魔法の準備に移っていたのだ。


 もはや誰のものともわからなくなった肉片が壁にへばりつく。


「こ、こいつら……!」


 九人の中で一人だけが生きていた。最初に迎え入れた男だ。少しばかり飛び出すタイミングが遅れたおかげで彼は無事だったのだ。


 ルトヴィヒが男をジロリと睨む。「さあ、話してもらおうか。なんで俺たちを狙った?」


「へへ……おまえたちは終わりだ。どうせ、もう長くない」


「……」


「町に報せが届いたのさ。おまえたちのパーティーには賞金がかけられたってな。……一体なにをしたんだ? 途方もない金額だぜ。報せを聞いた全員の顔色が変わった。女子供、ジジイからババアまで、みんなおまえたちを探している」


「……」


「俺らはそいつらを出し抜くために、この山を越えてくると踏んで、ここまで出張ってきたってわけだ――だからなあ、頼むから死んでくれよ!」


「――」


 男が背中からダイナマイトを取り出す。


――が、火を点けるまえにスプーンが彼の額に突き刺さった。丸いスプーンが、まるで鋭利なナイフのように深々と――。


 倒れた男には見向きもせず、ルトヴィヒは顎に手を当てて考え込む。「……どういうことだ? 町に鳥を飛ばしたとして、ここまで情報が早いはずがない。ましてや、それを受け取った連中が先回りするほどなんて……」


「考えられるとしたら、通信魔法かも……。そういうのがあるって、聞いたことがある」


 ヴェロッテの返した言葉にルトヴィヒは眉を吊り上げた。


「くそったれ! ――そうか、ヨハンの後ろにいた女だな、きっと。……あいつめ!」


「どうするの? これから」


「町を避けていくしかないだろ。今夜はここに泊まって、夜明けと同時に発つぞ。さいわい、こいつらの馬と食料もあるしな」


 ユーリートとモニカは、ヴェロッテに回復魔法で解毒してもらった。


「なんで毒が入ってるって教えなかったのよ!」元気になったモニカがルトヴィヒに向かって歯を剥く。


 が、彼はただ肩をすくめるばかり。「言ったら奴らにも聞こえるだろ。どうせヴェロッテが回復してくれるんだ。腹を膨らませるのが優先だろ?」


「ちっ!」


 モニカは盛大に舌打ちしたあと、


「クソッ! よくも私に! 毒なんか!」


 悪態をつきながら、なおも死体を蹴り続けていた――。


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