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第十九話 ひとまずの決着か 蛇の一族

「どうせ、ルトヴィヒの依頼のせいで奴らには狙われるんだ。大した違いはないさ」


「そうかしら? 依頼を引き継ぐ者がいたとしても、それはたかだか数人でしょう? なんにせよ数は知れてるわ。でも、この証をつけられた人間は一族全員に狙われるって言ってたし……」


「……あいつらの一族って何人くらいいるんだろ?」


「さあ? 少ないことを祈りましょう」


 ジョジョゼの言葉に俺はうなずいた。本当に、そう願った。心の底から。


「……でも、どうするかな? ルトヴィヒたちには逃げられてしまった……」


「しばらく時間をちょうだい。私が通信魔法を使うわ」


「……そんな魔法を?」


「使えるわ。いざというときのためにね。調査員として働くにしても、覚えておいて損はなかったの。でも、あんまり使う機会はなかった」


「……?」


「あまりに集中力と時間を使うから。とても無防備になるの。――ヨハン、私が連絡をとっているあいだ私を見ててくれる?」


「ああ、わかった。……で、どこに連絡を?」


「私の念波をキャッチしてくれるところなら全部。ギルドの魔法使いや僧侶はもちろん、この先の町にも誰かはいるはず」


「……」


「彼らは飛行魔法で馬を一緒に連れてはいかなかった――あの魔法はただでさえ負担が大きいからでしょうね。仕方なく重たい馬は諦めた――だから、彼らはこれから徒歩で国境へ向かうことになる。この先の道のりにある町と連絡がとれれば、彼らを先回りできるかもしれない」


「……あいつらに懸賞金をかけるのか?」


「もうかかっているでしょう。今頃はとっくに。第一報を携えた鳥たちがすでに空を駆けているはず」


「……」


「あとは、金額の問題。……ここまでのことをされたのだから、ギルドも相当の額を提示するでしょう。でも、私はそれでも足りないと思っているわ。過去のおこないだけじゃなく、彼らがこの先も生きていくという危険を考慮すれば……」


「……なにが言いたい?」


「ヨハン、資産はどれくらいあるの? あのダンジョンで宝を回収したのでしょう? それを換金したらいくらになりそう?」


「これで懸賞金の額を上げろと?」


「そういう手もある、ということ。あなたがこのまま彼らのあとを追って、自らの手で直接手を下すという道もあるけれど、きっとあなたはそれを望まないでしょう?」


「……」


「だから、仕事はほかの誰かに任せましょうよ。むろん、ギルドの懸賞金だけでもみんな動くでしょう。人殺しに抵抗のないツワモノの賞金稼ぎたちがね。だから、あなたのお宝で彼らのやる気をちょっとだけアップさせてあげるの。額によっては、普段やらないような連中まで動かせるかもしれないわ」


「……で、俺の心も痛まないと?」


 どうせ、ひとのやることだから……。


 ジョジョゼはうなずいた。「そう。お金を出すのはあなただけじゃないんだから、彼らが殺されてもあなた一人の責任じゃないでしょう? それに、あなたはこの国の平和のために出資するだけ。これも正義のためよ」


「……」


 俺は考えた。少し迷ったけれど、答えはすぐに出た。


「わかったよ。この金を持っていても、あのダンジョンでの忌々しい出来事を思い出すだけだしな。あいつらはこれを欲しがっていたんだ。なら、あいつらのためにパーッと使ってやるよ。ダンジョンで手に入れた全部をな」


 俺が収納袋から取り出した宝を少し見せてやると、「予想以上ね。いくらになるか全然わからないわ」とジョジョゼも驚いていた。


 そうしてジョジョゼは通信魔法にとりかかった。途中でザールも目を覚まし、ありったけの罵詈雑言を谷の向こうへ浴びせかけていた。刺客の二人も殺すといって暴れたけど、俺が止めた。どうせ町に戻ったら事情聴取をされたあと処刑されるんだ。ここで血を流すことはない。


 風が冷たくなってきた。いつの間にか日が暮れようとしていた――。





 俺たちが戻ろうかと考えていたとき、ちょうど向こうからやってくる人影に出くわした。


 クハルナーとラウレオだ。


 俺たちに気づくと、彼女たちは馬を止めた。


「奴ら――ルトヴィヒたちは?」


「逃げられたよ。残念ながらね」


「……そうか。くそっ! なんて往生際の悪い奴らだ!」クハルナーは唇を噛みしめる。「……で、次の手は? 当然あとを追うのだろう?」


「ジョジョゼが通信魔法を使えたんだ。ここらの町ぜんぶと連絡がとれた。だから、彼らもじきに捕まるだろう。もう逃げ場はないさ」


「……」


 クハルナーは納得していなさそうだった。自分の手で決着をつけたかったのだろう。それも当然か。彼女は仲間を殺されたのだ。


「ヨハン、そのニオイは……?」


 ラウレオが鼻をつまみながら訊いてきた。


「ああ……刺客に逆恨みされてしまったらしくてね。これを投げてきた子は『標的の証』と呼んでいたけれど……」


「標的の証? まさか……」


「知っているのか?」


「その刺客っていうのは、たぶん『蛇の一族』って呼ばれてる人たち」


「……蛇の一族? 聞いたことないな。どんな連中なんだ?」


「村の住人の半数が刺客をなりわいとしている一族。任務には常に見届人がついてまわっていて、もし仲間がやられてしまったら、同胞を手に掛けたその人物を標的として記録するって――そしてそのあとはずっと、一族総出で標的の命を狙い続ける……」


「……マジか」


「まじ」


 ラウレオは真顔でうなずいた。


 ハァ……。俺はまたしてもため息がもれた。


 なんで俺がこんな目に遭うんだ? 降りかかる火の粉を払っただけだっていうのに……。


「うーん。この二人くらいのレベルだったら、まだいいけどな……」


「中には、単独で一個中隊を殲滅した者もいる。ある小国では、後継者争いがあった場合、先に蛇の一族に依頼した方が勝つともいわれている……」


「……」


 ゾッとする話だった。


「……本当にこのニオイはおちないのか? 何回お風呂に入っても?」


「もちろん、普通に臭わない程度にはおちると思う。けど、ちょっとでもニオイが残っているなら、狩人の鼻は絶対に捉える。もし、一族の誰かとすれ違ったなら、向こうは気がつくはず」


「……この先ずっと気をつけなきゃいけないのかよ」


 もはや、ルトヴィヒを捕まえて彼に依頼を取り消してもらっても意味がないようだ。仲間をやられた仕返しとして俺は狙われ続けると……。


「災難ね。助けが欲しいときは私を頼って?」と、ジョジョゼ。


「そうだ。ボクもいるぞ!」


「ラウレオも!」


「おまえたち……」


 クハルナーたち三人は頼もしいことを言ってくれた。


 けれど、なんだかいつもより距離が遠い。それ以上は決して近づいてこようとはしなかった。


「……」


「……」


 またこんな扱い?


……まあ、いいけどさ。


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