表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/59

第十四話 ルトヴィヒ逃亡 西門の衛兵

 俺たちは音のした方を見た。


 通行人もみんな指差している。


 そちらからはもうもうと黒い煙が上がっていた。


「……ギルドのある辺りだな」


「まさか……」


 俺とザールは人混みをかきわけて走った。


 近くまできたとき、俺はなにか破片を蹴飛ばした。


 正確には、煙が上がっているのはギルドではなかった。それに隣接する建物が半壊していたのだ。


「……あそこにはなにが?」


「ルトヴィヒたちを捕らえた部屋があった」


「……」


 怪我人が運び出されていく。


 話を聞けそうな人はいなかった。みんな重傷だ。


 俺とザールは建物の裏に回る。そちらが破壊された箇所だった。


 ザールが上を見上げて指さす。「三階のあの部屋だ。あそこには確か、魔法使いの女がいた……」


「モニカか! くそっ!」


 俺は思わず壁を殴った。


 いくら丈夫に作ってあるとはいえ、彼女の魔法なら壊すのも訳ないだろう。


「奴らもずいぶんと思い切ったことをしたもんだな。ここまでの暴挙に出るなんて」


「……刺客が任務に成功したら、なんらかの合図が送られる手はずになっていたんだろう。時間になっても、それがなかったから……」


「……あいつはもともと時間を稼ぐつもりだったのか。まんまとしてやられたな」


「どうして、もっと厳重な警備にしなかったんだ!」


 俺は八つ当たり染みたことを怒鳴ってしまった。


 ザールは肩をすくめる。


「冒険者に対して充分な警備なんて不可能だろ。とくに魔法使いなんぞは、裸にひん剥いてもどこかに魔法を隠し持っているもんだ。それに、昨日の段階ではあくまで容疑者という立場だったんだ。奴らもおとなしく従ったし、あれ以上の扱いは必要ないと考えた」


「いますぐ追わないと!」


「まもなく町の門のすべてが封鎖されるはずだ。冒険者といえど、そう簡単に外へは出られない」


「でも、なにか手を打つはずだ! ルトヴィヒはクソ野郎だけど、馬鹿じゃない」


「だが、どう探す? 門は東西南北で四つあるぞ」


「……」


 俺は考えた。


 一つ、取っ掛かりになりそうなものが浮かんだ。


「……ルトヴィヒたちはこのあと、どこへ逃げる気だ? ここまでのことをしたんだ、手配書が近隣諸国に配られるだろう。友好国なら、罪人の引き渡しがおこなわれる。でも、敵対国なら……」


「手配書は無視される――というか、届かないな」


「仲介人さえいれば国を渡ることはできる。ここから向かうとすると……」


「西のフスハイムが怪しいな。そう離れていないし、この国とは長年敵対関係にある。……だから、直接西門に向かうと? 根拠としては弱いな」


「俺は行ってみる。ザールは?」


「あの男にもう一度訊いてみるとしよう。なにか知っているかも」


 あの男――捕まえた刺客のことか。


「諦めて喋ってくれるといいが……」


「もし口を割らなければ、片付けてからおまえのあとを追う。そこでまた合流しよう」


「……できることなら殺すな」


「奴次第だな」


 俺はザールと別れ、一人で西門へと急いだ。





 すでに伝令は行き届いていて、門の前には衛兵たちが集まっていた。


 急に出入りを制限された商人らの馬車が立ち往生している。


 俺は屋根に飛び乗り、目を凝らした。


「……いた!」


 いままさに門をくぐろうとしている者たち――。


 封鎖の命令に例外はないはずなのに、一組のグループが町を出ようとしている。フードを目深にかぶった四人組……。顔は見えないけれど、俺にはその中の一人に見覚えがあった。あの高い身長と背負った大剣のシルエットは否応なしに目を引く――。


「ルトヴィヒ!」


 俺は叫んだ。


「――」


 その場のみんなが俺の方を振り返る中、その四人組だけがこちらを見ようとはしなかった。


 俺はすぐさま屋根を下りて門へと走った。


「おい、とまれ!」


「……ッ!」


 その俺の前に衛兵が立ちふさがる。


「邪魔をしないでくれ! あの四人に用があるんだ!」


「下がれ! いまここは封鎖されている」


「俺はヨハンだ! もと『宵闇の牙』の! いまはギルドの調査に協力している!」


「おまえが誰だろうと関係ない。誰も通すなとの命令だ。例外はない」


「フードをかぶった四人が通っていったじゃないか! たったいま!」


「……なあ、おい。そんなヤツ見たか?」


 衛兵は同僚の方を振り返る。


「いいや。見てないな」


「……!?」


 その同僚はニヤニヤしながら応えた。


……こいつら、ルトヴィヒに買収されたのか?


「ルトヴィヒにはいくら貰ったんだ? 通してくれたら、金はあとでギルドから――」


「……おいおい、コイツはなにを言っている? なんのことか、オレにはさっぱりわからないな」


「まったくだ。ソイツには見えないものが見えているようだ。イカれてるな。関わらないほうがいい」


「……」


 とりつく島もなかった。


 衛兵は歯を剥いて俺に怒鳴る。


「さあ、さっさと回れ右して失せろ。こっちは忙しいんだ。これ以上オレたちの業務を邪魔するようなら牢屋にぶち込むぞ!」


「……」


「……なんだ、その目は? なにか言いたいことがあるのか?」


「おい、どうもソイツは牢屋にぶち込まれるだけでは物足りないらしいぞ?」


「そうか……じゃあ、腕の一二本くらいは折ってやるか。ああ……あとで後悔するなよ? 牢屋で過ごす夜はこたえるんだ。ただぶちのめされただけでも、一晩経ったあとには冷たくなっていることもめずらしくない――おまえはどうだろうな?」


「……」


 俺は黙って魔法を発動させた。


『濃度』は極限まで薄く――なおかつ、『噴射』は勢いよく――。


「――なっ!」


「オイッ――!」


 俺の前に立ちふさがっていた衛兵たちが一斉に崩れ落ちた。


「なんだ、貴様! なにをしたッ!」


 離れたところにいる衛兵たちも次々と剣を抜く。


「すまない。どいてくれ」


「……ぅう!」


 俺が歩を進めると、彼らは剣を振り下ろすこともなく地面に突っ伏した。


 驚いて声も出ない市民たちの視線を背中に感じながら、俺は門をくぐった。


 城壁の外にも、衛兵と、足止めされた市民の姿が。


 残った衛兵たちはもはや俺に手を出してこようとはしなかった。


「……どこだ!?」


 俺はルトヴィヒたちの姿を探す。


 すると、馬に乗って走り去る四人の背中が遠くに見えた――。


「くそっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ