表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/59

第十三話 刺客はもう一人 地下の時間

「イーザシャ!」


 俺は彼女のもとへ駆け寄った。


「う、うう……」


 ナイフで脇腹を刺されたようだ。


 俺はその人物の去った方角を見た。しかし、すでにその背中は群衆の中に消えていた。


――誰だ? いや、いまはともかく……。


「大丈夫か? すぐにダクマリーのところへ――」


「あ、あああ……」


 イーザシャの顔があっという間に紫に変色していく。


 確かに傷は浅くない――だけど、ここまでの早さで弱っていくのはおかしかった。


「ちっ、そうか……毒か!」


「ああああ……!」


 震え出すイーザシャ。


 ダクマリーのいる宿屋にしても、冒険者が詰めているギルドにしても、ここからは少し遠い。間に合わないかもしれない――。


「初めてだけど……やってみるか」


 それしかなかった。


 俺は魔法を発動し、イーザシャの体内へ毒を流し込んだ。


 より強力な毒を……たった一滴でもこの町の全員を殺せるほどの……。


 でも、狙うのはイーザシャ本人ではない。その体内をめぐりつつある毒の方だ――。


 毒で毒を制するのだ――魔法というものは、術者のイメージ次第で無限の可能性を秘めている。できるはずだった。きっとできる、と俺の直感がささやいた。


 ナイフに塗られていた毒を魔法の毒によって殺し、そのあとで即座に魔法を解除した。時間にしたら数秒も経っていない。周りの観衆もなにもわからなかっただろう。


 イーザシャはキョトンした顔で俺を見上げた。


「あ、あれ……? あたし……なんか、大丈夫かも」


「よかったよ。うまくいったみたいで」


「ありがと……」


 イーザシャは立ち上がる。


「あ、イタタタ!」


「ゆっくり……。刺し傷の方は処置できてないわけだから」


「……うん、でも大丈夫。ナイフは小さいヤツだったみたい。そこまで酷くはないよ」


「肩を貸そう。宿屋まで戻るんだ」


「あ……ご飯買っていかないと。せっかくここまで来たんだから」


「まあ、そうだな……」


 みんなの分の食事を買い、俺たちは歩き出した。


「……犯人は見た? あたし、全然気づかなかったんだけど……」


「顔は見えなかった。ほかのみんなにも報せないとな。刺客はまだいるみたいだ」


「でも、ヨハンって何者? あんな強力な解毒魔法、高位の僧侶でも中々使えないと思うけど」


「あー、いや……まあ色々と修行してきたからな。その成果さ」


「修行したからって、戦士が魔法を使えるようになるの? ……あ、逆か。僧侶が剣を学んだってこと?」


「まあ、そんなところだ」


 俺は適当にはぐらかし、イーザシャを支えながら宿屋まで戻った。


 傷ついた彼女をダクマリーに託す。さいわいなことにジョジョゼの治療は済んでいた。ダクマリーは続けてイーザシャの治療に移る。小さなナイフ傷だ、体の半分が吹っ飛んだジョジョゼに比べれば大したことない。僧侶の治癒魔法で完治まで一分もかからなかった。


「気をつけた方がいい。刺客はまだいるようだ。しかも、街中に」


 俺の言葉にジョジョゼはうなずく。


「私はもう大丈夫だ。すぐにギルドまで行こうか。調査結果を報告するんだ」


「奴らは即刻縛り首だな。はりつけでもいい。……ああ、火あぶりだと準備がかかるからな。できれば、今日中に済ませてもらいたい」クハルナーが唇を歪めて言った。


「私が口添えすれば可能だろう。私も奴らの死に顔を見ながら、今夜は晩酌といきたいところだからな」


「……でも、また邪魔しようとしてくるんじゃない? もしかしたら、今度こそなりふりかまわずに……」


 イーザシャが心配そうな声を上げる。ジョジョゼもうなずいた。


「可能性はある。私がギルドに到着すれば、奴らの死刑が確定するわけだからな。刺客はいままで以上に躍起となって阻止しようとしてくるはず」


「……」


 そこでクハルナーが俺を見た。


「ヨハンくん。できればボクたちと一緒に来てほしいんだが……」


「もちろん。同行させてもらうさ」


「よかった! 助かるよ」


「ところでザールは? 彼にも仕事をしてもらわないと……」ジョジョゼが周りをきょろきょろと見回す。


「……ああ、ここの地下室にいるよ。ちょっと待っててくれ。俺が呼んでくる」





 俺は地下室へ下りた。


 中は静かだった。ザールは拳についた血を拭っている。


 捕らえられた男はぐったりとうなだれている。その顔面からは大量の血が滴り落ちていた。


「進展は?」


「中々強情な奴だよ。なにも喋ろうとしない。まあ、その分俺は楽しめてる」


「そうか……」


「う……あ……」


 男が目を覚ます。少しのあいだ気を失っていたようだ。


「ああ……なあ、いま何時だ?」


「おまえが気にする必要があるのか? いま、この状況で?」


 ザールが意地悪に応える。意地悪どころか、ひどく残酷にも聞こえた。


「なあ、ザール――ジョジョゼの怪我は回復した。これからすぐにギルドへ向かう。一緒に来てくれ」


「わかった。……ああ、そうだ。こいつも連れて行くべきかな。処刑も数が多い方が盛り上がるだろ?」


「どっちでもいいから早くしてくれ」


「オレのポケットに時計が入ってる。……なあ、時間を教えてくれないか?」


 男が会話に入ってくる。もう一度時間を訊いてきた。


「……」


 俺はザールの顔を見る。


 ザールは男に近づき、その体をまさぐった。


 懐中時計を抜き取り、男の正面に座る。


「いい時計を持ってるな。……盗んだのか? ……いや、たとえ買ったにしても汚れ仕事で得た金だもんな。あんまり変わんねえか」


「なあ、いまは何時なんだ?」


「……ああ、もうこんな時間か。どうりで腹が減ったわけだ――」ザールは懐中時計を握り、にやりと笑った。「こいつはもう必要ないよな? 俺がもらっておいてやるよ」


「……」


 捕らえられた男の反応は予想外だった――笑ったのだ、彼も。


「……ああ、やるよ。時間はわかった。だから、オレは満足だ」


「時間を言った覚えはないが……」


「ああ、聞いてはいないさ。あんたの目に反射したのを見たんだ」


「……ハッタリか? 意図はわからないが、なにを――」


「目はいいんだ。狩人だからな。――ああ、頃合いだな。オレはヘマしちまった。だがまあ、恥の上塗りはしないで済んだ。オレは自分に満足してるよ。思ったより根性があったってわけだ――」


「……なにを言っている? 時間がなんだっていうんだ?」


「――」


 そのとき、外で大きな音がした。


 爆発音だ。


 俺はザールと顔を見合わせ、階段を駆け上がった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ