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第十二話 宿屋のロビー 危機ふたたび

 宿屋のロビーに上がると、とんがり帽子をかぶった女性――魔法使いのイーザシャが端の椅子に座っていた。


 彼女は一人だ。俺は近づいて声をかけた。


「ジョジョゼの様子は?」


「ついさっき目を覚ましたって。クハルナーが下りてきて報せてくれたわ」


「そうか、それはよかった! ……で、彼女たちは?」


「クハルナーはまた部屋に戻ったわ。念のために、護衛をね。ラウレオも外で見張りをしてる。あたしは――」


「魔法使いは用無しか? まあ、この状況だとな」


「……」


 イーザシャは黙って肩をすくめる。


「そっちは? なにか聞き出せそう?」


「どうかな。俺としては無理に話を聞く必要はないかも、って思い始めてる。ジョジョゼが回復して調査結果は話せば、ルトヴィヒたちは間違いなく有罪だろ? 雇われたあの男にしても、動機までべつに聞き出す必要はない。ジョジョゼが調べれば、なにかしら証拠は出てくるはずだし」


「つまり、いま地下室でおこなわれているのは相棒を傷つけられた仕返しってことね。当然そうなるよね。ただ、やりすぎなきゃいいけど。……まあ、やりすぎたらやりすぎたでべつに問題ないけどさ」


「……」


「そういえば、まだお礼を言ってなかったかも。――ありがとう、ヨハンさん。あなたのおかげで助かったわ。あたしたち、みんな」


「そんな……礼なんて」


「言わせて。――見てのとおり、あたしたちのパーティーは女だけで結成された。男が混じると余計なトラブルも起きたりするから、いっそのこと女だけで組まない? って、あたしが最初に提案して――。あるクエスト終了の報告後だった。ちょうどこの街の酒場で。たまたま同席したの。五つのパーティーに分かれていた女冒険者八人が。――すごい偶然だと思わない? みんな、自分の仲間の男たちにうんざりしていたの!」


「ああ……」


「でも、自分たちの力量もよくわかっていた。大体のパーティーみたいに四人で組んでも、あまり仕事はこなせないだろうって。だから、八人全員でパーティーを組んだ。順調だったわ。職業もうまく分かれていたから、半分ずつの四人で分かれることもできた。昨日のダンジョンでも、道が狭いからそうやって二手に分かれたの。ちょうど道も二つに分かれていたから、そのタイミングで――」


「……」


「おとといの夜は浮かれてたわ。新米冒険者みたいに、目をギラギラさせて真夜中まで天井を眺めてたっけ。――たまたま見つけた新発見のダンジョン。こんな町の近くで――少し中を覗いてみたけど、そこまで難易度も高くなさそう――ほかの誰かに見つかったら最悪。一刻も早くアタックしないと! っていう気持ちがはやって、リスクについてはあまり考えられなかった。あたしは一応慎重な意見も出したけど、みんなの勢いに逆らえなかったし、結局は首を縦に振った。あたしもみんなと同じ、これはチャンスだって気持ちがあったの。……ううん、誰でもそう思ったんじゃないかな。あそこで身を引けるような性格なら、そもそも冒険者なんてやってない――」


「……」


「分かれ道で、コインを投げてグループ分けをした。まず、戦士二人が表か裏か言い合って、アタリとハズレのグループを作って。次に狩人。それから、魔法使いと僧侶って……。あたしたちの方も楽な道のりなんかじゃなかった。……ううん、とてもあたしたちの手には負えないってわかった。あたしもダクマリーも魔力を使い果たして、クハルナーたちに迷惑かけることになった。……でも、考えちゃうの。あのときのコインの結果が違ってたら、死んでたのはあたしだったんだな、って」


「……」


 イーザシャは息を吐いた。視線はなにもない壁の方を向いている。


「あたしたちの方へ進んできたのが、ヨハンさん――あなたじゃなかったら。ルトヴィヒに斬り殺されてたのはあたしたちで、あなたに助けられたのが彼女たちだったのね。――なにがあたしたちの運命を分けたのかな? ただのコイン? それとも、コインすらも操る何者かの存在?」


「そういうのを考えてしまうのは、ごく普通のことだ」


 俺は首を振った。


「――だけど、答えなんてない。理由はともかく、もう起きてしまったことなんだ。それは変えられない。ただ受け止めることしか……」


「……受け止められるかな? あたし」


「ルトヴィヒたちの処刑も一つのきっかけにはなると思う。希望する処刑方法があったら、陳情してみるといい。これだけの大罪だ。聞き入れてもらえると思う」


「そっか。被害者がリクエストできるのよね。……なんにしようかな? 思いっきり苦しむ方法にしてもらわなきゃ。殺された彼女たちのためにも」


「ああ。そうしろ」


 イーザシャは壁の時計に目をやった。


「ああ、お腹空いた! ……そうだ、みんなにもなにか買ってきてあげようかな? あたし、ちょっと市場まで行ってくる」


「出歩くのは危険だぞ? 万が一のことがある。刺客がまだいないとも言い切れない――」


 俺が咎めると、彼女はふりかえって微笑んだ。


「だったら、あなたが一緒に来てくれたら安心じゃない?」


「……仕方ないな」





 俺とイーザシャは街に出た。


 人混みの中を彼女ははずんだ足取りで歩く。


 とても楽しい一日とはいえないけど、とりあえず状況は一段落した。そんな感じで気が抜けていたのかもしれない――。


「あー! これもおいしそーじゃない?」


 イーザシャが俺の方をふりかえる。


 そのとき、フードをかぶった小柄な人物が彼女の体にぶつかった。


「……?」


「――ッ!」


 イーザシャは自分の脇腹を見下ろす。


 彼女の着ている茶色のローブが見る見る赤く染まっていった――。


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