第十一話 刺客撃破 捕縛の地下室
「……な、なにをした!?」
あいかわらず正確な位置はわからないけれど、男の声から狼狽した様子が伝わってくる。
「剣は当たっていなかったはず! それは確かだ! これだけ離れていても見えたぞ! 貴様の剣はあきらかに空を切っていた!」
「そうだよ。……どうして?」
ラウレオも首を傾げている。
「大したことじゃない」俺は肩をすくめてみせた。それから、
「さあ、次の手はなんだ? 時間がないんでな、巻いてくれると助かるんだが」
隠れている襲撃者に向かって言ってやった。
「くっ……! 調子に乗りやがって!」
「……ッ!」
矢が飛ぶ音。
俺たちを狙ったものじゃない。矢は真上を通過した。
「……!」
「避けろ!」
樹上に石の入った包みが用意されていたのだ。
俺とラウレオは横に飛んで落石をかわした。
「――」
そこへ次は丸太が向かってくる。
振り子の軌道を描いて、俺のところへ――。
「……危ない!」
ラウレオの叫びを聞きながらも、俺はべつのところを見ていた。
この丸太の仕掛けも、矢を使って縄を切断することで発動させた――。
石、丸太――犬も含めれば三度――やつは矢を放った。その出どころを見逃さないよう、俺は注意していた。
三度も続けば、やつの移動している方向、そしてスピードも把握できた。
「……あそこか!」
俺はおおよそのあたりをつけて走り出す。
確信はなかったけど、近づけば相手もなんらかのリアクションを起こすはず……!
「くそっ! なんで!」
予想どおり、居場所がバレたと勘違いした男は姿を現した。
俺を正面に捉え、ヤツは弓の弦を引き絞る――。
俺は剣を投げた。
「……ッ!」
男はそれをかわし、俺の剣は背後の木に突き刺さった。
「ハハッ! 残念だったな……アァ?」
確かに俺の投げた剣はかわされた。
だけど、べつに当たらなくてよかったのだ。近くを通りさえすれば……。
――『魔法』を刀身にまとわせるやり方だ。さっきの猟犬も同様。剣から漂う毒をほんの少しでも吸い込ませることができればいい。それだけで俺の勝ちだ。
倒れた男に俺は近づく。
彼はまだ生きていた。目を見開いて俺を見上げている。
「安心しろ。殺しはしない。おまえには誰に依頼されたか証言してもらわないといけないからな」
「ぐ……!」
意識こそ残っているが、彼はしばらく喋ることもできないだろう。
俺は男をかついでラウレオのところに戻った。
「どんな手を使ったの?」
彼女は目をキラキラさせて訊いてきた。
「気になるか?」
「気になる!」コクコクとうなずくラウレオ。
「いまはそんな場合じゃないだろ? 早くみんなのところへ戻るぞ」
「は! そうだった」
○
俺たちはみんなのところへ戻った。
「片付いたのか?」
「ああ」
ザールは俺がかついだ男をちらりと見る。
「生きてるみたいだな」
「大事な証人だ。連れて帰る」
「ラウレオ、大丈夫だった?」と、クハルナー。
「うん。最高だった」
「さいこう、だった……? なにが?」
返ってきた答えに彼女は怪訝そうな顔をする。
「こっちは異常ないか?」
「いまのところはな。……さあ、そいつを馬車へ積み込め。急いでここを離れよう」
「ああ。賛成だ」
俺が馬車の荷台を開けると、中で僧侶のダクマリーが治療中だった。ジョジョゼの意識はまだ戻っていない模様。ただ、さきほどよりは顔色がよくなっていた。
「さあ、早く!」
俺たちは馬にまたがり、走り出した。
クハルナーが先頭だ。馬車を守るために前に出る。しんがりは俺が務めた。
「一気に駆け抜けるぞ!」
自分の馬を操るザールも声を上げる。
確かに森を早く抜けたかった。
俺は手綱を握りながら後ろを振り返る。
――追ってくる影を見つけた。
「後ろはどうだ!」
「一人だ! 任せろ!」
俺はザールに怒鳴り返し、背後に向かって向かって魔法を発動した。
俺の魔法は風にのって後ろへ流れる――。
数秒後、そこを追っ手が通過した。
途端に体勢を崩し、やつは落馬する。
「どうした! なにをやった!?」
「問題ない! もう大丈夫だ!」
ザールの声に応える。なにやったか、という問いは無視した。
森を抜け、街道に出る。
追っ手の姿はもうなかった。刺客は二人だけだったようだ。
それでも俺たちは警戒を解かず、街へと急いだ。
○
街へ辿り着くと、傷ついたジョジョゼはそのままクハルナーたちが泊まっている宿屋へ運び入れた。ダクマリーが治療を続行するようだ。
「ご主人。もう一つ、部屋は空いてないか? できれば、多少うるさくても苦情の入らない部屋がいい」
ザールが宿屋の主人に声をかける。彼は俺のかついでいるものを一瞥した。
「……汚すのかい?」
「場合によってはな」
「……地下室なら空いている」
俺とザールは地下室に捕まえた男を運び入れる。
ザールが男の頬を叩いた――寸前、俺はやつの体内に残る魔法を解除していた――男は短くうめいたあと、ゆっくりと目を開けた。
「……ここはどこだ?」
「おまえにとって安らぎの場所にも最悪な場所にもなりうるかもな。質問に答えろ」
「ふふふ……なにが聞きたいんだ?」
「誰に雇われた? ……ああいや、答えはわかっている。だが、おまえには認めてほしい。おまえの口から、はっきりとな」
「なんのことだ? 俺はただ、自分の意志でやっただけだ」
「ほう。自分の意志で、ギルド調査員の女を?」
「そうだ。調査員ってのはもともと嫌われてるものだろう? 俺も嫌いだ」
「だからって、爆薬を仕掛けて吹き飛ばすほどにか?」
「あれは運が悪かったな。まさか荷物に爆薬が入っているなんて。……なあ、一体なんに使うつもりだったんだ? あんなものを……」
「――」
ザールが男を殴りつける。歯が一本、壁に跳ねて転がった。
「……いってぇ」男は血混じりの唾を吐き捨てる。「ちゃんとあとで僧侶は呼んでくれるんだろうな? ぜんぶ勘違いだってわかったら――」
「あんまり先があるとか考えないほうがいい。今日ここで死ぬことだってありうるんだからな」
「……」
「俺は外で待ってるよ。結果がわかったら教えてくれ」
俺が言うと、ザールはこちらをふりかえった。
「手伝っていかないのか? 報酬はちゃんと払うぞ?」
「ああ、いや……」
「金を貰って人を殴れるのに、やっていかないのか? ……本気か? 変わったヤツだな」
「……そういう趣味はない」
俺は部屋の外に出てため息をつく。
中からはさっそく殴打の音が何発も響いてきていた――。




