森の祠の片思いの話
「神様、今日も来ちゃった」
「もう来るなって言ったはずだ馬鹿」
森の奥にある祠。そこに住むのはこの私。と言っても、私は人間の言うところの神ではない。むしろ、物の怪と言われる類のものだろう。この祠に居た神が人間に捨てられて還ってから、この祠に勝手に住んでいる。神気が薄まったここは、絶好の住処だった。
特に何もすることもなく自堕落に過ごして何百年。初めて、客が来た。迷子の少年。喰ってやろうかと思ったが、見た目が好みだったので喰うのはやめて手を引いて村近くまで送ってやった。それからというもの、少年は毎日遊びに来た。それは青年になった今も続いている。
「神様!俺、好きな子が出来たんだ」
「…は?」
「応援してくれるよな!」
応援…?応援なんてするわけない。だって私は、この醜い鱗を綺麗だと言ったお前を…。
「帰れ」
「え?」
「帰れ!二度と来るな!」
私は妖術で青年を村に帰した。
でも次の日、性懲りも無く青年は私の元へ来た。
「なあ、俺、何かした?ごめん、謝るからさ、仲直りしようよ」
私は青年を見ない。顔を背ける。…祠から出てきてはしまったけれど、会話はしない。
「なあ、なんか言ってよ」
「…」
青年は人間だ。私と一緒になることなどあり得ない。わかっていたのに、それが悔しい。青年の心を奪う女が憎らしい。
「…お前の思い人の写真はないのか?」
「!あるよ、ほら、スマホ見て!可愛いだろ!」
なるほど、可愛らしい。成人する頃には美しくなるだろう。醜い私とは違って。
「…私とは全然違うな」
「神様は美人だからな!優奈ちゃんとはタイプは違うよな」
つまり私には、勝ち目はないのか。
「邪魔だ、もう帰れ」
「ちぇっ、また明日も来るから!」
青年が帰って、私は女に呪いをかけた。これが成就すれば女は死ぬ。呪いを解けば私が死ぬ。さて、青年はどちらを取るだろう。
ー…
元々、結果は出ていた賭けだった。青年には呪いやそれを解く方法を幼い頃に教えていたから。
「…来たか。よかったな、女を救えて。何も知らずにお前の看病に感謝しているそうじゃないか」
「なんでだよ、神様。なんで…」
「お前を愛してしまったからだよ」
「…え?」
「さよならだ」
私は眠りにつく。ああ、でも、なんて心地の良い終わりだろう。最期まで、青年の私を呼ぶ声が聞こえた。




