聖女の儀、当日 side 村人
聖女様。
たまに俺たちの村にも来てくれた聖女様。
皆に優しく声をかけ病人を慰め年寄りを労わっていた、美しく清らかな女性。
その人が、今日堕ちた。
今日は二十年に一度の聖女の日。街の中心にある広場に、多くの人が集まっていた。
普段の祭りと違い、今日は特別な日だ。
今日はすべての人が仕事を休む。そして可能な限り、この広場に来る。
聖女の儀式を見る為に。
人々が見守る中、一人の女が儀式の壇上に上がった。みすぼらしく汚らしい女が。
最初、それが誰だか本当に分からなかった。あまりにも普段の姿と違いすぎて。
けれど、今日のこの日に儀式の壇上に上がる女性は、聖女様以外にない。
よく見れば、服装や髪の色は聖女様のもので、顔立ちにも面影があった。
しかしその顔に、いつもの慈しみに溢れた笑みは無かった。猜疑心と憎しみに満ちた眼差しで辺りを窺い、神官に触れられれば怯えて叫び身を震わせている。
まるで気の狂った物乞いのようなその姿。
それを見てハッとした。
そうだ、これが俺たちの穢れだ。
綺麗なことしか知らない顔の聖女様とは、無縁だったもの。
それが今、聖女様の身に降りていた。
胸のすくような感覚がした。
そうか。
聖女様が俺たちの穢れを引き受けてくれたから、今こんなにも晴れやかな気持ちなのか。
ならば、この穢れは始末しなければ。
穢れはどうせまた、俺たちの中に少しずつ溜まっていくだろう。
だがここにある穢れは、今ここで始末しなければ。
折角、聖女様がその身を捧げてくれたのだから。
「「殺せ!殺せ!」」
周囲から声が上がった。
ああ、皆、同じ気持ちなのか。
「「「「殺せ!!殺せ!!!」」」」
声はどんどん大きくなっていく。
そうだ。
こいつは、穢れは殺さなければいけない。
気づけば俺も、力の限り叫んでいた。
「殺せ!!!!奴を殺せ!!!!!」