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【完結】贄の聖女  作者: 黄昏睡(たそがれ すい)
7/11

聖女の儀、前日 side 神官A

本作のクライマックスです。

気分が落ちると思うので、昼間に見ることはおすすめしません。

明日はいよいよ、二十年に一度の聖女の儀の日。

今年二十歳になる私は、今回が初参加となる。

私よりほんの数歳年上の聖女を犠牲にしなければならないことに胸が痛む。

しかし、これは必要なこと。この世の穢れを祓うために、誰かが犠牲にならなければならないのだ。


小さな頃から聖女として育てられてきたのだから、彼女も覚悟は出来ているはず。


そうは思いつつも、聖女の心の平穏を願い神に祈りを捧げた。



そして今日は、聖女に穢れを降ろす儀式の日。

穢れを祓う聖女の儀の前日に、この世に溜まりきった穢れを聖女へと移すため、上位神官のみで行う秘された儀式があるのだ。先日、若輩ながら上位神官に名を連ねることになった私も、その秘儀に加わるよう神官長から仰せつかっていた。

儀式の時間の少し前になり、神殿の広間へと向かう。


私が広間に着くと、上位神官のほぼ全員が集まっていた。いつもは時間ギリギリに現れるような、上位神官の中でも更に高位の神官たちまで。

皆から、常とは異なる異様な空気を感じる。だが二十年に一度の大切な儀式ともなれば、それも当然のことなのだろう。

私も緊張を宥めつつ、儀式の開始を待った。


私が到着してほど無くして、神官長が聖女を伴い広間へと入ってきた。騒めきが止み、場が静まり返る。

聖女に、いつも浮かべている穏やかな笑みはない。それに加えて、酷く憔悴した様子なのが気にかかった。しかも周囲の神官たちからは、何かギラギラした妙な熱のようなものを感じる。

いつもの清廉な空気がない。


広間の中央に立った神官長が宣言した。



「これより、穢れ降ろしの儀を始める」




高位神官二人が進み出て、聖女の手を片方ずつ手に取った。

いや、掴んだ。

異様な空気に聖女が身をよじる。だが両腕をしっかり捕まれその場を動けない。


「な、何を…」


聖女はその先を言えなかった。

神官長が、己の唇で聖女の口を塞いだからだ。


突然のことに、私は声も出なかった。

ぐちゃりぐちゃりと、神官長が聖女の口の中を舐る音が静かな広間に響く。

そして神官長は、広間の中心に置かれている台の上に聖女を押し倒しのしかかった。未だ聖女の口を己の口で塞いだまま、服の上から胸をまさぐりながら。



何だ?

私は今、いったい何を見ている?



敬愛する神官長の突然の凶行に、ただ呆然とする。

神官長の手が、聖女のスカートをたくし上げた。聖女が身をよじり、白い太ももが露わになる。

誰かがゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。

神官長は聖女の胸に吸い付き、割り開かせた脚の付け根に自らの腰を擦り付けている。

ようやく解放された口で、聖女が泣き叫んだ。


「何をなさるのです!?お止めください!どうか!どうか神官長様、御慈悲をっ!」


それを聞いた神官長は、愉しそうにニヤリと嗤った。


「慈悲ならくれてやるさ。これからたっぷりとな」


その面には、常ならぬ醜悪な嗤い。まるで悪魔のようなその表情に、聖女が硬直する。

神官長は怯える聖女を愉しそうに眺めながら、ゆっくりと嬲るように腰の位置を合わせた。そして聖女へと腰を強く打ちつけた。


聖女のひときわ大きな悲鳴が響き渡った。

続けて苦しそうな悲鳴が何度も何度も響く。肉を打ちつける音と、神官長の荒い息遣いも。

周囲の異様な空気に飲まれて、私は動けない。


いったい何が。


何が起こって。


私は今、何を見ている?


彼女を助けなければ。


いや、こんなことが起こるわけがない。


彼女の悲鳴。


誰も動かない。


皆、見ている。


何も言わず。


ギラついた視線で。


穢されていく彼女を、ただ見ている。


私も。


目が離せない。


彼女の悲鳴が聞こえる。


助けを求める悲鳴が。


助けなければ。


けれど動けない。



「私の穢れを、しかと受け止めよ」



そう言って、神官長はひときわ強く腰を打ちつけた。

静まり返った室内。

咽び泣く彼女の声だけが聞こえる。


こんな、こんな酷いことが現実に起こるわけがない。


神官長が彼女から離れた。

聖女の腕を掴んでいた神官のうちの一人が、彼女へ覆い被さった。

神官長と同じ、醜悪な笑みを浮かべて。


こんなものが現実なわけがない。


そうだ、私はきっと夢を見ているのだ。


とてつもない悪夢を。


神官が彼女の腰をつかみ、自らの腰を打ちつけ始めた。

彼女の悲鳴が聞こえる。


こんなのは現実じゃない。


現実じゃない。


こんなことが起こっていいわけがない。


そうだ。私は夢を見ているのだ。


酷い酷い悪夢を。




彼女を押し倒す神官が、また入れ替わった。

そして彼女を穢していく。まるでそれが、当然のことのように……。



……これは現実じゃない。


神官が、こんなことをするわけがない。


大切な聖女に、こんな酷い真似をするわけがない。


これは現実じゃない。


現実じゃ、ない。







……現実じゃないなら……何をしたって、いい……?




これは夢だ。



夢ならば。



夢ならば、彼女に、なにを、したって、いい?



ずっとあこがれていた、きよらかなじょせい。



いまめのまえに、むぼうびな、かのじょがいる。



こんな、きかいは、にどと、こない。




だって、かのじょは、あした、しんで、しまうの、だから。





だ っ た ら そ の ま え に、 せ め て い ち ど ーー







体が動いて、彼女を求めた。

そこから先は、よく覚えていない。

他の神官たちを押し退け、他の男の体液に塗れた彼女の肌を貪った曖昧な記憶だけ。


彼女の熱と、聞こえる悲痛な悲鳴だけが鮮明だった。



ふと我に返ると、すぐそこに未だに暴行を受け続ける彼女がいた。

肌も服も髪も全身をドロドロに汚して。

あれほど憧れた、美しく優しく慈愛に満ち溢れた彼女は最早いなかった。

穢され貶められ、息も絶え絶えに許しを請う、哀れなただの女が一人いるだけだった。



私が密かに焦がれ続けた彼女は、もうどこにもいないのだ。



虚無感で体がふらついた。

これ以上、彼女に似た何かを見ていたくなかった。



「……部屋に、戻ります」



誰にともなくそう呟き、乱れた服を整え広間の外へと足を動かした。

視界の端で「助けて」と彼女の口が動いたように見えた気がしたけれど、きっとただの気のせいだ。

心の一番奥底に、大事にしまい込んでいた気持ちは無くなってしまっていた。

手が届かない程に眩しく輝いていた彼女は、もういないのだ。




消えてしまった。



皆で、消した。





私も…………皆と一緒に、彼女を消した…………。



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