聖女の儀、前日
気づくと、石造りの小さな部屋にいた。
窓は高い位置に明かり取り用の小さなものが、一つだけ。
薄暗い部屋のベッドの上に、私は横たわっていた。
じゃらりと音がした足元を見ると、足首に枷がつけられ鎖で繋がれていた。
……………………鎖?
意識が覚醒し、何が起きたかを思い出す。
一気に血の気が引いた。
捕まってしまった。
神殿の神官に、捕まってしまった。
呆然としていると、ガチャリと音がしてドアノブが回った。驚きに肩が震える。
逃げ出したいけれど、鎖は短くドアのところまでも届かない。
部屋の中に、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべた神官長が入ってきた。
「儀式を控えた身で逃げ出そうだなんて、いけない子ですね」
あまりにもいつも通りの口調だった。
幼い頃、小さな悪戯が見つかった時と同じ口調。
「し、神官長様……」
震える声で呼びかけた。
「あなたがいなければ、穢れが払えない。皆が困ってしまいますよ?」
しょうがない子だと、優しく窘められる。
「し、しかし私は儀式で命を落とすと…」
何かの間違いであって欲しい。
祈るような気持ちは、あっさりと裏切られた。
「ええ、そうですよ」
至極当然といった表情の神官長の頷きで。
「穢れは、消さなければなりませんから」
………穢れ?私が?
思いもよらない言葉。
疑問が伝わったのだろうか、説明が続けられた。
「これから行う儀式で、あなたに穢れを降ろします。そしてあなたは、穢れそのものとして明日の儀式で滅せられるのです」
初めて聞く内容だった。
直前まで知らされずにいた、儀式の詳細。
穢れを降ろす。
私が穢れそのものになる。
不吉な響きに身体が震え出す。
死ぬと言われたことは、当然恐ろしい。
でもそれよりも酷いことが、この身に起ころうとしているのではないだろうか。
ただ殺されるよりも、ずっと酷いことが。