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聖女の儀、前々日
ひどくお腹が空いた。
初めての感覚だった。
いつも手の届くところに、果物や木の実など何かしら食べる物があったから。
私は今まで、神殿で大切にされてきた。
大切な生贄として。
浮かんだその言葉にぞっとする。
でも、それが事実だった。
二十年に一度の儀式で殺すために、大切に育てられた生贄。それが私。
大切に。でも逃げられないように。
健やかに、穏やかに。儀式で命を落とすその時まで、そうと知らせないまま。
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街でも森でも生きられず、かといって神殿にも戻れない。
私は行き先も決められないまま、街にほど近い森の中でうずくまっていた。
どうしよう。
どうしたらいいんだろう。
途方にくれる。
親しいと言えるのは、神殿の人たちだけ。
街や村にも知り合いは大勢いるけれど、それは「聖女」と「民」として。
何かを個人的な頼めるような関係ではない。
私には、こんな時に頼れる人はいないのだ。
その事に気づかされた。