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side sato
僕の好きな人は 黒髪ストレートで 笑顔の素敵な優しいひと。
そう言ったのに 先輩社員の鈴木さんは まったく僕を意識してくれない。
佐藤くんに好かれるなんて羨ましい人ねなんて、口先だけで言って すぐ発注業務に戻ってしまった。
仕事中は 包みこむように誰にでも優しいけれど、それは僕らにさほど関心がないせいだと思っている。
ラインもツイッターもSNSは興味がないのと言って。仕事に使う連絡先しか教えてくれない。
休みの日に何をしているか知りたくても まったくわからない。
鈴木の馬鹿が誘っても若者たちでどーぞーなんて ほとんど参加しない。
僕も興味があると水をむけても 絶対一緒に行く流れになんてならない。
こっそりあとをつけたら ひとりでめちゃくちゃ楽しそうにしてた。
彼女の世界に僕は入っていない。
僕は必要ない。
事務所の机の上に 彼女の鍵が無防備に置かれていた。ストラップだけ抜きとる。
そっと胸のポケットに落とす。
心臓を握るだけで劣情にとらわれる。
我ながら情けない。けれど すがるものがないとこの焦燥は抑えられない。