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若葉ちゃんが 前のお店の子たちを集めて 遅くなったけどといいながら 私の送別会をひらいてくれた。
「佐藤がシフトの日にしてやった。ざまみろ。
最近 あいつとよく会ってませんか。気持ち悪いくらい機嫌がいいんだけど。」
「帰ろうかなと思うと、外で待ってることが多いかな?」
「…スマホの中に変なアプリ あいつに入れられてませんか?」
「まさかあ。」
「鈴木さん お人よしだから。心配ですよう。」
「若葉ちゃん 酔ってる?」
「酔ってませんて。やっぱり鈴木さんがいいよう。いつも余裕もって店回してくれるし。
忙しくてもキレたりしないし。一緒に 働いてて 楽しいし。あいつと大違い。」
「そんなこと言っても 新人くんたちの事 必ず助けてあげるじゃない。
私、若葉ちゃんのこと一番信頼してるから。」
「もー。やだ。泣かせるの上手いんだから。
……よーし。今から佐藤んとこ襲撃してやる。いくよう。みんな」
学生さんやフリーターさんたちと夜の街をそぞろ歩く。
「でも オレ佐藤さんが報われてホント良かったと思って。」
「あ オレも。しょっちゅう話かけてたのに鈴木さんは仕事優先で聞いてないし。バイトの悩みは2時間位聞いてあげんのに。」
「鈴木さんのボールペンそっと撫でてんの見た時涙出そうだった…イテ 蹴るなよ若葉。」
「顔がよくてもいただけなーい。しつこそうじゃん。」
「浮気の心配ないからいいんじゃない。こっちがやったら監禁決定だろうけど。」
「アタシ鈴木さんの横顔隠し撮りしてんの見た事あるー。ふが…やめてよ若葉。」
酔っ払いの集団が、あちこち フラフラさまよい歩くと結構時間が掛かってしまうもので。
カフェに着いた時には閉店間際になってしまった。
「佐藤ー。でてこーい。鈴木さん連れてきてやったぞー。お前がオーダー取れー。」
カフェの奥から 白シャツに黒いギャルソンエプロンの佐藤くんが現れた。
営業用ではないにっこりとした笑みで。
「ーご指名ありがとうございます。」
「ここ そういう店じゃないでしょう!すごく似合ってるけど!」
もう店に入るつもりはなかったらしく、着崩した姿にゾクッとする。
「ごめんね。閉店時間にみんなで押し掛けて。」
「もう他に客いないし、あいつらの相手はしないんで大丈夫ですよ。」
コーヒーをサーブした佐藤くんは 身を屈めて ささやいた。
「本当は迎えに行こうとおもってたんです。すぐおわらせるんで待っててもらえますか。
ーー僕の指名料高いですよ。今日は家まで送っていきますね。」