4
長い睫毛 スラリと伸びた手足。
真新しい白いシャツがよく似合って 初めて見た時 なんて綺麗な男の子なんだろうと思った。
客席で 店長と面談している彼と目が合って、思わず 観葉植物の陰から力一杯手を振ってしまった。
……私のマイナーな趣味に それは嬉しそうについてくる佐藤くん。
「退屈していない?」
「いいえ。ちっとも。」
「ならいいけど。」
よく笑い よく喋って、初めて会ったときの冷たそうな横顔が信じられないくらい。
「 あの時は、初めてひとり店舗に配属になってすごく緊張してたんです。
その時鈴木さんが笑顔で手を振ってくれて。
なんて優しそうな人だろう。こんな人と一緒に働けてラッキーっておもいました。
実際 とても優しくて。 もうひとりの鈴木はむかつく馬鹿だったけど。」
「若葉ちゃんは新人社員に厳しいから。佐藤くんのせいじゃないわ。」
「僕も名前で呼んでいいですか。」
「もちろん。最初から言ってるじゃない。」
「奏さんのほうですよ。」
「…はい。」
「僕も名前で呼んでもらえませんか。」
「えっと ショウくん…?」
「翔です。」
「だって前に 同期の子たちが遊びに来た時 ショウって。」
「愛称です。全く 履歴書くらい読んでください。僕なんか奏さんの100回くらい見ましたよ。」
「ははは。」
「冗談いってないですよ。ひどいな 、1年も一緒に働いたのに 名前も 覚えていてくれないなんて。」
「それは、ごめんなさい。 」
「 お詫びして欲しいな。髪の毛ほどいていいですか。おろしたところ見てみたい。」
「 え ここで…?」
「人目がないと、もっと悪いことしますよ?」
いたずらっぽく虹彩をきらめかせて、佐藤くんは私の後頭部に手を伸ばした。
「営業中のまとめた髪も 首筋がよく見えていいけど。ずっとこうしてみたいって思ってました。」
肩よりも少し長い髪を口元に持っていく。
「待って。 近すぎない?」
そのまま 上手に片目をつぶってみせた。
「意識してもらおうと頑張っているんです。大目に見てください。」




