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あれから1週間 。
新店舗準備に追われて、休みらしい休みも取れないまま 佐藤くんに連絡できないでいる。
怒ってるかしら。どうしようかな。なんかあの時のこと夢だったような気がしてきたわ。
このまま 流してしまおうかしら。
「 …さん!鈴木さん!奏さん!」
「若葉ちゃん…」
前の店舗の バイトリーダーの女子大生。スリムなパンツの似合う美人さん。
「お久しぶりです。もお 聞いてくださいよ。鈴木さん異動してから大変で。
新人は鈴木さんいないならやめるとかいうし。
佐藤はまいにち能面みたいな無表情で仕事しやがって。お綺麗な顔 客商売に使わなくてどうするっての。
あれどうしました。顔青いですよ。」
「え ううん」
「 もしかして佐藤のやつとなんかありましたか。」
「……」
「あいつの気持ちに気づいてなかったの 多分 鈴木さんだけだったとおもいますよ。
ちょっと時間ありませんか?そこでお茶でも飲みましょうよ。」
「みんな知ってたの?どうして。」
「鈴木さんいる日といない日で、全然態度違いますもん。誰でも気づきますって。
鈴木が2人いるからあたしのこと若葉って呼ぶように鈴木さんに 言われたのに 頑なに呼ぼうとしないし。
隙あらば 鈴木さんとふたりきりになろうとするし。バイト全員で じゃましてやりましたけどね。」
「ーーどうりでいつも目障りな所にいると思ったよ。」
振り返ると 白いシャツにジャケットを羽織った 佐藤くん。不機嫌そうな顔。
「! 」
「やっほ さっきぶり。そこの窓から見えたから 来ると思ったよ。」
「どいて鈴木…。なんで鈴木さん帰ろうとしてるんですか。こっちの馬鹿に言ったんです。
僕が鈴木さんに そんなこと言うはずないでしょう。」
「相変わらずキモ…」
「黙れ」
「………」
「こっちがこいつの本性ですからね。気をつけてくださいよ。奏さん!」
「マジ むかつくこの女」
「こっわーい!でも あんたのお綺麗な顔が歪んだところひさびさに見たから 今日のとこは帰ってあげる。
またね 鈴木さん。飲み会誘いますからきてくださいね!」
「ありがとう…。みんなによろしく…。」
「………」
「………」
「………」
佐藤くんは無言で私の対面にドサリと座る。
「ごめんね。新店舗開店準備忙しくて休みの予定がたたなくて。」
申し訳なくて謝ると、彼は少し頬を緩ませた。
「こうして会えたから、いいですよ。でもすごく不安でした。」
「そうね。ごめんなさい。」
「ねえ、鈴木さん。」
「うん?」
呼びかける声が優しかったので、つい油断してしまった。
「このまま会えなかったら、無かった事にしようとしてたでしょう。」
とっさに顔を作れなかった。
「…やっぱり。大人しく待ってるんじゃなかった。」
佐藤くんの肩が揺れる。いつもより低い小さな声で。
「…僕のこと嫌いですか。」
「そんなことないわ。どちらかといえば、好きななほう。」
「じゃあ連絡くれなかったお詫びして下さい。夕飯 まだですか。つきあって下さい。」
「…ご馳走します。」
「いえ、それはいいんで。…店まで手をつないで歩いてくれませんか。」