12.ディグダグの対策会議
動画の実践編を視聴中のルナ達のコメント・やり取りも書いては見たけど、ちょっと冗長なので丸々カットに。
『とまあ、こんなもんだな。スキル強化したり、ステータスの高い種族だったりすればもっと楽にいけるだろ。暇な奴はやってみると良い』
画面の中では、ボスを撃破したエンプティが締めの言葉を述べた。
最初に口を開いたのは、画面を閉じた播磨だった。
「やっぱすげえよ。究極、分析は誰だってできる。そういう投稿者も何人かいる。でも、そこから立ち回りを考える能力はエンプティが断トツだ。あそこまで縛れる奴はいない」
「播磨はエンプティ好き過ぎじゃんね。実際、縛っても旨味ないんだから、普通に強化して挑めば良いじゃんよ」
「ああ、それなら次にも活きるしな! 細けえ数字を追っかけてもその場限りだ」
「お前らはいっつもそう言う!」
播磨達の言い合いは次第にエスカレートしていく。
「…止めなくても良いのか?」
「いつものことよ。気にしなくて良いわ」
「いつものこと…か。彼等の口論は存外根深い問題だったりするんだケドネ」
「…やめておけ…天ヶ崎。…あいつらは…分かり合えない…運命だ」
「止める気など無いサ。…世代間論争なんてボクは興味ない。ただボクのライバルへの認識は正さないとネ」
そう残して、天ヶ崎は言い争う三人の方へと向いた。
「VRプレイヤーはすぐデータを軽視する! そもそもゲーマーってのはエンプティみたいな奴のことを言ったんだ!」
「ゲーマーの称号なんてどうでも良いんじゃんよ! つえー奴がつえーんじゃん!」
「実際エンプティは強いだろ!」
「あいつも超強ぇスキルと装備使うだろ! いつも縛りでやってる訳じゃねえ!」
「あいつが使う武器何種類あると思ってる! 見るたび違うだろ、敵によって細かく変えてんだぞ! それができる頭があってこそだ! お前なんかタンク用とアタッカー用の二つだけだろ! もっと増やせ!」
「君達、皆間違ってるヨ。それと播磨は荒れ過ぎだ。その辺にしておきナ」
注目を集めた天ヶ崎は、コホンとわざとらしく咳払いをしてから続ける。
「エンプティの強さはデータへの強さでもスキルや装備の強さでもない。データ通りに動き、あらゆるスキルや装備を操る、あのプレイヤースキルの高さサ!」
………少しの間が空いて。
「あ? ああ」
「おう、そうだな!」
「うん、まあ、そうじゃんね」
「…自信満々に出ていった割には当たり前のことを言い出したわね」
「…そして…よくある…世代間論争の…結論…でもある」
「その話、詳しく聞かせてくれないか!?」
「「「「えっ?」」」」
天ヶ崎に対して概ね、何分かりきったこと言ってんだこいつ、という反応の『ディグダグ』の面々に対し、ルナは天啓を得たと言わんばかりの顔をしていた。
「良いとも! そもそも…」
「長くなりそうだから私が答えるわね。データもスキルも装備も、それを十全に使える能力が無いと無駄って話よ。一見当たり前のことなのだけれど、それができているプレイヤーは実は少ない。後になって「あのスキルや装備を使えば良かった」なんてざらだし、計算式も理解していない上級もいるしね」
古夜里の言葉に、サクラメンはなんとか皮肉と気付いて目を逸らすことができたが、ガルは、おう!と元気よく相槌を打った。
「…エンプティは…常に…持つ力の…最大限を…発揮する。…それが…彼の…最大の強さだ」
「持つ力の最大限を発揮する力…か」
周りにいる人間達は当然の顔をしているが、AIであるルナにとっては考えたこともない話だった。
AIにとっては、できることも、できないことも、所詮はそういうプログラムに過ぎない。いくら努力を積んだところでできないものはできないのだ。ルナも訓練するにあたって実際にそんな風に考えながらやっていた訳ではない。しかし、そんな諦めをどこか無意識に持ってはいなかったか。
スペックだけなら、ルナは間違いなくエンプティとウーナに匹敵している。二人分の力を与えられて産み出され、しかし諸々の事情からその全てを同時に発揮することができなくなる枷が与えられた。月の巡りに合わせて発揮できる力が変わる、月相と名付けられた枷。合わせて一人分の力を発揮できなくなる枷。
ルナの無意識の諦めはこの枷に起因するものだった。ただのプログラムなら目に見えないものだが、月相ははっきりとした形を持ってルナの力を制限する。形がある分、無気力感は強くなる。
だが違うのだ。月相による制限は、その範囲が明言されている。一人分は封じると。しかし。つまり。
「月相は………一人分しか封じない。でも、もう一人分は絶対に発揮できる………! それが私の最大限………! 私のプログラム………!」
「ルナもなんか閃いたみたいだし、そろそろ攻略再開といこうぜ!」
「じゃんね。お勉強はもう十分じゃん」
「待てよ。攻略に詰まって休憩したのに無策で挑んでも同じだろ。少しはなんか考えようぜ」
「お勉強はもう十分じゃん! じゃん!」
性懲りもなくまた言い争いの雰囲気が漂う。残りの数人で目配せをした後、止める役を引き受けて動いたのはドライジンだった。
「…それなんだが、…いっそエンプティを…呼ばないか?」
「エンプティをか? 散々断られただろ?」
「そうか、『最初の町』攻略のために断ってたんなら、もう暇なはずか」
「なるほどな! コールしてくるぜ!」
早速エンプティにコールすべくガルは少し離れて行った。
「正直、あまり期待できないのだけれど」
「何でじゃん?」
「撮影してから動画投稿するまでラグがあるでしょう? ということはもうずっと前に撮影は終わっているはず。空の人は移動も速いそうだし、もうどこかに行っているんじゃないかしら」
「…そんなもの…なのか。…是非…来て欲しかったが」
「俺もエンプティは多分来ないと思う。だが、他の戦力を呼ぶってのは有りじゃないか? どうせこの先さらに敵が強くなるのは目に見えている訳だし」
「そうか、エンプティ様はいらっしゃらないのか…」
「そういえばルナちゃんも期限付きだったじゃんね」
「ボクは最後まで付き合うヨ。ここ、面白そうだしネ」
「おう、エンプティ来ねえってよ! もう海底にいるんだと」
「…そうか。…それは…残念だ」
「それとルナ、伝言だ。『ルナはやればできる子だから頑張れ』だとよ! 時々あいつすげぇタイミング良いよな!」
「………はい!」
戻って来たガルも交え、誰を呼ぶのか話し合う。ルナの月相があるために、これまたドタバタしたやり取りがあった末、ヒーラーとタンクを一人ずつ新たに招くことに決め、一行はダンジョンへと潜っていくのだった。