11.ディグダグのメンバー達+α
人が増えます。口調が大変なことに。
書き分けやすいけど、書きにくいんじゃ。
フーダス街道、王都ウェニシアから三分の一程進んだ辺り。首尾よくお目当ての高難度ダンジョンを発見し調査権を得たガル達だったが、その攻略は順調とは言えなかった。浅い層で苦戦して、もう数日は進展がない。
「すまない。私が連携を乱すばかりに…」
「最初に比べたらずっと良くなってるじゃん。むしろ私達がルナちゃんに合わせられてないんじゃんね」
頭を垂れるルナに返したのはガルのパーティで前衛の物理アタッカーをしているサクラメンだった。
鮮やかなピンクのグラデーションのショートヘアの土人の女性だ。
名前はサクラとシクラメンが語源であり、「桜男達」の意ではない。本人いわく、むしろ乙女だそうだ。花の名からプレイヤー名を付けるくらい乙女なのだそうだ。ゴリゴリの殴り屋だが。
「…そもそも…敵が強い。…ガルが死ぬのを…久々に見た」
「ああ! 久しぶりの神殿だったぜ」
「何誇らしそうにしてんだガル。あの後ドライが耐えてくれなきゃ俺達全滅だったんだぞ」
「そう言うなよ播磨! 俺にもうっかりはある!」
「…それに、…あれは…俺の仕事だった」
「…あんまり甘くするなよドライ。何時まで経ってもガルのうっかりが治らねえ」
続けてぼそぼそとフォローしたのはドライことドライジンだ。
灰色の鱗が四肢を覆う竜人で、ガルのパーティでタンクをしている。対魔法性能が特に高く、パーティにはガルもいるので普段は魔法タンクがメインだが、対物理性能も中級並みはある。
話し方故に勘違いされがちだが人付き合いは苦手ではない。酒が入ると饒舌になるらしい。
「火力も耐久力も、対処できない相手じゃないんだけどネ。行動が読めない。エンプティがいればずっと楽なんだろうケド」
「珍しいじゃん、天天、エンプティアンチだったじゃん」
「誰が天天だ。アンチじゃないサ、ライバルだヨ。彼の実力は認めている」
「ライバルって思ってるの天天だけじゃんよ」
天天こと天ヶ崎天魔は純人の魔法アタッカーだ。
プレイヤースキルが高く、魔法主体のヒューマンには珍しく飛行スキルを活かした接近戦を得意とする。
普段はソロや臨時パーティで活動しているトッププレイヤーの一人だ。実力は折紙付きだが、キザったらしい口調と時々頓死する様からネタ的な扱いをされやすい。実はエンプティもあいつすげーなと思っているが、本人には特に伝えていない。
今回は前衛が多いので後衛として立ち回っており、それでも十二分の仕事をしている。誰も言ってあげないが天天はすげーのだ。
「月の人。実際、空の人からそういうのは教わってないのかしら?」
「…空の人?」
「エンプティのことじゃんね」
「ああ。…すまない。私は感覚で対応している」
「…そう。それでもあの反応なのだから大したものなのだけれど」
無表情でルナに尋ねたのは、ガルのパーティのヒーラーである古夜里だ。
純人の女性で、至極色という黒と見紛うほど濃い赤紫の長髪を真っ直ぐ下ろしており、和風の装いを好み常に無表情なこともあって日本人形を想起させる。
他人の呼び方が独特なので初対面の相手は大概困惑する。ちなみにパーティのメンバーはそれぞれ「虎の人」「細かい人」「花の人」「お酒の人」だ。播磨は泣いて良い。
ウーナのファンで、ウーナだけは「ウーナさん」と呼ぶ。故にルナとは気が合い、あんな感じだが態度は柔らかい方だ。
ちなみに播磨姫路は枯草色の髪の妖人である。
種族故に子供のような見た目をしており、いろんな意味で小さい男と専らの評判だ。本人言うと勿論キレる。貴重なガルのストッパー役なのでメンバーをはじめ周囲の人は有難がっているが。
以上、ガルギルグル、播磨姫路、サクラメン、ドライジン、古夜里の五人がダンジョン開拓パーティ『ディグダグ』の全メンバーである。名付けたのは播磨姫路だ。
それぞれが上級プレイヤーであり、役割のバランスも良いのでパーティとしてもかなりの強さを誇る。ちなみに「パーティとして上手くいく秘訣は、そんなに仲良く無いこと」だそうだ。
『ディグダグ』の五人にルナと天ヶ崎天魔を加えた七人が今回の攻略のメンバーだ。
「そういや、そのエンプティが久しぶりに動画上げてたぞ。皆見たか?」
「あいつのは見ねえ。さっぱり分かんねえ!」
「私も解説がムズくて苦手じゃんね」
「…そうなのか。…まだ…見てない」
「見たわ。相変わらず頭がおかしかったわね」
「勿論見たサ。素晴らしいプレイだった。さすがは僕のライバル!」
「…私はNPCだからな…」
播磨姫路の問いに、反応はそれぞれだった。
「月の人、動画も見れないのかしら?」
「ああ。こちらにいる間は外部サイトへの接続が禁止されている。エンプティ様の動画についてはウーナ様から話だけ聞いて知っていたのだが」
「それはもったいないじゃんね。同じスタイルだから学べることも多いじゃんに」
「それなら見てみるか? ガルもサクラもドライも見てねえんだろ。どうせ攻略も詰まってるし観賞会といこうぜ」
プレイヤーはゲーム内でも外部サイトに接続することができる。手早く準備を始めた播磨姫路に対して、ガルが少し嫌そうな顔をしたくらいで、止めるものはいなかった。
○
中空に五十インチ程の大きめの画面が現れる。そこに表示されたタイトルは「『最初の町』をオフラインの戦力で完全攻略」。実に捻りのないタイトルだった。
「…今回は…誰得攻略か」
「『最初の町』って絶対、中級ダンジョンあるじゃん。あれも行くんじゃん? すげーな」
『よ。久しぶり、エンプティだ。タイトル通り、今回は俺の『最初の町』スタルテを攻略する。目次はこの辺あるから好きに飛ばしてくれ。まずはルール確認だ………』
画面中央にエンプティが現れる。エンプティが指した画面右側には「ルール確認」「雑魚ダンジョン攻略」「中級ダンジョン解説・進行編」「中級ダンジョン解説・ボス編」「中級ダンジョン実践・進行編」「中級ダンジョン実践・ボス編」「まとめ」の項目とそれらが始まる動画の時間が表示されている。動画内の目次の項目をクリックすればその時間に飛んでくれる親切設計だ。
ルール確認では装備やスキルの縛りの内容が一通り説明された
『それと、今回も使ってる動画用三種の神器な。『撮影君』、『縛リボン』、『SSチェッカー』だ。………』
『縛リボン』は装備者のステータスを好きな値に下げられるアイテムでエンプティが愛用するのはチョーカー型だ。『SSチェッカー』は装備者の現ステータスと発動した・しているスキルを常時表示するアイテムである。細かい検証・解説を行う動画投稿者はこれらを動画用三種の神器と呼ぶ。…つまり。
「あれ三種の神器って呼ぶのエンプティくらいじゃんね」
「有名どころはな。他にも何人かいるぞ、知名度は低いが。俺も一応持ってる」
「おい播磨、俺はあんなもん着けねえぞ!」
「安心しろ、パーティでやる気はねえよ。そのうちソロでやる用だ」
『ルールはこんなもんか。じゃあまずは雑魚ダンジョンだ。解説は無い。ダイジェストでどうぞ』
言葉通りにダイジェストだった。無駄に格好付けて敵の攻撃を回避したり、止めを刺す場面が流れる。ちょっとしたPV並みの完成度だ。
「空の人も細かいわよね。ダイジェストにするくらいなら省けば良いのに」
「エンプティ様は妙な所に拘るからな」
『じゃあメインの中級ダンジョンの解説といこうか。一応実践編でも画面端に簡単な解説入れるけどな。まず、雑魚敵からだ。………」
雑魚敵の動画を交えてステータスや行動パターンが解説される。必要なステータスからオススメの立ち回りまで。
「もう私は眠いんじゃん」
「…サクラ、…立ち回り…だけでも…見ておけ。…エンプティの…考え方は…参考になる」
「そもそも敵のステータスはどのようにして知るのだ? データを見るのか?」
「データ解析は一発でBANだからできないわ。自分のステータスを変えて、何度も攻撃をしたり、攻撃を受けたりして、ダメージの増減から逆算するのよ。…一応聞くけど月の人はデータを見たりできないわよね?」
「ああ。権限が無いからな。以前は、私のダンジョンの魔物に関しては権限があったのだが。…しかし、それだと凄まじく手間がかかるだろう」
「それを平気でやるからエンプティは強いのサ」
『次にボスだ。残りHPで行動パターンが変化する。長い話になるから実践編見た後でまた見直すのを薦める。………」
雑魚敵の比ではない数の計算式が飛び出してくる。
「みんな…私はもうダメじゃん。…後は任せたじゃんよ…ばたり」
「俺もここまでみたいだ…後は頼んだぜ…! ばたり」
「おう、良いとこだから静かに待ってろ」
播磨姫路は負傷した仲間を置いていくことに躊躇がなかった。
「…基本の…計算式…ばかりだな。…今回のは…易しい方だな。…中級か…上級なら…誰でも…理解できる」
「ぐはっ」
「ぐあぁ」
ドライジンは仲間の死体を蹴ることに躊躇がなかった。
「お酒の人って細かい人よりも酷い時があるのよね。あれで特に自覚はないのよ」
「僕としては、あれで普通以上に戦える二人の方が恐ろしいのだケド」
「播磨姫路がよくコントロールしているからだろう。いつかのエンプティ様を思い出す指示出しだった」
「それはかなり嬉しいんだが!」
細かい男、播磨姫路にとって、細かいが故に圧倒的な強さを誇るエンプティは一つの目標であった。
そしてルナの言葉に大きく反応したのがもう一人いた。
「空の人が指示出しって、まさかウーナさんに指示を出していたのかしら?」
「いや、私にだ。…戦闘中ウーナ様に雑談以外に何かを言っているのは見たことがないな。逆もだ。御二人は言葉も、視線すらも交わさず、完璧な連携を取っていた」
「…そう」
『いやぁ、お疲れ。次はいよいよ実践編だ』
人物まとめをば。種族、役割、髪色/イメージカラー、特徴、の順です。
ガルギルグル……獣人、物理タンク/アタッカー、虎柄、元気!
播磨姫路……妖人、魔法アタッカー、枯草色、細かい
サクラメン……土人、物理アタッカー、ピンク、じゃん
ドライジン……竜人、魔法/物理タンク、灰色、…ぼそぼそと…喋る
古夜里……純人、ヒーラー、至極色、~の人
天ヶ崎天魔……純人、魔法アタッカー、金色、某花輪君みたいな喋り方なのサ