チキンのトマト煮は仲間の証 1
翌日、空がまだ薄暗くて肌寒く感じる時間に私は目覚めた。
見覚えのない天井が目覚めた瞬間視界に入り、私はどこにいるんだろうと混乱してしまったが、昨日の出来事を思い出してここが彼らの乗ってきた幌馬車の中なのだろうと気付いた。
(久しぶりにちゃんと休めたような気がする)
昨日ウィルが作ってくれたスープを食べた後、少しして再び眠気が襲いそのまま眠ってしまったようだ。
三日間一人で広大な森の中を空腹で彷徨っていたため、体力は相当落ちていたんだろう。
眠ってしまった私を外ではなくわざわざ馬車の中に運んでくれて、更に毛布までかけてくれたようだ。
そんな彼らの優しい心遣いが胸に染みて、思わず嬉しさから頬がにやけてきてしまう。
「おはようございます、マイアさん。よく眠れましたか?」
幌馬車から降りると私に気付いたエルネストが声をかけてくれた。
「おはようございます。あの、毛布ありがとうございました」
「いえいえ、せっかく頑張って生き延びたのに寒さで風邪でもひいたら大変ですからね」
当たり前のことをしただけですよ、とエルネストは持っていたコップを私にそのまま渡してくれた。
中に入っているのは珈琲だろうか。香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。
湯気が立つほど熱い液体を何度も息を吹きかけながら口に含むと冷え切っていた身体が仄かに温まっていく。
「飲んで温まってからでいいので、すぐ近くに小川があるから顔を洗って身支度してらっしゃい。今ウィルが朝ごはんを作ってくれてますから、食べてから出発しましょう」
どうやらウィルは朝食を作っているらしい。
身体は正直で昨日あんなに散々鳴っていた空腹を訴える腹の音は、今日も軽快に鳴リ響く。
あまりにも食欲に素直すぎる自分の身体に文句を言いたくなる。
(どうか二人に聞こえてませんように!)
と、願ってみたもののエルネストの苦笑する姿を見た限り見事に聞こえてしまったようだ。
先程、朝の挨拶をしたけど返事が返ってこなかったウィルは焚き火の前に居た。
調理中で聞こえなかったかなと思い、もう一度彼に朝の挨拶をしてみる。
「お、おはようございます」
「ああ」
今度は素っ気ない返事ながらも返ってきた。
もしかしてお店で働くことを怒っているのでは、と不安になっているとエルネストがこそっと耳打ちしてくる。
「大丈夫ですよ、いつもあんな感じですから。ちゃんとマイアさんの事受け入れてますし朝食も用意されてますから安心してください」
心が読まれてたと思うほど的確な回答に思わず顔が熱くなる。
(わ、私そんなに分かりやすいのかな!)
確かめるように朝食作りに没頭しているウィルを横目で見てみると、確かにそこには三枚の皿が用意されていた。
怒ってたわけではなかったと安心した私は慌てて身支度を整えるために教えて貰った近くの小川へと向かうのだった。
半熟のベーコンエッグにカリカリに焼かれたトースト。
用意された朝食は簡単に作れて、シンプルな献立だった。
しかし、私にとっては輝くごちそうに見えてしまう。
プルンプルンと震える黄身が割れないようにそっとトーストの上へ乗せてから大きな口で頬張る。
程よい加減の半熟さは私好みで、濃厚な卵の味が口いっぱいに広がっていく。
少しだけカリカリになっている程度に焼かれたベーコンが味のアクセントとなっていて半熟の卵によく合う。
トーストも一口食べるごとにサクッとした食感と小麦とバターの風味が広がって、ベーコンエッグと一緒に食べても味が負けていない。
こんなにもシンプルなのに、シンプルだからこそ味が冴え渡っていて私の胃袋を満たしていく。
「美味しい……っ。朝食はこれでいいんだよ、シンプルなのがいいんだよぉ……」
自然と口から溜息混じりに何度も美味しい、美味しいと呟きながら食べ続ける私を見て「たかがベーコンエッグとトーストで感動するとか、おかしいだろ」と、作った本人であるウィルは呆れた顔を見せていた。
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1章とは違い2章は終わりまで毎日少しずつの更新となります。
どうぞマイアたちの物語を楽しんでください。