出逢いの野菜スープ 6
「んー、ウィルの料理はいつも美味しいですね。野営もこれがあるから我慢できるんですよね」
「褒めてもこれ以上は何も出ないからな」
今日作ったスープは簡単な野菜のスープだった。
野営で帰宅途中だからそこまで材料に余裕があるわけじゃない。
すぐに出来て栄養も取れて、寒い時でもこれがあると温まれるので野営の時によく作る料理だ。
普段作っている料理に比べたら簡単手軽なものだろう。
「ケチですねー。帰ってから食べさせて貰うことにしますよ。マイアさん、どうですか? お口に……あい…………」
美味しそうに食べていたエルネストの声が止まる。
何かあったのかと振り向いて、俺自身もその光景を見て息を飲んだ。
――女は、泣いていた。
スープを一口飲んだと思ったら、その大きな瞳からポロポロと、大粒の涙を零していた。
きっと簡単に作った料理だから味が合わなかったのかもしれない。
嫌なら食うな、と言ってやろうかと思っていると女はまた一掬いし、口に含んだ。
泣きながら我も忘れたように何度もスープを口に入れていく。
「おいし、い……っ…………すごく……おいしいよ……ぉ……」
こんなにも、自分の作った料理を美味しそうに食べる人を見たのは初めてかもしれない。
手抜きだし、材料もシンプルなものだ。
それでも目の前の女は、俺の作ったスープを涙を流して、嬉しそうに食べていた。
気付けば器の中は空っぽになっていた。
あれだけ腹の音を鳴らしていたんだ、余程お腹を空かせていたらしい。
空になった器を寂しげに見つめていて、思わず俺は手を出していた。
「…………え?」
「お代わり、欲しいんだろ」
「いい、の?」
恐る恐る空の器を差し出してくる。
俺は受け取ると先程より少し多めに具もスープも入れて返した。
マイアは並々に入った野菜スープを目にすると、満面の笑顔を浮かべた。
余程嬉しかったのだろう。
マイアはそのスープをとても美味しそうに食べていた。
そんな光景を眺めていると突然横からエルネストが空の器を出してきた。
何か言いたげなニヤついた笑顔に思わず「なんだよ」と口にしていた。
「いいえ。ただ……良かったですね。ウィルの作ったスープをあんなにも美味しそうに食べてもらえて」
「っ!」
きっと俺が喜んでると思ったのだろう。
エルネストの器に少しだけスープを入れて返す。
「あー! もう少しくれないんですか!」
「うるさい! 俺の分もあるんだからそれで我慢しろ!」
情けない声で抗議するエルネストは無視して俺は自分の作ったスープを口にする。
俺にしてはいつもの普通のスープ。
でも、マイアという女にとってはとても美味しいスープだったのだろう。
「(美味いなら、良かった)」
きっと今、顔が熱いのはこの熱々のスープを食べたからに違いない。
美味しそうに食べ続ける女を見ながら俺もこのスープを味わった。