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出逢いの野菜スープ 5


 暖かい。


 薄らと意識が戻りかけた私が最初に思った事だ。

 その暖かさに惹かれるように私はゆっくりと目を開く。



 見えたのは焚き火だった。



 赤い炎が燃えて、時々バチッと爆ぜる音が聞こえる。


 その横には二人の男性がいた。

 一人は金髪の人、もう一人は長い黒髪の眼鏡をかけている人。



「(私、一体……)」



 状況が分からず混乱していると眼鏡の男性が私に気付いたのか笑顔で声を掛けてきた。


「あ、目覚ましましたね。おはようございます。体調はどうですか?」

「え、あっ……おはよう、ござい、…………ます」



 喉が乾ききっていた為か上手く言葉が出ない。気付いてくれたのかその人は水筒を手渡してきた。

 持つと中には水が並々と入っている。


 私は重い身体を起こし起き上がると、水筒の蓋を開け喉を潤すように水を飲む。


 水分が身体に満たされていく感覚に思わず息が荒くなる。

 十分に水分を摂り、一息ついて改めて私は感謝を述べた。


「あの、お水ありがとうございます。えっと……私」

「全く驚きましたよ。こんな森の中に可愛いお嬢さん一人でしたから」

「わ、私マイアって言います。エアリーズ王国に向かう為に三日前に森に入って……その、迷子になりまして…………」


 自己紹介を口にすると自分がどれだけ危険な状態か改めて実感した。


 きっと彼らに助けてもらわなければ私は死んでいたかもしれない。


「この森は相当大きいですからよく遭難者を出してるんですよ。マイアさんが無事でよかった。私はエルネスト、そしてこちらの彼はウィリアムと言います。ちょうど貴方の行こうとしていたエアリーズ王国に帰る途中でして」

「おい、余計な事言うな」



 笑顔で語るエルネストさんにずっと黙っていたウィリアムさんは不機嫌そうに呟く。


 確かに私は二人からしたら不審人物だもの、警戒されて当たり前だ。

 よく見たら私の腕や足に包帯が巻いてある。きっと彼らが手当してくれたのだろう。


「て、手当までして頂いたみたいでありがとうございます! ご、ごめんなさい……きっと不審者だと思いましたよね…………。その、お二人の迷惑にならないように直ぐに去りますので……」

「ま、待ちなさい! まだ夜も暗いですし、明るくなってからでも」

「で、でも……」


 慌てて立ち上がろうと足に力を入れた時、私のお腹からここ数日ずっと鳴り続けていたお腹の音が空気を読まずに鳴り出した。



「っ!」



 男性の前で大きなお腹の音を鳴らしてしまい、慌ててお腹がこれ以上鳴らないように抑え込む。


 あまりにも恥ずかしくてこのまま穴に篭もりたい気持ちでいっぱいだ。



「恥ずかしがらなくて大丈夫ですよ。さ、さっきから…………鳴ってたので」

「す、すみません……っ!」


 エルネストさんの言葉は更に私の恥を増すだけだった。

 お腹が鳴る理由は実はさっきから視線に入っていた。



 焚き火の上で温められている鍋。



 ウィリアムさんがずっと視線を逸らすことなく、木杓子で掻き混ぜているものだ。


 優しい香りが鼻腔を擽り、思わず喉を鳴らしてしまう。

 きっと私の視線は獲物を狙う獣のような視線になっていたに違いない。



「ウィル、いいじゃないですか。お腹を空かせてる女の子を放っておくんですか?」

「わ、私の事はお構いなく!」



 腹の音を鳴らし、更に食べ物を欲しそうにするなんて図々しいにも程がある!


 あまりにも自分が情けなくて申し訳なさで一杯になっているとウィリアムさんが木の器に中身を入れて私へ渡してきた。



「どうせ俺達もこれから飯だ。飢えた人間に見られながら食うなんて御免だ」

「……ありがとうございます」



 器の中身はスープだった。

 細かく刻まれた野菜が沢山具として入っている。


 スープは透明感があり、湯気が立つほど熱々な状態で渡してくれた。



「温かい」



 思わず器を手にして口にしていた。


 私が前世の記憶を取り戻してから……いや、きっとこの世界に生まれてからこんなにも温かな料理と出会ったことはないだろう。


 作ってくれたウィリアムさんと分けてくれたエルネストさん、そして食材の命に感謝を述べる。




「いただきます」




 ゆっくりと木のスプーンを使い、スープを掬う。

 火傷しないように数度、吐息を吹きかけると口に含んだ。




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