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出逢いの野菜スープ 4

 

 そして、今に至る。


 体力も限界でずっと乙女らしからぬ腹の音が森の中に響くように鳴り続けている。

 こうして人生を振り返っても楽しい事が何も無くて、自分の事なのに情けなくなってきた。



「……苦しい、なりに…………頑張って、きたんだけど……な」



 今、坂を転がり落ちて倒れてる状況がまるで私の人生のようだ、と思った。

 泥だらけで、ボロボロで、真っ暗な森に一人ぼっち。

 

 心も、限界だった。


 

 生きることを諦め、最後の呼吸をするように深く呼吸をする。


 

(………………香り?)

 

 

 深呼吸した時に鼻に届いた微かな香り。

 その香りを嗅いだ瞬間、再びお腹の音が鳴る。


 

 森の中に入って三日。

 

 ずっと感じなかった食物の香り。



「……たべ、もの…………っ」


 必死に身体に力を入れて踏ん張り立ち上がる。

 重い脚を動かして、私は再び歩き出した。

 


 その香りを、道標にして。



―――――――――――――――――――――――――



「明日にはこの森を出られそうですね、ウィル」


 焚き火を囲みながら一人の男がウィルと呼んだ男へ呟く。


 月隠の森の名の通り、木々によって月も夜空も見えず、焚き火の明かりが辺りを灯す。

 そんな森の中に二人の男と馬車馬一頭が野営をしていた。



「…………そうだな」



 ウィルは素っ気なく一言だけ返すと焚き火の上に置かれた鍋の様子を伺う様に蓋を取る。


 どうやら意識はその鍋に集中してるらしい。

 鍋から漂う香りが食欲をそそる。


 思わず誘惑に誘われるように顔を近づけると男の掛けていた眼鏡が曇る。



「おい、エルネスト。もう少し待てないのか」

「これでも待ってるんですよ。お腹を空かせて我慢しているんです。…………ウィル、まだですか?」

「もう少し待て」


 ウィルは手馴れたように木製の杓子を使って鍋の中の液体をかき混ぜる。


 そして少しだけ汁を掬うと味見のために口に含んだ。



「ん、もうそろそろだな」



 彼なりに納得の味だったのだろう。

 再び鍋に蓋を戻す。中の具が柔らかくなるまでもう少しといったところだろう。




 突然ガサガサと、森の奥から音が聞こえる。

 その音は二人の耳にも直ぐに届いた。


「獣、か?」

「せっかく今から食事だと言うのに。……香りにつられて来ましたかね」



 この森の中では野生の獣が出ることはよくある。

 二人は自分の近くに置いてあった剣を手にし、直ぐに抜けるように構えながら警戒を続ける。


 音はどんどん近づいていた。



「……た、べもの……っ」



 聞こえてきた小さな声。

 そして木々を掻き分けて現れた姿に二人は目を見開く。


 それは人の形をしていた。

 

 茶色の長い髪はボサボサで、衣服も泥だらけ。

 外気に露出している肌は至る所傷だらけになっている。

 フラフラ身体を揺らしながら一歩、また一歩と二人の元へそれは近付いてくる。

 

 暗い森の中から現れ何かが近付いてくる光景にエルネストは思わず恐怖を感じて叫んだ。


「お、お化けええ!!」

「落ち着けエルネスト! 冷静になれ!」



 慌てる仲間を落ち着かせるようにウィルは叱咤する。


 様子を伺っているとそれは二人の目の前まで辿り着くと、ゆっくりと倒れた。



「……人、なのか?」


 恐る恐るウィルは松明を手にしたまま、倒れた存在に近付く。明るくするにつれて倒れているものを確認出来る様になった。



「女!?」


 

 それは歳若い女性だった。

 

 きっと自分よりも若いだろう、そんな女性がこんな暗い森の中を歩いた事に驚きを隠せない。

 

 エルネストはウィルの声を聞いて慌てて駆け寄る。

 

 そしてそっと首元に手を添えると脈を確認した。


「……大丈夫です、まだ脈はあります。しかし、何でこんな所に女の子が…………」

 

 身体の様子を伺おうとそっと触れると、まるで鳴き声のような音が彼女の腹部から聞こえた。



 静かな森に鳴り響くお腹の音。

 まるで自分の紹介をするかのように元気に鳴っていた。




「………………ど、どうやら空腹…………のようですね」

「なんなんだ一体」



 突然現れた腹を鳴らす少女に二人は警戒心を解く。


 どうやら自分達の食事が、彼女をここへ呼び寄せたらしいという事だけは分かった。 



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― 新着の感想 ―
[一言] 婚約破棄……アレだよなあ 普通に異国からの印象悪いよね 王様がそんなのって 品種改良とか料理方法の研究に裂く余裕が無いならなあ
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