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幕間 夜更けの密談はワインと共に 上

リコ視点です。



 ――時刻は深夜。


 自由都市レーベンにある歓楽街。その一角にある酒場「金猫の瞳」は今日も賑わっている。

 常連の男達が酒を片手に今日の出来事や、意中の女の話に花を咲かせる賑やかな声が外にまで漏れているほどだ。


 木製の扉を開くと入店を知らせる鐘の音と同時に「いらっしゃいませー」とカウンターから声が聞こえる。


「あら、リコじゃない! 久しぶりね、元気にしていた?」

「へへっ、久しぶりだな。相変わらず店に来たイイ男共を誘惑してるのかい?」


 カウンターから声をかけ優雅に手を振るのは、この店の主であるマダム・アンジュである。


 紫色のドレスに身を包み、金色の髪と瞳が特徴の……ガタイのいい男だ。もちろんさっきの名前は偽名である。


「当たり前じゃない。この店に来る男はすべて私の獲物よ、もちろん……ア・ナ・タも」

「おー、こわ。昔みたいに凶暴な獲物を追っている時の目してるぞ、アンドリュー」

「もう! その名前で呼ばないでちょうだい!」


 口調だけは女性らしくお淑やかだが、低音で響く声を轟かせ、女装をしたオッサンがプンプンと怒っている様は強烈だ。

 そんな俺達のやり取りを見て、カウンターで飲んでいた常連の冒険者たちも大笑いする。


「悪かった悪かった! マダムはめちゃくちゃ美人だって!」

「気のいいこと言っちゃって。サービスはしないんだからね」


 ウィンクと共に返される軽口にようやく親しみ慣れたこの街に帰ってきたんだなと実感した。



「それでこんな所でのんびりしていていいのかしら? ずっとお待ちよ?」

 

 カウンター席に座り、しみじみと感慨深く思考しているとマダムが耳元に顔を寄せて囁く。

 このままエールの一杯でも引っかけようと思ったが、マダムの言葉を聞いてこの店にきた本来の理由を思い出した。


 どうやら待ち合わせの相手を既に来ていて、待たせていたらしい。


「おっと、いけない。楽しくてこのまま一杯飲んじまうところだった」

「ふふ、私としては大歓迎だけど……可愛い子犬ちゃんが待ちくたびれてキャンキャン吠えるわよ?」

 

 思わず金色の毛並みした子犬が恨めしそうに俺を睨みつけて吠える様を想像し、思わず吹き出してしまう。


「ぶふっ……! そりゃいけねえ。めちゃくちゃご機嫌とるの大変なんだ。……いつもの部屋かい?」

「ええ。ほら、いってらっしゃい。可愛い子犬ちゃんときれいな鴉さんによろしくね」

 

 はいよ、と返事と共に席を立つと俺はカウンター横の扉に入る。

 

 この扉の奥は表向きは従業員しか入れない立ち入り禁止区域だ。しかし、それ以外の人物でも例外で入れる方法がある。


 きらびやかに装飾された通路を歩く。そしていくつかある扉の中から迷うことなく一つの扉に入った。


 中は殺風景な部屋だ。

 机と椅子、そして本棚だけが置かれているシンプルな部屋。

 

「ふんふふーん……」

 

 後ろ手で入ってきた扉に鍵をかけると、適当に鼻歌を鳴らす。

 そして机の前に立つと引き出しの中から一冊の本を出した。


「金猫の秘密、ね」

 

 表紙に書かれていた表題を口にすると、脳内に先程のマダムが悩殺している姿が頭に浮かぶ。

 その恐ろしい光景に思わず背中に寒気が走り、きっぱり忘れることにした。

 

 ちなみにこの本はページをめくっても何も書かれてはいない。

 

 手にした本を持ったまま本棚へ向かう。

 上から二段目、本が一冊入りそうな空間。そこへ持っている本を収めた。


 

 ――小さく、カチリという音が耳に届く。


 そして俺は本棚をゆっくりと『横へスライド』させた。


 そこに現れたのは地下への階段だった。

 明かりはなく暗い目の前の階段を壁に手を付けながら慎重に下りていく。

 

 段数はそこまでなく、降りた先にあったのはまた一つの扉だった。

 ただし、その扉には金色の瞳をした猫の絵が描かれていた。

 


 二度ノックしたあと間を空けてもう一度ノックする。

 これは中に居る人物と決めていた、俺が来たという合図になっている。

 

 少しすると扉が開き、一人の男が立っていた


「遅かったですね、リコ」


 出迎えたのはメガネをかけ、鴉のような漆黒の髪を持った青年だった。

 俺にとって、幼き頃から共に過ごしている幼馴染みの一人だ。


「マダムに捕まってたんだよ、あの人に絡まれたら時間かかるって知ってるだろ?」


 事前に考えておいた遅刻の言い訳を口にして中に入っていく。

 そして部屋の奥、ソファーに座り俺を見つめる人物を見つけた。



「遅いぞ」



 どうやら金色の子犬はやっぱりご機嫌斜めだったらしい。

 

 その視線は紛れもなく遅刻した俺を睨みつけていた。




読んで頂きましてありがとうございます!

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