チキンのトマト煮は仲間の証 11
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――あと少し、煮立てれば完成。
鍋から一掬い取り、少し息を吹きかけて冷ましてから味見をする。
この店を開店させてから変わらぬ味に満足して、火を止めた。
明日からこの緋色の小鳥亭は生まれ変わる。
全ては森で出逢った一人の女がきっかけになった。
最初腹を鳴らしながらズタボロで現れて、飯を食わせたと思えばエルネストがうちで働かせると言い出した時は何を言ってるんだと驚いたし憤慨もしたが、この一週間ずっと彼女は店の為に一生懸命働いてくれたと行動を見ていて素直に感じた。
ただ好きな料理を作って、ついでに客に振舞えばいいと思っていた俺とは違い、マイアは新たに訪れるだろう客の事を考えながら店を一つ、また一つと作り替えていった。
「一人でも多くの人に俺の作る料理を知ってほしい」と、願って。
また当の本人も俺が毎食料理を作る度に、嬉しそうに美味しいと言いながら食べてくれる。
俺としても、こんなにも気に入ってもらえると作り甲斐があるというものだ。
だからこそ今日という日に、これから共に働く新たな仲間を歓迎するために今作っているうちの看板メニューを出そうと決めていた。
そして店と同じように、このメニューも生まれ変わらせたいと思ったのだ。
用意していた皿に、これまで客に提供していた様に盛り付けをしていく。
そして最後に、これまでとは違う新たなひと工夫を追加した。
「――これが、うちの新しい看板メニューだ」
出来上がった料理が思い描いてた通りの出来栄えになり、思わず口元が上がってしまう。
きっと三人ともホールで腹を空かせて待っているはずだ。
俺が出来る、密かな歓迎の形。
どうかエルネストとリコには気付かれないように、と切に願いながら俺は料理を運び始めた。
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