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チキンのトマト煮は仲間の証 7

 改装作業は主に外壁の修繕と看板を作る作業だった。

 力仕事である外壁は男性三名で行い、私は看板作りの役目を請け負うことになった。



「どんな看板にしよう……」



 材料の木材を目の前にして、顎に手を置きながら自分の考える看板を脳内に思い描く。

 やはりひと目見て飲食店だと分かるようにするならイラストを描いたほうが良いだろう。

 あとは来てくれたお客様が店を忘れないでいてくれるように、モチーフを付けるのもいいかも。



「んー……お店の名前が、緋色の小鳥亭……」

「なーにやってんのー」

「ひゃっ!」



 突然後ろから肩を叩かれ驚きから大きな声が出てしまった。

 慌てて振り向くとリコが覗きながら楽しげに私を見ていた。



「お、お疲れさまです。びっくりしました……」

「ごめんごめん。マイアちゃんが真剣な表情で考え事してたからさ」

「お店の看板を描こうと思いまして、どんなものにしようかな……と……」



 ふとリコを見て私は思い出す。


 先程彼の肩に止まっていた赤い小鳥の存在を。

 今、彼の肩には何も存在しない。



「あ、あのリコさん! さっき肩に小鳥乗せてましたよね」

「いたよー。今はウィルのところにいるんだよねー。まったく飼い主は俺だっていうのにつれない存在だよ」

「珍しい色した小鳥さんだったので、このお店の名前と同じだなって」

「そりゃそうだよ。この店の名前はプリムが由来だからな」

「そうなんですか!?」


 

 プリムとはその赤い小鳥の名前だそうだ。

 

 この店が開店する少し前、店の近くで弱っていたその小鳥をリコが見つけてこの店で世話をしていたらしい。

 ウィルが作った餌を食べて元気になった小鳥はそのままリコと暮らすことになったそうだ。



「ここに住みたいって駄々こねるのを何とか言い聞かせたんだよな。本当に懐かしい」

「あら、ワタシはまだ諦めてないわよ! 今だってずっとウィルの傍にいたいんだから!」


 リコがしみじみと思い出話しを語っていると、室内に突然可愛い女の子の声が響き渡った。


 一瞬お客様が入ってきたのかと思い入り口を見てみたけど誰も居ない。

 気のせいかなと首を傾げていると、いつの間にか直ぐ側に話題の小鳥がそこにいた。


 美しい赤色の羽が鮮やかに見える。

 黒い瞳も大きくて、とても愛らしい。

 

 小さくて黒の趾が目の前まで見えて……そして何故か勢いよく私の額を蹴っていた。



「いたいっ!」



 爪が当たり思わず額を抑える。


 な、何故私は今攻撃された?

 流石に鳥だけど食用として見ていたりなんてしてないよ!



「貴方、ウィルのなんなの?」



 また女の子の声が聞こえる。

 もしかして、この店には女の子の幽霊でもいるのだろうか。


 目の前のリコさんには何の変化もない、私にしか聞こえないのだろうか。



「リコさん。ここ、何かいます。お、女の子の声が……ゆ、幽霊が!」

「誰が、幽霊ですって!?」



 怒りに満ちたような声と同時に再び小鳥が私の頬へ趾を押し当てる。

 まさかと思い、私はじっとその小鳥を恐る恐る見つめた。



「こら、プリム。女の子の可愛い顔に傷つけたら駄目でしょ」

「なによリコ! アンタはワタシの飼い主でしょ?」

「その飼い主を放置してウィルにベタベタしていたのはどこの鳥ですかー?」

 

 

 再び蹴り出しそうな勢いを見せる小鳥をリコが手慣れたように捕まえる。

 しかし、その後私の目の前で人間と鳥が会話をし始める異様な光景を目の当たりにしてしまい、驚きを隠せない。



「と、鳥が……喋ってる……!」

「お前なー、いきなり攻撃したからマイアちゃん怖がってるじゃないか。ちゃんと謝れよ」

「何が謝れ、よ。私はウィルに近づくメスを排除しようとしただけよ」



 見た目の可愛さとは裏腹に語られる言葉が辛辣すぎる。

 睨みつけてくる視線が痛いほど突き刺さってくる。



「ごめんな、マイアちゃん。痛かっただろ? こいつがプリム。俺のペット……ということになってるけど、まぁこうやって喋る変な鳥だ」

「変とはなによ! 失礼しちゃうわ!」

「ほ、本当に驚きました。……魔法、ではないんですよね」

「うん。拾った時から喋っていたしな。何処から来たか覚えてないっていうし……まぁ、面白いやつだからペットにしてみたんだけどな!」



 あっけらかんとしながら語るリコとは対称的にプリムは未だに私に攻撃しようと掴んだ手から逃れようとしている。

 どうやらプリムはウィルのことが好きらしい。



「大体アンタはウィルのなんなの!」

「ウィルの……というか、二人に拾われまして、行く宛も無いからここで雇ってもらうことになったんです。ウィルとは……雇い主と従業員、ですかね」



 ここの店長はウィルになるのだから雇用関係にあると言えるだろう。

 それにしては服を買ってもらったり、部屋を貸してもらったりと養ってもらってるようにも思えてしまう。



「じゃあ……恋人ではないのね」

「ま、まさか! まだ出会ってすぐですし! あ、ウィルの料理のファンではあるかも。美味しいもの、ウィルのご飯」



 考えてみれば私がここで働きたいと思ったのはウィルの作る料理が食べたかったからだ。


 するとその言葉を聞いたプリムの鋭い視線が消える。

 落ち着いたのを確認してリコが離すと、器用に飛んで私の元に戻ってきた。



「あら、貴方なかなかいい舌を持っているじゃない。ええ、ウィルの料理は世界で一番美味しいのよ! ワタシがこんなに元気になったのもウィルがご飯をくれたからだもの!」


 羽根を大きく広げ、嬉しそうに語るプリム。

 きっと拾われた時にウィルから餌を与えられて、彼を慕うようになったのだろう。


 そう考えると彼女の先程の行動も、嫉妬からくるものと思ったら何だか可愛らしく思えてきた。



「でもそんなに大好きならどうしてリコさんと一緒にいるの?」

「それはだな……」

「ウィルが駄目っていうんだもの。ワタシ、ずっと彼と一緒にいたいのに!」



 プリムは大きな瞳を潤ませながら嘆き悲しむ。

 確かにあのウィルの性格ならキッパリと言いそうだ。

 そんな事を考えていると扉から当の人物が店内に入ってきた。



 笑顔を見せてるはずなのに、誰から見ても怒っていると分かるほど、眉間の皺を深くし、青筋を立てて。



「お前ら……こっちは必死に働いてるっていうのに、サボりか? 余程食事はいらないらしいな」

「い、いや俺は少し休憩してただけで……」

「ウィルー!」



 慌てる飼い主とは大違いで恋する乙女のプリムは勢いよく想い人の元へ飛んでいき、ウィルの肩に止まると甘えるように頬へ擦り寄る。

 しかしウィルの怒りは簡単には収まらない。



「プリム、邪魔だからくっつくなって言ってるだろ。というかお前の飼い主に早く戻れって、伝えてこいと俺言ったよな?」

「ええ、聞いたわ!」

「だったら何でここで団欒してるんだ」

「ウィルはワタシのものだって、そこの新人に言い聞かせるためよ!」

 


 すごい、恋する乙女は強い。

 

 きっと怒っているウィルさえ彼女にはかっこよく見えているのだろう。

 


 しかし、私を巻き込むのは止めて欲しい。

 突然私の話題になり鋭い睨みがこちらにも来たので、思わず目をぎゅっと閉じてお叱りに備える。



「飯食いたかったら早く終わらせるぞ」



 ウィルの大きな手は私の頭を乱雑に撫でる。

 整えていた茶色の髪はきっと崩れて、ボサボサになってしまっただろう。

 


 でも、予想していた怒りはなくて突然の彼の行動に呆気にとられるも、改めて頭を撫でられたと実感すると、恥ずかしさが込み上げてくる。



「あれー、お叱りは俺たちだけー?」

「ウィル、ワタシも撫でて! 撫で回して!」

「お前らはうるせえんだよ!」

 


 リコの服を掴んで仕事をさせようと引っ張るウィル。

 彼に着いていこうとするプリムを見て、ふと私は声をかける。



「プリム待って! お願いがあるの!」

「……なによ」

「看板にプリムの絵を描きたいんだけど、モデルになってくれないかな」



 そう、私の今日の仕事は看板を作ること。

 せっかくこの店の名前がプリムから取ったなら、プリムを看板に描けばいい。

 どうせなら見ながら描けばいいだろうと声を描けたのだ。



『何でウィルのところに行くのを邪魔するのよ』と言わんばかりの鋭い睨みを受けていると思わぬ助け舟が来た。

 


「くっついて仕事のジャマになるからそこでモデルやってろ」



 と、鶴の一声ならぬウィルの一声を聞いて「わかったわ!」と即座に機嫌を直し、返事を返してきた。



 とても見覚えのある光景だった。

 ペットは飼い主に性格が似てくると聞いたことがあったけど、この場合類は友を呼ぶが正しいかも知れない。





「ダメダメ! こんなのワタシじゃないわ! もっと可愛く描きなさいよ!」


 その後、プリムをモデルにして必死に絵を描くけどダメ出しの連続。

 結局最後にウィルの「これでいいんじゃねえの」の軽い一言でプリムも満足し、ようやく新しい看板は仕上がった。



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