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異世界転移でホムンクルス無双  作者: 雪川フフ
第一章 いざ異世界へ
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#07 もうあいつ1人でいいんじゃないかな?

 レンから発せられる威圧感に本能からか後ずさりするオークたちにフィオーレの容赦ない一撃が迫る。

 エルフ特有のスキルなのか、聞き取れない言葉で詠唱した後に射た矢は鏃が翡翠色に光り輝いており、とんでもない速さで突き進む。音を立ててオークに突き刺さったそれはまさかの貫通し、その後ろにいたオークまでもを貫いた。

 一瞬動きが止まり、すぐに穴が開いた場所からは謎の植物が生え出てきた。太い草のようだが同時に巻きつくようにしてオークを締め付け、万力で締められたオークは最終的には汚く弾けた。

 これには双子の冒険者もドン引き。顔色が悪い。片方は口を押さえている。オエッ


「今のはエルフのスキルかなんかか?」

「そうよ。お考えの通り、エルフの固有スキルで【促退そくたい操作】って言うの。一度触れた植物ならその成長を早めることができるの。その逆で成長を戻すこともね」


 そう言いながら矢筒から矢を取り出しては射つフィオーレによって、そこらは血肉の海になっていく。矢の先端をよく見ると微小ではあるが何かの種が付いている。

 おそらく、本来であれば作物の収穫時期を早めてサイクルを効率よく回すためのスキルだろうが、在ろう事かそれを使って相手の肉を苗床に種を急成長させて内側から飛び出させるという恐ろしい所業。どうかエルフ全員がこんな過激派ではないことを望む。


 フィオーレに加えて全くの無表情で炎の弾丸を乱射するルージュもいるので、戦闘を開始してたったの30秒ほど、それだけで地獄絵図が広がる風景となった。レンは最初の一匹以外は何もしていないし、双子に至っては両方吐いている。何故そのSAN値でCランクになれた?


「ふぅ、片付いたね。ルージュ、援護ありがとう」

「いえ、あなただけだと長くなりそうだったので。主様、どうされますか?」

「まぁオークの集落潰すしかないだろうな。うん、そうしよう。フィオーレとルージュは仕事をしたし、双子はSAN値が限界突破してるから戦力外。よって俺が行ってくる」


 何故かフィオーレに対して当たりが強い気がするが、それは置いといてレンは集落へと進もうとした。その肩をフィオーレが掴む。


「ちょちょ、ちょっと待って?え、一人で行くつもり?一人で行って勝てると思ってるの?いや、たしかにさっきの蹴りは凄かったけど、それでも一人で行くなんて自殺しに行くようなもんだよ!」

「黙って見といてくれ。要は豚だけ吹っ飛ばして捕まってる人は生かしとけばいいんだろ?いける、いける気しかない」


 刹那、フィオーレは思った。

 あ、これ何を言っても無駄なパターンだ。こういう目、他でも見たことあるなぁ。でもって大抵の人はボコボコにされてるんだよねぇ、と。

 いくら業物を帯刀していたとしても、ギルドに登録したてホヤホヤのEランクの冒険者が大規模なオークの集落を単独で落とせるわけがない。そんなことができれば今までの自分の苦労に疑問を持たずにはいられない。


 最早、説得を諦めたフィオーレはレンの肩を掴む手の力を緩めルージュを見る。自分の主は強い、そのことを知っているので不思議そうにフィオーレを見返す。この女、どういう思考回路で主の肩を掴んでいるのか、と。


「じゃあ、行ってくる」


 まるで、「ちょっとトイレ」とでも言うかのように静かに、しかし素早く斜面を駆け下りて集落へと向かうレンを見送るルージュとフィオーレ。姿が見えなくなって数秒後、下の方からは悲鳴や叫び声、鳴き声、怒声等、絶望と恐れが入り混じった声が聞こえた。


「それでは、私は主様が倒したオークの片付けをするために行きますが、あなた方はどうされますか?」

「……へ?あ、そうね。私もついていく。この二人は…ひとまず放置かしらね」


 未だ顔を青くして嗚咽を漏らす双子を横目にフィオーレとルージュは集落へと向かった。近くにつれ血の匂いは濃くなり、声も大きくなる。やっと集落の入り口から中身が見えた時、フィオーレは目を丸くした。そこに広がるのは、先程自分たちが作り上げたのとは比べ物にならないほどの地獄。四肢が、頭が、半身が吹き飛んだり、大きな穴が空いた状態のオークの死体がそこら中に見える。しかも、おそらくあの刀は使っていない。何故ならば、集落の入り口にホオヅキが立てかけてあったからだ。何故こんな行動に出たのかはわからないが、フィオーレが一つ言えることはーー


 あの少年は、自分とは比べ物にならないぐらい強い



 ▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽



 殴り、蹴り、掌底、裏拳、肘鉄、膝蹴り、回し蹴りに踵落とし、次々に繰り出されるただの暴力により、オークたちは一瞬にして肉へと変わっていく。

 レンの右手から繰り出される掌底は容易にオークの腹に穴を開け、余波だけでも周りにいたオークも吹き飛ばす。掌底の後で隙ができたと思いきや、明らかに不自然な体制から繰り出されたムーンサルトキックはしっかりと豚頭の脳天を捉え、豚鼻のついた顔面を土にめり込ませ、周囲の地面に亀裂を入れる。

 巨大な棘が生えた棍棒の一撃をかがんで避けると今攻撃してきたオークの足を掴みそのまま武器として振り回す。オークでオークを攻撃するという暴挙に出るもあっという間に手に持っているものは足だけになってしまい、そこから先は無くなっている。


「貴様ぁァァぁ!」


 両刃の大剣を大きく振りかぶった、おそらく隊長格であろうオークに急接近し、渾身の右アッパーが放たれる。それだけでオークの上半身は消し飛び、大剣が高く高く宙を舞う。半狂乱と化したオークたちは恐れを捨てて全員同時に攻撃するもレンはそれを垂直跳びで避け、未だ空を舞っていたオークの大剣を掴み空中で一回転すると振り下ろしたまま落下した。レンの全力で地面に叩きつけられた大剣は一瞬にして自壊するも、とんでもない風圧と衝撃波は攻撃を空ぶったオークたちを粉砕した。


 粗さはあるものの、Eランクとは思えない殲滅力。奥に行けば行くほどオークの数は増え、強さも増す中、平然と力を振りかざし、圧倒的な差を見せつける。それはまさに一騎当千と言っても過言ではなかった。


 事実、レンは地球にいた頃、ある事件に巻き込まれたことがある。今ではなかなかお目にかかれない、極道同士の抗争。もちろん、レンは全く彼らの両方の組に関係なかった。しかし、偶々怪我の手当てをした男が片方の組長であり、偶々手助けをしなくてはならない状況に陥ったのだ。その時、レンは今のようにはならなかったものの、銃を持ち、刃物を持つ厳つい男たち相手に一人で立ち向かい(経緯は不明)、なんと勝利してしまった。その時から彼はワンマンアーミーやら暴力の化身やら暴王やら不名誉な二つ名で呼ばれたことがあるのだ。幸いにもこのことを知っているのはレンが助けた組長が率いる組とその相手、一部の人間に限られる。ちなみにいうと、当時のレンは中学2年生だった。


 閑話休題。


「貴殿は何者だ?その力、人間としておくには勿体無いな」


 どこからともなく今までのオークとは違い滑らかに聞き取れる低い声が聞こえた。フィオーレでもルージュでもない。レンが振り向くとそこにもオークが立っていた。しかしその風貌はレンの近くにいる他のオークとは違い、黒紫のような鎧を着て、街の騎士が持っていたかのような剣を持っていた。


「勿体無い、ね。褒めてもらえて光栄だ。だからといってあんたら(オーク)みたいなのになるのはお断りだけどな」

「念話が入りすぐさま途切れたが故にこうして来て今までの貴殿と我が配下の闘いを見させていただいた。流れるような体捌きに加えあの威力、見てから動ける反応速度、あの戦闘を入り口からここまで続けても疲れを見せないそのタフネス、SランクかAランクの冒険者か?」

「やけに冒険者に詳しいな。だが、残念ながら昨日登録したばかりのEランク冒険者だ。期待に添えず悪いな」


 レンの言葉に驚いたのか、鋭く細い目を見開くも、すぐに元に戻る。


「それでEランクなのか。人間はおかしく感じてしまうな。ならば尚更、これ以上育つ前にこの場で摘み取ってしまいたい」

「脅威になり得るから先に殺しときましょう、ってか。来い、相手してやる」

「その心意気に感謝する。我が名は今代のオークの王、アウェルムだ」

「ただの人間のレンだ。さぁ、始めようか」


 名乗りを上げた2人が踏み込む。同時に両者の踏み込んだ場所には小さいがクレーターができる。居合斬りのようにしたから上へと斬りはらうアウェルムの斬撃を避け懐に入り込む。遠心力を利用して放たれた裏拳は他のオークからすればひとたまりも無いが、アウェルムは違った。吹っ飛びもせず、それどころか鎧が砕けることもない。アウェルムは左手に持った小剣でレンを刺そうとするも、レンはアウェルムの股の下をくぐり後ろに回ってこれを回避する。


「やけに硬い鎧だな。どこに売ってるやつだ?ドンキとかか?」

「ドンキとやらが何かは知らぬが、これは我が主人、魔王様より授かった品だ。衝撃を吸収し、我のすべての力を大幅に底上げしてくれる」

「この世界、魔王とかいんのかよ」


 振り向きざまに上段から剣を振り下ろすもまた空振り、レンは一旦距離を取る。あの鎧が全ての力を上げていると言うのならばあのように踏み込みだけで地面を陥没させても不思議ではないし、オークの王と自分で言うのだから魔王と直接繋がっていてもおかしくない。


(しかし魔王がいるとか、本当にゲームみたいな世界だな……ってことは勇者もいたりするのか?)


 実際、レンが考えていることは当たっており、過去に別の世界から勇者が召喚されたなんて記録もある。その時の勇者は化け物並の強さで敵を圧倒し、当時の魔王を打ち滅ぼしたと言う。その後の勇者の行方はどこの記録にもないが、魔王だけは復活している。


 再度接近して今度は真正面から思い切り殴りつけるも少し後ろに傾いただけで、衝撃吸収の力を持つ鎧を着るアウェルムには全くダメージが通っていない。

 そこでレンは、地球にいた頃に読んだ漫画であるキャラが言っていたことを思い出した。


『衝撃無効ではなく吸収ならば限度があるんじゃないか?』


 無効は一切の衝撃を無かったことにしてしまうものだ。しかし、吸収であるならばその衝撃は蓄積され、いつかは上限が来る。それまで殴り続ければいい。最強の脳筋思考。


 思い出したが早く今までとは比にならない速さで接近し、同じ一点のみを殴っては後ろに周り、蹴って避けてを繰り返す。自らの周囲を目にも留まらぬ速さで巡るレンを、アウェルムの強化された動体視力でも追いつくことはできない。そして遂にーー


「やっと割れた!」


 大きく振りかぶったフォームから突き出されたレンの拳はヒビが入ったその一点を殴り、その瞬間ヒビは全体へと広がり、鎧は弾けるように割れた。もう自分を守ってくれていた衝撃吸収の鎧はなく生身を露呈させたアウェルムの腹にレンの鋭い左拳が突き刺さる。

 ここでもさすがオークの王、他とは違って肉は弾けず、しかし大きくバウンドして後方へと吹っ飛んだ。近くに散らばった鎧の破片からは淀んでドロドロになった瘴気のような魔力が流れ出ている。初めて感じる気持ち悪さにレンは顔をしかめた。そしてもう一つ、感じたことのあるような雰囲気……


「ぐぅ……魔王様より授かった鎧を素手で…」


 アウェルムは「息も絶え絶え」を体現しながら喋り、口から大量に吐血した。おおかた先のレンの打撃で内臓が弾けでもしたんだろう。身体中ボロボロになっており、左腕は肘から先がもげてしまっている。もう戦える状態ではないことは誰から見ても明らかだ。


 アウェルムはそれでもフラフラになりながら立ち上がろうとするが、もはや足に力が入らないのだろう、すぐに座り込んでしまった。空を見上げながら、刃折れした剣を地面に突き立てた。


「今この場で戦える配下は全て死に、我自身も完敗した。よもや何も言うことはない。貴殿の勝ちだ」


 そう言い切ったアウェルムの目は先のオークとは違い、憑き物が落ちたような澄んだ目をしているように、そうレンには見えた。


「最初で最後の頼みをさせてほしい…貴殿の手で、我に最後を迎えさせてほしい。貴殿ほどの男にならばそれもいいと思ってしまう」

「…あぁ、わかった。だが、少し聞きたいことがある。ロキという神を知っているか?もしくは魔王の口からその名前を聞いたことがないか?」


 レンは考えた。もしかすると、魔王は何かしらの方法でロキと繋がっているのではないか。砕けた鎧の破片からは淀んだ魔力ともう一つ、前世で最後に感じた雰囲気も流れ出ている気がしたからだ。案の定、アウェルムはロキの名を聞くとレンを見返した。


「貴殿の口から彼の方の名が出ようとは…知っている。我らが使える魔王様はロキ様の直属の配下だ。しかし…何故貴殿がそれを?」

「行ってしまっても構わないか。俺は異世界人だ。こちらの世界に来る時、ロキ(あいつ)と取引をした。死ぬ寸前だった俺を異世界で生かす代わりに、その時が来れば俺に働いてもらう。そんな感じだ」


 アウェルムは少し考え込むようにした後、震える手で一枚の地図をレンに手渡した。


「そこに書かれているコロイヤという街に行ってほしい。その街の中に、魔道具を専門に取り扱う小さな店がある。そこの老店主に話を聞け。もう…我には時間がない。我の名を出せば…話してくれる筈だ…ロキ様の目的が…だから…どうか…」

「わかった、ありがたく受け取る」


 地図をコートのポケットに仕舞おうとするレンの手を、アウェルムが弱々しく掴んだ。


「どうか…貴殿ならばこの世界を…いや、全てを救える…頼んだ…」


 その言葉を最後にアウェルムの目からは光が消え、手は力なく下がっていった。結局、レンがトドメを刺すことはなく、アウェルムは最後の頼みをレンに伝えこの世を去った。

 レンは大きく息を吐きながら振り返ると、どんよりとした重そうな雲に覆われた空からはポツリポツリと雨が降ってきた。雨はあっという間に強くなり、コートは雫を弾く音が聞こえる。


「救える、か…そんな善人じゃないんだけどな」


 呟いた声は雨音にかき消された。




 [称号を獲得しました 表示します]



 ステータス


 名前:篠原蓮

 種族:人間

 称号:〈喧嘩師〉〈一騎当千〉NEW〈暴王〉NEW〈一人軍隊ワンマンアーミー〉NEW

 スキル:【言語翻訳】【人造人間ホムンクルス】【全属性魔法】




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